天の声聞く地上の愚者ども。
『アイアンブラッド』は、誰にも人気の大ヒットゲーム――というわけではなく、一部コアなファンに支えられている没入型VRMMOだ。
酷いゲーム性が一時期話題になったが、熱が冷めた今でも不思議とサービス終了しないゲームとしてゲーマーの間では名が知れている。
主にこのゲームのなにが酷いかって、アイテムを巡って裏切りに争いは当たり前。
ステータスが存在しないため、一般的に死ぬような一撃を受ければ熟練者だろうが容赦なく死ぬ。
このゲームの肝である能力を得るためにはダンジョンに潜らないといけないが、そのダンジョンの難易度がおかしいなどなど。
死にゲー、マゾゲー、クソゲーという評価をよく見かける。
やってる奴は正気じゃない、あんなゲームをやる時間がもったいないと、そんな意見も散見するくらいだ。
今時珍しいほどプレイヤーに厳しいゲームだしな。そう評価されるのは仕方がない。
チュートリアルがあるだけで運営の良心を感じるのは、すでに毒されてる証拠だろうか。
序盤の敵でも殴ってれば勝てるわけではない。
敵も当然技能は使ってくるし、AIもかなり高性能なため、しっかりこちらの職業を見定めて攻めてくる。
初期装備は柔いし武器はなまくらだしで、ろくに防げないし攻めれない。
本当に序盤は運と実力で生き残るしかないのが辛かった。
何度死んで最初のダンジョンを突破したことか……。
例に漏れず、俺がこのゲームに付ける評価はマゾゲーだ。
こんなゲームを長時間やるような廃人なんて、精神ぶっ飛んでるとしか思えない。
……とは言え、俺もよく続けてるよなあ。飽き性の俺が、このゲームだけは長続きしている。
その辺のダンジョンすら気軽に行けないくらい難しいし、味方に裏切られた時は腹立つし、ゲームをやり終えた度に疲労感が凄まじいのだが、それ不思議と楽しいんだよなあ。
やだ、俺ってもしかしてマゾだったのか? 自分ではサディストだと思ってたのに。
公式ホームページのお知らせなどを眺めつつ、始めた頃を思い出しながら懐かしさに浸っていると、流し聞きしていた話が途切れた。
「……だから、この作戦でいこうと思う。ダリオ君! さっきから反応がないが聞いてるのか?」
「あ? ああ、聞いてる聞いてる」
このパーティのまとめ役、ガウディールに睨まれた。
騎士の能力を活かすためか、防御重視の白い鎧騎士という見た目で、腰に剣を下げ、左手には白銀の大盾を持っている。
短髪の金髪に青い目の美形キャラと、見た目は正統派な騎士って感じで悪くないんだが……。
なんだろうな、こいつにリーダー面されるとすごい腹立つ。
いや、実際このパーティのリーダーだけどさ。合ってるんだけどさ。
上から目線で話されるとすごい腹立つ。
というか話がなげぇんだよ。
ダンジョンの攻略法だのなんだのと話していたが、要点しっかりまとめとけよな!
今回攻略予定のダンジョン『堕神の寝所』前での打ち合わせは、もう一時間くらい前から始まったんじゃないか?
『堕神の寝所』は沼地の外れにある、朽ちた神殿のような入口から入るダンジョンだ。
立地のせいか殺風景だし泥臭いし不潔感あるし、その上ろくに敵も湧かないしで退屈の一言に尽きる。
景色にも話にもすっかり飽きて、普段見ない公式ホームページを隅から隅まで眺めてた挙句、昔を懐かしむくらいは暇を持て余していたところだ。
よくもまあ、初対面ばかりのパーティで長々話し込めるもんだよ。
他の連中からも文句はちらほら聞こえたが、それでもパーティから離脱しないで残ってくれている。
人の良い連中が集まって良かったなガウディール。人によっては長話に切れて殺されてたんじゃないか。
「前金は払ったんだ。ダリオ君にはしっかり働いてもらうぞ?」
「へいへい。お任せあれ、ガウディール殿」
俺はお前から金を貰う手筈がなかったら、真っ先にパーティを離脱していたところだ。
「あんた、本当に役に立つの?」
アネットが疑うように聞いてきた。
薄桃色の髪をツインテールにしており、可愛い顔しておきながら口調は生意気で不躾な印象だ。
褐色肌が目立つ露出の多い格好をしており、長剣を背負っている。
職業は戦士だな。
胸はないし口うるさいし露出狂だしで、あまり好みじゃない。
「別に使えないと思えば外せばいい。『鑑定』や『探知』持ちの盗賊を他に探せよ。
ただし、キャンセル料は貰うけどな」
「ふん、その大口通りに働いてくれればいいけど。索敵ミスらないでよね」
「安心しろ露出狂。俺は対価に見合った仕事はするぜ」
「ちょっと! 誰が露出狂だって!? 良い能力が付いた装備がこれだったのよ!
