壊滅日本戦闘記 第陸部
オープニング
「………貴方はまだ全力を、否、本当の力を出していませんよね?」
轟の発言により、俺は誰にも話していない秘密の存在を知られてしまった。
轟の退場直後………。
「お、おい坊主!どういう事だ!?」
和哉さんが食い付いた。
「ちょっと貴方、落ち着いて!!」
「そうだよ、父さん!直輝兄ちゃんの事だから、秘密にしなきゃいけなかったのかもしれないんだよ!」
沙耶香さんと拓史君が抑えようとするも、
「俺達は背を預けて戦ってんだ!秘密を持たれちゃ信頼しきれ無ぇだろうが!!」
………成程、一理ある。
「直ちゃん………。」
心配そうな顔をする美波。その顔を見て、決心がついた。
「分かりました。自分の秘密、本当の能力を話します。」
………その内容に、一同は目を丸くした。
第十六戦
この先がかなり危険である事を悟り、俺達は山科一家に、守護の呪符を持たせて車に戻る様に言った。
そして暗い廊下をただひたすら歩き続けると、今度は木製の引き戸が現れた。
手を掛けると鍵のかかった手応えは無かった。
「………開けますよ。」
「………応。」
合図をしてから俺は、一息に戸を開けた。同時に抜刀して襲撃に備える。しかしそこは………、
「………竹林?」
そう、管理の行き届いた竹林だった。虫の密かな鳴き声が響き、飛び石に沿って建てられた石燈籠には小さく蝋燭が灯っている。
奇妙な程に自然であり、静まり返っていた。
「………なんだこりゃ?」
「相手はいないのかしら?」
少しだけ警戒心を解く藤堂一家。その一方俺達は、
「………気付いた、直ちゃん?」
「………ああ、監視されてたな。………術の一つか?」
この竹林の中で一瞬だけ、こちらに向けた視線を感じ取った。
「何!?」
和哉さんが槍を握り直した。
「いえ、和哉さん。相手はもういませんよ。」
「そ、そうか?」
再び緊張を解く。
「但し、警戒はした方が良いでしょうね。敵は近いですから。」
「やっと来たのね。随分とのんびりしてたのかしら?」
飛び石を歩いていると、前方からゆらりと女性が姿を現した。
「………誰だ。」
「『狩人』、宗像 莉穂よ。どうぞ宜しく、坊や。」
そう言うや否や、右手の指を鳴らした。すると、竹林の奥から呪符の反応がして、突然石垣が地面から現れた。
「直ちゃん!!」
「坊主!!」
………俺と美波達の間に現れた石垣は、俺達を完全に分断した。
「クソッ!!」
右手を振りかぶった時、
「止めた方が良いわよ。」
宗像の忠告が入り、寸止めした。
「………何故だ。」
「この石垣は、『反射の石垣』。道本さんオリジナルの術なのよ。与えられた衝撃をそのまま反射させる、概念的に破壊不能な石垣。坊やがどれ程強力な力で破壊しようとしても、そのまま反射されて傷一つ入らないわ。」
構えを解き、俺は宗像に向き直った。
「つまり、アンタを倒せば石垣は破壊出来ると?」
「半分正解。私を倒せば、術が解除されて破壊が可能になるのよ。」
「なら話しは早い。」
俺は倶利伽羅剣を構えた。
「フフッ、本当に面白そうね。」
宗像は背負っていた弓を手にしたその瞬間、宗像の姿が消えた。
「な!?」
突然の事に思考が一瞬停止した。その時、左の脇腹に衝撃が伝わった。
「ガッ!?」
為す術なく飛ばされた。辛うじて、脇腹を蹴られた事を悟り、身体を反転して姿勢を立て直す。
「フフッ、いきなりでごめんなさいね。先手必勝だと思ったのだけど、仕留め損ねたわ。」
宗像はそのまま矢を三本番えて、空中に放った。行動を理解した俺は、立て直した体制のまま地面を蹴る。直後、俺のいた地点に矢が突き刺さった。
着地して向き直ったその瞬間、第四の矢が既に目前に迫っていた。反射的に倶利伽羅剣を振るい、矢を叩き落とす。
