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第二章-3 アンノウン74・非ず

 雅紀の探し人はかなり気まぐれだ。

 ある時は公園で、ある時は屋上で、時には人混みの多い遊園地――の裏手、トイレの個室にいたこともあった。

 条件は必ず一人でいること。そうすれば遭いたくなくても会える。

 それを元に、平日にはほとんど誰もいない古びた公園に向かった。


 そこには疲れ果てたサラリーマンが一人ベンチでぐったりしていて、もう一人老人がよぼよぼと散歩をしていたが、すぐに誰もいなくなるだろうと踏んだ雅紀は適当なベンチに腰を下ろした。

 程なくして、サラリーマンは時計を見るや慌てて何処かへと走り去り、老人は忽然と姿を消していた。


 これでこの公園には一人となった。

 それも一瞬ではあるが。


「分かってるんだろ?」


 雅紀がスッと立ち上がり、背後に忍び寄る者に問いかけた。

 雅紀の髪が揺らいだのはそのすぐ後だった。


「おやおやユーモアの欠片も無い。「だーれだ?」は気づかないのがセオリーだよ?」

「そうやって寝首狩られた日にはお前が即刻処分されるよう恨んでやる」


 予想通りの声で返答があったことに溜息を吐いて雅紀は振り返った。

 そこにはあの時からの付き合いであるペテンが全く同じ奇抜な格好でおどけていた。アンノウンであるから歳を取らないと言うが、こいつの場合は幾らでも歳をカモフラージュできそうな気もしなくはない。


「まぁ座りなよ。制限時間は4分ほどかな? さぁ何から話そうか? 昨今の政治事情? お気に入りのランチ? 来週の『行っとく田舎町』の話でもするかい?」

「何が話したいか分かってるだろ? 早く話せ」


 ベンチから立った雅紀の代わりに座ったペテンは足を組んで隣に座りなよと誘うが、雅紀はそれに乗らず、話を進めようとする。


「ふーん……前々から言っているけど。本当にいいんだね?」

「お前が面白くないのは知っている。だが、俺はお前がどんな考えで動いているか知らないが、俺は俺の目的でお前を利用する。あの時悪魔の手を取ったことに後悔はしていない。それで俺の願いが叶うなら、な」


 ペテンは親切心で雅紀に手を差し伸べた訳では無いことを、彼自身はすぐに理解することとなった。

 彼がエンブレムと関りを持つようになってからもペテンは度々彼に助言を与えた。

 始めは有益な物ばかりだった。TOP3に気に入られる為の方法。どのアンノウンが有益か。UWSが雅紀の所有していた永劫の引き出しを狙っている時も、一早く知らせてくれた。


 しかし、有益な情報は長くは続かなかった。

 事あるごとに遭遇してはどうでもいい情報を垂れ流すようになり、遂には悪い予言をするようになってきた。先に言ってくれるなら回避も可能だと始めは聞き流す程度にして注意を払っていたが、どんなに警戒したところでその予言は当たり、彼に幾つもの不幸が降り注いできた。もっとも、彼は一番初めから最悪の不幸を貰っていた訳だが。


「なら言っちゃおうかな~?」

「言え。どうせろくでもない事だろうが、それで今の悩みが解決される可能性もある」


 重傷を負うか、叱責を食らうか、佳澄から瀕死ギリギリの一撃を食らうか。どんな予言が来ても彼は甘んじて受ける気でいた。その予言が何処で起きるかさえ知れば、どのように起きるかさえ知ることが出来れば、肉を切らせて骨を断つ事で万事解決することが出来る。今までそうやって全て成し遂げてきたのだから。


「そうね。時間も無いし言っちゃおうか」


 そう成し遂げられると思っていた。


「君は復讐心よりも重要な物を見つける」


 全く持って意味が分からない予言だった。

 それは果たして予言なのか? TVの隙間時間や雑誌の一部に取り上げる星占いよりも大雑把で理解しにくい未来予測。

 これには雅紀も理解が出来なかった。


「俺が、復讐以外を、優先する、だと?」


 自身を否定されるような物だったからだ。

 悪魔(ペテン)に人生を売り払ってまで買った地獄のような世界での苦しみ。

 それもこれも、あの未知生物(アンノウン)への復讐を果たす為。

 それが、終わる?


「ふざけるな! 俺が何の為にこの世界へ踏み入ったと思っているんだ! そんな戯言で俺を騙そうとしているのか⁉」


 雅紀はペテンの胸倉を掴みかからんとする。やろうと思えばここでガラス片の餌食にすることもできた。

 ただ、そうしても何も変わらない。

 そのことを雅紀も既に理解しているし、何よりペテンがそれを楽しんでいるのが間近で確認できた。


「騙す? 僕と君との仲じゃないか。嘘なんてつかないよ。事実が起きるんだから」


 そう事実になるのだ。どんなに避けようと思っても。

 それでも受け入れることは出来ない。今回の事件に関する断片でも掬いに来ようとした報いか? はたまた、最初から――ペテンに出会ったあの時から決まっていたアンノウンの宿命か。


「お前は俺に何を」


 言いかけた瞬間だった。

 頑なに拒んでいたペテンの相席に応じるようにベンチへと腰を、体を打ち付ける雅紀。その姿を見て、ペテンは思い出しとばかりに右手の拳を左手のひらに叩き付けた。


「おおっと、いけないいけない。もう4分だね。君と話せなくなる時間がやってきてしまったよ」

「そういう、ことか」


 4分後に誰か邪魔が入るから話は打ち切られる訳では無かった。

 4分後に、雅紀が話を出来る状態ではなくなるから話が打ち切られるのだと、変えようがない時点で理解する。


「それじゃお休み雅紀くん。君に復讐以外の重要な生きる道があらん事を」


 ペテンの予言に抗う事はもはや不可能なまでに、雅紀はアンノウン12の操り人形へとなり果てていた。


 先程いたベンチに横たわる死人寸前のサラリーマンの如く、雅紀はベンチで横になった。

 そして起きた時も同様に、慌てるのだろう。

 最後の思考が、途切れた。

 アンノウン48・乱れた地盤 危険LV3


 調査報告

 アンノウン48は埼玉県に実在する幅4メートル、高さ4メートルの廃トンネルである。トンネルとは言うものの、昔は大きな排水溝として使用されていたようでその形は円形になっており、車が通り抜けることは出来ない。

 全長は定かではなく、300メートルくらいの時もあれば、2時間以上歩いても出口に辿り着けずに戻ってきたと言う例もある。


 このトンネルは心霊スポットとしても有名であり、数多くの若者が肝試しに来ては行方不明になると言う事例が後を絶たない。しかし、行方不明になる理由は別にある。

 このトンネルを通っている者は前後左右、そして上下同じ光景にいつの間にか自身にかかっている重力がどちらに向いているのかが分からなくなる。大抵は身体の重心線がずれる程度に収まるが、偶に重力が上下逆さまになる時があった。


 そのままトンネルを出てしまうと、空が地となる。

 結果、辿り着く地も無いまま、その人物は行方不明となってしまう。

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