好きでこんな馬鹿みたいな格好してないっての!」
ほう、良い能力付きの装備は中々レアだ。
装備品にしか付かない能力もあるしな。それを装備しないのは馬鹿だけだろう。
しかしそれを差し引いても、アネットの鎧は胸、腰回りの最低限の面積しか隠れていない。
他の武具も武具というより装飾品のような見た目だ。
割合として服より肌の方が出ている。これが露出狂でなくてなんだというのか。
「はっ、てっきりそういう趣味なのかと思ってたぜ」
「笑ってんじゃないわよ! もう、嫌な奴ね!」
「いやいや、笑っちまうしかねぇだろ」
「お前たち、喧嘩はよせ。これから挑むダンジョンは高難度なんだぞ。
パーティの連携が要になるんだから、まだダンジョンに入ってもいないのに仲違いするな」
「かっかっか! なぁに、こやつ口と態度は悪いが仕事はきっちりこなすぞ?
金さえ払えばな。金だけが友達みたいな奴じゃからのぅ」
爺臭い口調のキャラを演技するのは、俺をこのパーティに誘った張本人、ジンカイだ。
白髪を頭頂部で一纏めに結んだ髪型で、瞳は金色。海色の着物を着崩して着ている。
職業は槍士で、得物は短槍だ。
こいつとだけは以前から何度かパーティを組んだことがある。
飄々としているようで、決して副職を晒さない徹底ぶり。
隙を見せるようで見せない曲者だ。油断はできねぇ。
というかジジイ崩れめ。一言余計なんだよ。
金だけが友達だぁ? 親友だ馬鹿野郎。お金さんと俺の仲を安く見るなよ。
「ジンカイがそう評価するなら、ダリオ君の働きに期待しよう。
さて、ダンジョンに挑む前になにか意見があるものはいるか?」
「あ、あのう。ボスのドロップアイテムは倒した人が取ることになってますが、道中の敵が落とすアイテムは分配になるんですよね? 私はそちらが目当てなのですが……」
おずおずと手を上げ、ガウディールに質問するのは……エイローズ、だったか。
水色のセミロングヘアで、眼鏡を掛けている。僧侶だと言ってたな。
どこぞの露出狂とは違い、白い法衣と黒タイツなどで素肌を隠した完全防備だ。
しかし、隠しきれない胸囲と艶かしい体つきは非常に好ましい。こちらとは是非お近づきになりたいものだ。
武器は身の丈ほどもある長い杖だが、妙に装飾がごつい。
杖の先端は金の三日月型になったデザインで、その三日月の中に赤い魔石が取り付けられている。装飾が妙に凝っているの見るに、もしかしたらギミックがあるタイプの武器かも……。
「ああ、道中のものはボス戦後に分配する予定だ。
目当てのものがあるなら、言って貰えれば優先的に差し上げよう」
「ありがとうございます」
柔和な笑顔を見せるエイローズ。可愛い。
いや、ゲームだからネカマの可能性はあるのだが、キャラが可愛いことには変わらない。眼福、眼福。
とはいえ、見た目が好みだろうと彼女から得られた情報は咀嚼すべきだ。彼女は道中のアイテム分配について質問していたな。
彼女の職業、僧侶は味方の補助が役割だ。
敵を倒すのが不得意な職業であるのは間違いない。
自分にはボスを倒す手段がないから、ボスのアイテムを諦めて道中の分配に期待する、というのは分からない話でもないのだが……。
しかしこのゲームには本職の他に副職、さらにその二つの組み合わせ次第で発生する特殊職があり、最大で三つの職業を得られる複数職システムがある。
複数の職業選択システムがある以上、一概に僧侶だから戦闘が不得手であるとは言い切れない。
例え本職を支援職にしたとしても、副職を前衛であれ後衛職であれ戦闘系統にすれば、それぞれの職業能力を覚えられるため戦闘面も補える。
となれば、戦闘が不得意な職が本職であっても、副職次第では今回のダンジョンボスとの戦闘で貢献できるから、他の面々同様にドロップアイテムを獲得することは可能なわけだ。
しかも今回俺達が攻略予定の『堕神の寝所』は1~6まである難易度の内、最高難易度の6!