その時、宗像の司るものに予想がついた。
「瞬脚に弓矢、ギリシャ神話の女狩人『アタランテ』!」
宗像は目を丸くした。
「驚いた、もうバレたわ。」
『アタランテ』。ギリシア神話の女狩人であり、カリュドーンの猪狩りに参加し、イアソン率いるアルゴノーツの一員でもある。
牝熊に育てられ、成長すると共に女神アルテミスを信仰する彼女は、山々を獣以上の俊足で駆け回る狩人だった。
その俊足とアルゴノーツの一員、カリュドーンの猪狩りと言う華々しい活躍により、結婚を申し込む若者は数多くいた。婚約を申し込まれる度アタランテは、相手の命を掛けて競走をしたと言う。当然俊足のアタランテにハンデを貰ったとしても勝てた者は無く、数多くの若者が命を落とした。
後にヒッポメネスと言う若者が、アフロディーテに祈りを捧げて三つの黄金の林檎を受け取り、競走で追い抜かれかける度に林檎を後ろに投げ、遂にアタランテを負かした。
見事ヒッポメネスはアタランテと結婚したものの、ヒッポメネスはアフロディーテに感謝の意を示さなかった。怒りを買ったヒッポメネスはアタランテと、キュベレー神殿で欲情する呪いを掛けられ、神殿近くの洞窟で淫行をしてしまう。結果キュベレーによって獅子にされてしまったとされる。
「まぁ分かったとしても、戦況は変わらないわよ?」
そう言いながら再び矢を番える、瞬間また宗像の姿が消えた。俊足のアタランテに視認はほぼ不可能。ならば拳法で培った第六感が頼りだ。
剣を鞘に収めて型を取り、直感で右脚を蹴り上げる。丁度頂点で脚は、矢を蹴り払った。遠心力そのままに左脚を蹴り上げた。
「なっ!?」
真上にいた宗像は逆さの状態にも関わらず、弓と両腕で蹴りを防ぐ。直撃は免れるが威力は伝わり、宗像は蹴り飛ばされた。
「カハッ………!!」
着地が間に合わず背を打ち付けて、乾いた息を吐き出す。痛みに耐えながら身体を反転させ、体勢を立て直す宗像に向け、活歩で肉薄する。
「ハァッ!!」
「クッ………!!」
拳に脚で対抗。宗像の脚は拳を払い、右手にいつの間にか握っていたナイフを突き付ける。
眉間寸前で身体を捻らせて躱してそのまま間合いを取りながら、炎で生成した短刀を振り向きざまに投げた。
短刀はナイフで軌道を逸らさせ、宗像の傍を通り過ぎる。
「ふぅ、………中々先の読めない攻撃するわね。」
「それはありがとさんっ!!」
地面に拳を叩き付ける。蜘蛛の巣状にひび割れた地面から、瓦礫が上がる。
「………目潰し?そんな小細工なんて………えっ!?」
宗像の反応が僅かに遅れた。当然だ、何故なら………、
「フッ!!」
飛び上がる瓦礫を足場にして、跳んだのだから。
「ハァッ!!」
「ハッ、………キャアッ!?」
寸前で腕を交差させ防御姿勢を取る。その上から容赦無く、冲垂を叩き込む。竹林を割りながら吹き飛ばされる宗像。即座に左手に弓を持ち、四本矢を放つ。全て矢は竹に刺さり、筈に巻かれた紐が瞬間的に緊張される。
「クッ………!!」
身体に吹き飛ばされた力が掛かり、刺さった矢は竹を壊しながら抜けた。何とか飛ばされた勢いを止めた宗像は、後転して弓に矢を番える。
「行けっ!!」
番えた三本の矢は、接近する俺の顔面を捉えていた。しかし、俺はそれすらも手刀で叩き落とした。
無駄だと悟った宗像は、俊足で飛び蹴りを仕掛ける。それに俺は、回し蹴りで相殺させる。宗像が着地した時を狙って活歩で迫り、縦拳を打つ。間一髪で宗像は、回し蹴りで払った。
右手にナイフを再び握り、振り下ろす。それを俺は、アッパーカットで迎え打った。
宗像の狙いはこの相殺によるノックバックだった。衝撃を利用して身軽に後退した。
「全く………貴方の行動は予測出来ないわね。………まるでバーサーカーだわ。」
「それは、褒め言葉なのか?」