ボスはもちろん、基本的には武具や武具強化アイテムを落とすだけの雑魚敵ですら高レアの能力書を落とす可能性があるという、正に宝物庫のようなダンジョンだ。
武具も最上のものが出るし、ハズレと言い切るようなものは多くない。
最高の武具、あるいは能力書が手に入る場所で、わざわざボスのドロップアイテムを狙わないなんてことはあり得ないだろう。
ここでしか出ない強化アイテムもあるかもしれないが、なにより最高レベルのボスが落とすアイテムを狙っていないような発言は怪しいと思わざるを得ない。
本職は固定だが、副職は変更が可能だしな。
それなのに同じような支援系職業を重ねているとすれば、それで発生する特殊職を維持する以外に理由はないだろう。
そう考えるとエイローズは特殊職持ちと考えるべきか?
僧侶が本職で発生する特殊職ってなにがあったかな。
僧侶が副職なら浮かぶものもあるんだが。
例えば、騎士を本職に、僧侶を副職にすると聖騎士の特殊職が獲得できる。
だがエイローズは僧侶が本職だから、副職を騎士にしても聖騎士は発生しない。
今のところ見当つかないが、ダンジョン内でなにかしら職業の片鱗は見れるかもしれない。要観察だな。
ともあれ、エイローズはなにかしらの攻撃手段を持っている、と考えていいだろう。
ただの支援職だけでこの難易度のダンジョンまで来れるわけがない。
そしてダンジョンボスのアイテムも狙っていると踏んでおこう。
道中のアイテム狙いです、なんて言って周りの油断を誘ってる可能性は否めない。
見た目は好みのキャラなんだがな。
優しい顔をしながら近づいて、終盤に突然裏切ってアイテムを奪い取る、なんてプレイヤーはこのゲームにはたくさんいる。
悪女か聖女か、用心するに越したことはない。
「いやぁ、良いもの出るといいですね」
俺の思考を遮って、にこやかに俺に話しかけてきたのは――誰だっけこいつ?
ああ、顔合わせの時にクラウスとか言ってたような。
本職は確か射手……だったっけ?
茶髪にタレ目、右目の下に泣きボクロがある。
少女漫画とかでヒロインとぶつかって「大丈夫?」キラッ。とか効果音付きで出てきそうな奴だ。
服装は黒い胸当ての下に軽装。武器の弓も黒い。黒すぎじゃない?
肩当てがないため両肩を出しているが、腕当て、脛当てなどはしっかり付けている。
動きやすさと最低限の防御を考えた、射手らしい軽装備だな。
「ダリオさんは、ガウディールさんとかと面識あります? ギルメンだったり?」
クラウスがこっそりとそんなことを聞いてきた。
「いや、知り合いはジンカイだけだ。ギルドなんて入ってねぇよ」
「そうなんですかぁ。じゃあ初対面ばっかりの野良パーティだし、荒れるかもですね。
いざという時、組みません?」
「……いいぜ。そんときは山分けで」
「よろしくどーぞ」
しっかり根回しする辺り、野良パーティに慣れた奴だな。
ああいうのは他にも手を回してるから、信用しないようにしよう。
クラウスの言う通り、道中の結果次第では荒れそうだ。
高レアな能力書なんて滅多に出ないから、よく奪い合いになる。
ましてやこのダンジョンだと良いものが手に入るだろうしなあ。
能力を覚えるための必須アイテム、能力書。
ダンジョンでしか手に入らず、自分の強化には必須の超重要アイテムだ。
種類は極めて豊富、そして数の多さゆえに自分が望む能力が出るかは運次第。
仮に自分が欲しいものでなくても高額で売れる。手に入れて損をしないアイテムだ。
誰もが狙っているため、能力書が出れば「あいつは良いのを手に入れたんじゃないか」と疑われ、それが裏切り行為を誘発する。
ギスギスした雰囲気になるのは仕方ない。
あいつはきっといいものを得たんだ。
そう思ったら嫉妬に駆られるのがゲーマーってやつだからな。
普通であれば、そんな悶々とした感情を抱いて終わりなのだが……このゲームは自分の欲望に従うことができる。
『アイアンブラッド』ではアイテムや魔法でダンジョン内から脱出はできるが、原則として入った以上はボスを討伐しないとダンジョン内で得たアイテムを持ち帰ることが出来ない。
加えて、プレイヤーがキルされると、装備していないアイテムをドロップする仕様がある。
そしてドロップしたアイテムは誰でも取得できてしまう。
要するに――味方だろうが敵だろうが、ダンジョン内にいて、そいつが欲しい物を持っているなら殺して奪い取れるわけだ。
必死に集めなくても、誰かを殺せば良い物が手に入るかもしれない。
強い敵を倒すより、油断している味方をキルするほうが楽だからな。
そりゃあPKが横行するに決まっている。
その上味方殺しにはデメリットが存在しない。やらない奴のほうが馬鹿を見る。
だから野良パーティは信用できない。いきなり背後から刺されるのが日常だ。
俺も昔はよくやられたっけなあ。今では裏切るのもされるのも楽しいんだけどな。
しかしそれでもこのゲームの難しさがバランスを保っている。
裏切りは怖い、でもソロではクリアが難しいダンジョンが大多数なので、誰かとパーティを組まざるを得ない。
味方をキルするにしても、一人になれば攻略が困難になる。
だからあらかじめ誰かに根回しして、確実に味方を作っておくなど、ダンジョンに潜る時には色々と考えないといけない。
味方を疑い、敵ならば容赦なく排斥し、欲しいものを手に入れる。
これがおおよそこのゲームの肝なのだが、まあ気疲れがひどい。けどこれが面白いんだよなあ。
自分の浅慮が死を招くっていうのがリアリティあって、このゲームではそういう土壌が出来てるから味方に遠慮する必要がない。
その辺りは他のゲームと違う独自性だと思う。ほのぼのやりたい人にはとことん向いてないゲームだな。
さて、今回はどうしたもんかな。初対面ばかりだし、少し様子見しとこう。
他の連中はどうするつもりかね? 今のところ要注意そうなのはエイローズとクラウスか。
ガウディール、アネット、ジンカイ、エイローズ、クラウスの他にいるのは……。
赤い紋様の入った、黒いローブを着てるロリ女。
確かリューミナとか言ったか。
赤い髪を後ろに流しているデコっぱちな髪型だ。魔術師だったかな。
後衛向きな職業だから後ろにいることが多いだろうが、こいつの前にはいたくない。
背中目掛けて魔法ぶっ放されても困る。
もう一人はバズゴルグ。濁点多いし言いにくいな。
全身刺々しい黒鎧の狂戦士だ。武器は大斧で、それを担いで佇んでいる。
うちのパーティ黒いの多いな、俺含めて。まぁ暗いところじゃ実際見えづらくなるし、使い勝手いいからだろうけど。
面識はないがバズゴルグのことだけは知っている。
ソロプレイヤーとして有名な奴で、一人でダンジョンボスを倒したなんて話も聞く廃プレイヤーだ。ソロでこのゲームやるとか頭おかしいだろ。
単純に化け物だ。こいつだけは相手にしたくない。こいつが裏切ったら即逃げよう。
全員、本職だけは必ず相手に伝えている。暗黙の了解、最低限のマナーってやつだな。パーティとして機能するよう自分の役割を伝えるためだ。
だから誰も彼も、本職だと明かしている動きに準じるだろう。
副職と特殊職は伏せておくのが基本だ。
教えないことで、相手の裏切り行為への牽制に使えるからな。
こいつはどんな攻撃手段を持っているのか? と最初はみんな探りを入れるだろう。
こいつはヤれると思わせないのが、このゲームにおける平穏な冒険を楽しむコツだ。
……まあ、俺も気を付けないとな。
俺は今回、敵の『探知』やアイテムの『鑑定』要員だ。
滅多なことじゃ狙われない立ち位置だが、せいぜい便利屋の盗賊だと思わせないと。
ほとんど初対面だが、俺を含めて八人もいればお互いに牽制が利くはずだ。
意外と何事も起きずにダンジョンクリアまで行けるかもしれないな。
平和的に終わるならそれでいい。そうでないなら……。
あれこれ考えてる内に各々聞きたいことも聞き終わったようで、ひと段落したと判断したのか、ガウディールが手を叩いて注目を集める。
「よし、話は以上とする。さて、ダンジョンに入る前に! 皆で円陣を組もう!」
「……はぁ? なんでだよ。やらねーよ」
「初対面も多い。だが一丸にならねばボス攻略は至難だ。
ゆえに、皆で心を一つにする意味もかねて、円陣を組みたいと思う!」
「いや、意味分からん。やらねーぞ俺は」
ガウディールが俺の肩を叩いてくる。そしてわざとらしく残念そうな顔を作った。
「そうか、では君の報奨金を減らして――」
「これも仕事の内ってか? わかりましたよ、リーダー様!