「ええ、そうよ。………相手にはしたく無かったタイプだわ。」
そう言うと宗像は、口笛を吹いた。
その直後、宗像の横に男が降り立った。
「呼んだか?」
「ええ、撤退するわよ『皇さん』。」
その男は、一言で表せば『忍』だった。宗像と対峙する前の気配は、明らかにこいつだ。しかしこの違和感、リジェクターではあるが忍の気配とは違う。
「この男は『皇 久志』。通称『仮面師』よ。」
「おい宗像、勝手に話すな。個人情報だ。」
「良いじゃないの、その方が燃えるしね。それに………、」
宗像は意味深な視線を向けた。
「この坊やの前じゃ、五分以内に正体がバレるわよ。隠しても無駄なの。」
皇は小さく、溜息を吐く。
「………俺は快楽主義じゃ無いんだがな。」
そう言うと彼は、柏手を打った。途端に、辺りから光の粒が湧き出て、皇達を中心に巻き上がった。速度が徐々に上がり、とうとう光の柱が出来た。
迂闊には動けない。正体の分からない光の粒は、一粒一粒に弾丸並の威力を持っていたからだ。
「これを前に、不用意に動かない判断は正しい。数多の修羅場の経験が生きている。」
「そりゃ良かった、命拾いした様だな。」
「フッ………。」
鼻で笑う皇。行動から斥候かと判断しかけたが、これも桃源館所属の実力者の一人だろう。
「久々に骨のある奴だ。それに免じて、ヒントを出してやろう。」
「………何のだ?」
「俺達は桃源館長の道本さん直属の実力部隊。名を『桃源八英傑』。」
「『剣聖』、『狩人』、『仮面師』の他に『刹那』、『鏖殺』、『剛力』、『呪術師』、『自然神』よ。対策は、自分で頑張ってね。」
その言葉と共に、二人の姿が消えた。
第十七戦
宗像と皇は退いた。倒した訳では無い為に、石垣は未だ消えていない。
「………どうするか、………取り敢えず先に進むか。」
振り返る先には、竹林の道が続いていた。
「なっ………。」
開けた場所が先に見え、進んだ先は崩壊した住宅街。つまり、俺は桃源館から出てしまったのだ。
「待てよ………道は一本のみで脇道も無かった………。偵察の視線や気配も無し………。まさか!?」
慌てて振り返るも、そこには竹林は一切見当たらず、住宅の外壁があった。迷わされた感覚は無し。という事は、
「竹林自体が幻?いや、竹は確かに存在していた。なら、俺を精神的に方向感覚を狂わせて、外に通じる道に誘い込ませたのか………。」
不動明王のリジェクターである俺は、悪意のあるものに対しては、本能が強く反応する。逆を言えば、悪意を感じない呪法を察知する事に不慣れである。
感情を込めない、ただ作用するだけの呪法。これは発動する事自体が困難である。
呪法を発動させるには、呪法の目的を明確化させる事が必要になる。そして明確化させた目的には、多かれ少なかれ感情が干渉する。今までの俺はこの感情を、特に『負の感情』を感じ取って呪法に察知していた。
呪法を発動する上で必ず干渉される感情が一切無い。まるで機械の様だ。それ程にまで自然過ぎる呪法を発動させる事の出来る者は、恐らく一人。
「桃源八英傑の一人、『呪術師』。」
それしか考えられない。すると、
「その通りだよ、お兄さん。」
「!?」
背後から声がして、慌てて振り返る。そこには、小学生程の少女が立っていた。
………そして、実体さえも疑わしくなる程気配が薄かった。
「お兄さん、私達の敵だよね?」
「………何者だ?」
「はぁ………質問してるのは私なのになぁ………。」
溜息を吐くと少女は、手を後ろで組んで、純粋無垢な笑顔を向けた。
「初めまして。私の名前は『雨宮 知佳』、『呪術師』です。よろしくね、直輝お兄さん。」
笑顔を見た途端、背筋が凍る気がした。
(まずい、この子………平気で他人を殺す事が出来る、生粋の殺人鬼だ………!)
本能が告げる。あの笑顔は、仮面の笑顔では無い。無いのに恐ろしく見える。雨宮と言う少女は、生きていく上で必要になる、道徳心が完全欠如している。
「………今までに、何人殺した?」
「え?」
雨宮は、この質問の意図が分かっていないのだろう。小首を傾げた。
「その『呪術師』としての力を使って、何人殺したと聞いてるんだ。」
「………そんなの忘れちゃったよ。」
………確信した。この子は人であって、人では無い。
幼いながらにして、ほぼ完成されているシリアルキラーだ。
「この力って、どうあっても殺す為にあるんでしょ?直輝お兄さんの「守る為」って言う建前も、結局は相手を殺さなきゃいけないじゃない。私とお兄さんの違いって、相手が魔物か人間なのかってだけだよ?」
「………子供とは思えない程、達観した考えだな。」
「そう?これは普通だと思うけどね。」
そう言うと雨宮は、くるりと背を向けた。
「何処に行く?」
問うと雨宮は、顔だけ向けた。あの笑顔のままで、
「桃源館に戻るの。お兄さんのいないあの人達の処分なんて、時間の問題だもん。それに私、お兄さんの事気に入ってるから、少しだけ長く生かしといてあげるね。」
雨宮の身体がいきなり花びらとなって舞い上がり、桃源館の方へ飛んで行った。
「大切な人達が無惨に死んでいく所を、遠くから眺めててね、お兄さん。」
舞い上がる花びらの中、雨宮の声が木霊した。
(まずい!あの子に美波達を会わせるのは危険過ぎる!!)
慌てるものの、桃源館の場所が分からない。それどころか、美波達の気配すら感じ取れない。結界が敷かれていて、感知出来無い様だ。
(どうする、考えろっ………!!)
辺りを見回しながら、脳をフル回転させて解を探す。しかし、解が出る事は無かった。
否、イレギュラーな事態を感知した。
(新たな気!?)
方向は自分の左後方。そこから唐突に気配が現れた。振り返るとT字路があった。敵か味方か、敵ならば魔人の可能性もある。
俺は気配を殺し、T字路の外壁に背を向けて気配の根源たる人物を覗き見た。
そこには、四人の男女がいた。あまり上等とは言えない服装に、銃刀法を知らないとも思える抜き身の武器。現代からすると、明らかにおかしいファッションだった。
(………コスプレイヤー?それにしては気の使い方が様になり過ぎている。実際に死闘を繰り広げ、生き抜いた気だ。となれば、魔物達と同じく別世界からの来訪者の可能性が高い。だが、敵では無いと言う可能性は捨て切れない。)
このまま傍観するつもりでいると、
「そこから覗いてる奴、出て来なよ。」
スラリとした男に気付かれた。風貌を見るに、恐らく参謀の様だ。
「誰かいるの!?」
他の面子は彼の言葉を聞くまで、気付いていなかったらしい。中々の切れ者だ。
俺は警戒心を持ったまま、T字路から出た。
「お前達、何者だ?」
問いと共に殺気を放つ。
「テメェ、殺気を放ちながら言う言葉か!?」
スキンヘッドの男がマントの中に手を入れて構える。そして、獲物を抜く瞬間を視認した。同時に、
「ハァッ!!」
「ゴハァッ!?」
スキンヘッドの男の胸に目掛けて、拳を叩き込んだ。
「シロント!!」
成程、吹き飛ばした男の名は『シロント』と言うのか。
「このっ!!」
炎と氷の槍が、瞬時に生成された。どうやら女二人は能力を有しているのか。
俺は腰から倶利伽羅剣を抜刀する直前、
「待てっ!!」
参謀らしき男が槍で地面に地割れを引き起こし、俺達を分断させた。
「俺達は敵じゃ無い!話し合いをさせてくれ!!」
戦う意思は無い様だ。このまま四対一の対決をしても良いが、言い分も気になる。
呼吸を一つして、俺は戦闘態勢を解いた。
「………分かった。話を聞こう。」
「私達はファントム・ナイトって言うパーティーです。フェンリルのカルノの修行によって、この世界に来ました。」
「………はぁ?」
理解してはいるものの、やはり信じ難い。別世界からの来訪者である事は予想していた通りだった。しかし、この世界に来た理由が修行とは?しかも指示したのは神狼フェンリル?
いや、ここにはケルベロスだって現れたからおかしくは無い………のか?