やりゃあいんだろやれば。金のためなら喜んで!」
『……えますか』
ん? 誰かなんか言ったか?
「うむ! 気合いを入れるかのぅ!」
「えぇ、あたしそういうの恥ずかしいんだけど」
さっきの声は気のせいか。それにしても、露出狂と意見が合うとは。
「こ、こういうのちょっと憧れてました」
クラウスが照れ笑いをしている。お前も青春脳か? そういうのはガウディール一人だけで十分だぞ。
「み、皆さんがやるなら……」
「エイローズちゃん、俺の隣においで」
彼女がやるなら話は別だ。俺も嫌々ではなく喜んで円陣を組もう。美女の意見が俺の意見だ。
「かっかっか! 現金な奴め!」
「……アホくさ。やるならさっさとして」
諦めたようにロリ女が口を開く。ため息混じりで心底やりたくなさそうだ。
バズゴルグはというと、意外と乗り気でやってくれるらしい。
全員で円陣を組む。エイローズ可愛い。いい匂いする。
でも俺の隣にバズゴルグがいてめちゃくちゃ怖い。圧力が半端ない。
え、なんで俺の隣来たの? 右は天国なのに左に地獄が見える。
『聞こ――ら、私の求めに――ください』
え? なに? エイローズちゃん、なんて? いや違うな。さっきから誰の声なんだ?
もしもーし、誰だか知らねぇけどボイスチャットダダ洩れてますよ?
「よし! みんな、勝つぞ!」
「おぉ……」
「声が小さい!」
うぜぇこの青春熱血漢。この場で刺してやろうか。
ふと視線を上げるとリューミナもイラついたのかガウディールを睨みつけていた。いいぞやっちまえ。
でも報奨金があるしなぁ……。金のためだ耐えろ! 全て終えた後、いつか背後から刺してやろうじゃないか。僕ぁなんて優しいんだ、それまで耐えてあげるだなんて。
「もう一度だ! 勝つぞぉ!」
『どうか、私達をお救いください!』
「「「「おぉ!!」」」」
「え、今の誰の声?」
円陣を組んだ足元が光り、白い光が俺達を包む。
眩い光で一瞬なにも見えなくなった。
しかし光はすぐに落ち着き、その輝きが失せていく。
視界が戻った時には、今まで見えていたぬかるんだ地面が消えていて、代わりに光と同じ白い床の上に立っていることに気が付いた。
なにが起きた? トラップにかかったのか?
いや、まだダンジョン入ってねぇ。クソみたいな円陣組んでただけだぞ。
なにがどうなってんだ?
俺達が顔を上げて周囲を見回すと、そこには困惑した様子の鎧姿の男達がおり、そして純白のドレスに身を包んだ少女がいた。
「成功、したのか?」
「だが数が……」
「一人ではないのか?」
ざわめきが起こっている。
こちらも意味が分からんが、向こうにとっても意味が分からんことが起こったらしい。
見回す限り、ここはダンジョンじゃない。
不思議な建物の内部のようで、壁はやや発光した白い壁に覆われており、部屋には窓がない。
なにより、天井が見えない。あり得ないほど高い建物のようだ。
俺達の頭上には、人の肩幅ほどもある白い球体があり、球体を中心にして回るリング状の石版が浮いている。
よく見ると、周囲の壁や床には見慣れない文字や魔法陣のようなものがびっしりと描かれているのも分かった。
突然壁の一部が正方形のキューブ状になって壁から抜け出ると、それとは別の場所もまた同じように抜け出て、互いの場所を交換する。
すると描かれている魔法陣の模様が変わり、壁の発光に合わせて部屋全体の文字や陣に強い光が走った。
ゲーム内でこんな場所に見覚えはない。どこだここは。ダンジョンはどこに行った?
一体全体なにが起こってる? こいつらは誰だ? 新手のゲーム内イベントなのか……?
「あ、あの! ようこそおいでくださいました! 勇者様!」
意を決したように、金髪の少女が口を開いた。
胸の前で手を握り締め、顔はやや紅潮している。
どちらかと言えば可愛い顔立ちで、素体は悪くない。だが幼さを感じる。今後の成長に期待か。
いや待て。そうじゃない。今なんて言った? 勇者? 誰が? 俺ら?
「…………はぁ?」
体の底から出た俺の言葉が、場違いな空間に木霊した。