「私はリーダーの『クロノ=サーチャー』。彼はサブリーダーの『ヴェロキ=グラム』。そして『シロント=レッシェン』と『ティタノ=マグナリアム』です。」
「俺は秋山直輝。リジェクターだ。」
「リジェクター?」
「お前達の様に、この世界でも魔法を使える者はいる。ここでは魔法を『能力』と称しているがな。そしてこの能力は、神や英雄等の力を司っていて、襲い掛かる魔物や魔人から抵抗するから、抵抗者と言う。」
「どんな力を司っている?」
「『不動明王』だ。俺以外にもリジェクターはいる。はぐれたが。」
それからも俺達は、様々な情報交換をした。
「成程………最終目標は魔物の殲滅か。」
壮絶とも言える俺の、俺達の過去を聞いた彼らは、ヴェロキを除いて口を開けなかった。
「クロノ、どうする?俺はナオキを信じて良いと思うが。」
リーダーのクロノは少し考えると、
「私達も、その目標の為に一緒に行動しても良い?修行にもなると思うから。」
「俺としては、願ったり叶ったりだ。」
各個能力は勿論、パーティーとしての戦力も申し分無い。すると、
「俺みたいな奴がいても良いのか?」
ヴェロキが訊ねる。話の中では、彼は戦闘には向かないと言っていた。
「おい、ヴェロキ!何言ってや「シロント!」………。」
シロントの反論を、ティタノが遮る。どうやら、俺の出方を疑っている様だ。シロントもその風貌とは異なり、仲間思いなのだろう。
「何故、いてはいけないと思うんだ?」
「戦闘員じゃ無いからだが?」
分かりきった答えを………。俺は溜息一つ吐くと、その答えを口にした。
「お前は参謀だろ?達観した観察眼は戦闘にも必須だ。その上、下手したらお前はこのパーティーで一番強いだろうが。」
「「「!?」」」
ん?この答えは予想外だったのか?当のヴェロキは、笑いを堪えていた。
「いやまさか、そんな事を言う奴がいるとはな!面白い奴だ!!」
第十八戦
共に行動するは良いものの、懸念事項もまだある。
「お前達の本当の強さが分からんな。」
「どうすれば良いんだ?」
シロントはニヤリと笑う。子供が見たら、大泣きするだろう。
「一人一人、対戦してくれるのか?」
「いや、それは面倒だ。ここら辺にいる魔物を狩ってくれりゃ良い。」
「魔物なら何でも良いの?」
「そうだな。………三頭の猛犬・『ケルベロス』一体で良い。」
四人揃って、了解した。
「ここから北東に一キロ程の位置に、二体いるな。」
「ここから察知したのか?」
「ああ、神力を薄く広げてな。行くか。」
「分かった。」
ヴェロキとは、普通に会話していた。しかし、他の三人はと言うと、
「一キロって、把握出来るのか?」
「私じゃ無理ね。」
「私も。って、出来るのヴェロキ位でしょ?」
「だよな。………ヴェロキだけだと思ってたけどよ………。」
「「うん………。」」
「力のレベル、アイツも段違いだよな………。」
空恐ろしいとも言う目で、俺達を見ていた。
「ビンゴ。」
片側二車線の道路上に、ケルベロスが二体寝そべっていた。
「お前達は、右側の奴を頼む。」
「ナオキは?」
「俺は左の奴を仕留めるから。行くぞ!」
俺達は小道から躍り出た。右足が着地した瞬間、道路を割る脚力で左側のケルベロスに肉薄して、勢いそのままに気付いたばかりのケルベロスの顔面を殴り飛ばした。
「「「「なっ!?」」」」
唖然としているファントム・ナイト一行。
「何してる!早くやれ!!」
「お、応!」
俺の喝で、彼等は漸く動き出した。
ケルベロスはおよそ一キロ程飛ばした。戻ってくるまで数分は掛かるだろう。
「三分でカタをつけろ!」
ケルベロスに飛び掛る彼等に、指示を出した。
「シロント、左から噛み付き!」
「よっと!!」
「ティタノ、中央の頭狙え!」
「氷山ぶつけるよー!!」
「クロノ、右側から牽制!」
「なら、S&Wね!!」
………流石だ。ヴェロキの的確な指示は勿論、それを確実に理解して攻撃する彼等もまた、相当な実力だ。
「ティタノ、顎を狙って仕留めろ!」
「いっくよー!!」
気の抜けそうなティタノの掛け声とは裏腹に、ケルベロスの顎を鋭利な氷の槍で貫通させた。それも、三頭同時に。
見事なコンビネーションに、俺は感嘆していた。
「………流石。俺もこれは予想外だった。」
「どんなもんだい!!」
「私達の実力、これで分かった?」
「ああ、十分だ。なら、今度は………」
俺は振り返る。そこには先程殴り飛ばしたケルベロスが、土煙を上げて襲い掛かって来ていた。
「俺の番だな。」
そう言いながら俺は、炎を極限にまで収縮させた小火球を三つ生成した。
「ナオキ、そんなんで倒すのか?」
怪訝そうなシロント。目を向けずに俺は答えた。
「シロント、見掛けの判断は命取りだぞ。」
狙いは三頭の眉間。小火球を指先で操作して、熱線を放った。
「ガアアッ!?」
命中した途端、崩れ落ちる様にケルベロスは倒れた。身動き一つしない。確実に仕留めた。
「「「………。」」」
誰も声を発さない中、
「炎を収縮して熱線にし、眉間と脳を焼き貫いたのね。」
同じく炎の使い手であるクロノだけが、状況を理解した。
「成程、拳銃を制作したのか。銃弾は自身の気、ここで言う神力や魔力を込めたか。」
「ああ、そう言う事だ。」
「ヴェロキの武器は、とんでも無ぇ物ばっかなんだぜ。」
「私達の想像を越えてるんだよ。」
「ほう………。」
前から気にはなっていたが、これで更に懸念は確信に近づいた。
このヴェロキと言う男、所謂この世界からの転生者だ。
だがラノベとかでも良くある展開でも、それをそうそう口にはしていない。彼もそうだろうか。
取り敢えず俺は、口に出す事を止めた。
「なら、銃弾その物の性質を変える事も出来るのか?」
「銃弾の性質?」
「分かりにくいか?着弾した時、貫通以外の性質を付与出来るんじゃないかと思ったんだが。」
彼等は首を傾げた。発想が分からないか。
「拳銃を貸してくれるか?」
「いや、止めておけ。この拳銃を制作者と使用者以外が持つ事は出来ない。無限大の重力が掛かるんだ。」
成程。要は拳銃が制作者と使用者以外には使われない様にした、一種の防犯システムと言ったところか。
「使用者の無い拳銃は?」
「一応ある。使うか?」
「頼む。」
俺が渡された拳銃は、『コルト・キングコブラ』だった。アメリカのコルト社が開発した回転式拳銃で、.357マグナム弾や.38スペシャル弾を使用する。マグナム弾に対する耐性を意識させた拳銃であり、錆に強いステンレス製のフレームを使用。
(ここまで再現したか………。)
あまりの再現度の高さに、嫌でも興奮した。
「どうだ、これは使えるか?」
「ああ、申し分無い程手に馴染む。最高傑作だな。」
グリップを握り締めると、神力が吸収されていくのが分かる。これが銃弾となるのか。
頭の中でイメージを構築、そのまま神力にインプット。自動的に銃弾に生成された。
「俺が言いたかった事は、こう言う事だ。」
背後から急襲して来たリザードマン目掛け、俺は振り向きざまにキングコブラを構え、引き金を引いた。
「グキャアアアッ!?」
肩に命中。その瞬間、着弾箇所から赤い刀身がいくつも突き破り、リザードマンの腕を落とした。
「これは!?」
「着弾に僅かな差を置いて、着弾箇所から剣を無数に生成させた。これなら弱点に当たらずとも、戦闘不能にさせる事は可能だ。」
俺は情け容赦無く、リザードマンに二発打ち込んだ。結果リザードマンだったものは、肉片へと変貌した。
「これは、………えげつないな。」
「うっ………。」
壮絶さにシロントは顔を歪め、ティタノは吐きかけた。
「これは酷いよ。使う必要があるの?」
非難の目でクロノは俺を見る。
「あるとも、仮にこのリザードマンが大群を連れて襲うとする。その内の一体がこの死に方をしたら、他のリザードマンはどうすると思う?」
「そうか。無用な戦いを避ける為に、敢えて壮絶な死に様を晒させて、攻撃を躊躇させるのか。」
ヴェロキは真意に気付いた。
「そうだ。特にリザードマンの様な魔物は本能で生きる。その本能に恐怖を植え込んで、侵略を阻止させる事が出来る。」
「………だとしても、これはやり過ぎだと思うよ。」
クロノは、眉を顰めたままだった。俺はクロノの目を真っ直ぐ見た。
「クロノ、この世界は最早終わり掛けている。優しいお前には申し訳無いが、そんな世界で綺麗事を後生大事に持っていると命は無い。」
魔物だろうと魔人だろうと、敵対するのなら容赦は無い。容赦こそ、この世界で最も不必要なものとなった。己の命も、常に危機に晒されているのだから。
「弱肉強食だ。生き残るならば、敵対する者を全て排除するつもりでいろ。そこに、容赦は必要無い。」
夜。
焚火を前に俺は頭の中で、彼等の力量を整理した。
(単純なパワーならシロント、技のレパートリーならクロノ、広範囲攻撃ならティタノ、参謀及び最後の切り札がヴェロキだな………。)
そう考えながら火をジッと見ていると、ティタノが横に座って来た。
「どうした?」
「うん、実は見て欲しいものがあるの。」
ティタノはそっと指を指す。その先には、ヴェロキとクロノが隣合って座っていた。シロントは背を向けているが、呆れた様子が伝わって来た。それもその筈。
「S&Wのメンテナンスは問題無いな。」
「うん、………ありがと。」
「これぐらい、いつでも見るよ。」
「………はぁ。」
溜息を吐くシロント。そっと立ち上がり、こちらに来た。
「………あの二人、いつになったら付き合うんだろうかね?」
「さぁ?」
「ちょっと待て、あの距離感で兄妹って訳では無い上に、恋人でも無いのか?」
二人して頷いた。呆気に取られて見ていると、不意に既視感が生まれた。
これは………、俺自身の身に覚えがあった事だ。
そして、彼女を思い出した………。
「ちょっ、ナオキ!?」
「うん、どうしたんだ?」
「どうしたじゃ無ぇよ!何で泣いてんだ!?」
「え?」
頬を流れ落ちる雫に、その時漸く気付いた。
「あぁ、すまんな。………ちょっと思い出しただけだ。」
「………何を?」
「はぐれちまった俺の………大切な彼女だ。」
「「!?」」
桃源館に未だ残っている彼女に、雨宮 知佳の魔の手が迫っている。美波も弱くは無いが、それでも万一が頭を過り、気が変になりそうだ。
(美波………。どうか、無事でいてくれ。もう二度と………、大事な人を失いたくないんだ………。)
これ以上涙を流さない様に、火の粉が舞い上がる空を見上げた。
エンディング
翌朝。
「俺達の敵は、現段階では桃源館にいる『桃源八英傑』だよな?」
「ああ、『剣聖』『狩人』『仮面師』『呪術師』『刹那』『鏖殺』『剛力』『自然神』の八人と、それを統括する道本だ。」
ヴェロキの確認に、俺は同意した。
「今分かっているのは、『剣聖』が『経津主神』、『狩人』が『アタランテ』、道本が『蘆屋道満』。そしてこれは推測だが、『鏖殺』は『金神』だと思う。」
「金神?」
三人が首を傾げている中、一人だけ若干血の気が引いた顔をした。
それに構わず、説明をした。
「金神とは方位神、つまり方角を司る神だ。金神の在する方位は凶であるとされ、犯すと家族七人を殺し、家族で七人に満たなかった場合、隣人も合わせて殺される。これを『七殺』と言う。」
轟が去る際に放った意味と、桃源八英傑の『鏖殺』。十中八九この者は金神のリジェクターだろう。名は確か、『辻』だった筈。
「方角の神………。」
「七殺………。」
神の力、それも『殺す事』に特化した力はあまりに強大だ。恐怖を感じてしまうのも無理は無い。
「確かに恐ろしい力だが、これは『方角を犯さなければ殺せない』と言う条件が必要だ。それに気を付ければ恐らくは………。」
必殺の力には、それ相応の代償か条件が必要になる。それに気付けるかどうかが、今後の戦闘に左右される。
(さて、どうにかしてまずは、桃源館に戻らなければな。)
お久しぶりです。
今回はスペシャルゲスト(?)が登場しました。私が執筆しています小説、『ラプラスの転生冒険者』のヴェロキ達です!
(誰だこいつ?)と思った方、是非他の小説を読んで下さい。話も続いていますから。
そして更に注目すべき人物は、『桃源八英傑』でしょう。強大な力を持って直輝達に立ちはだかる難敵。直輝達に策はあるのか!?
今回はこれぐらいで失礼します。
またお読み下さいませ!