壊滅日本戦闘記 第参部
オープニング
人の気配が全く感じられない、旧東京都。かつての首都を、たった二台の車が走り抜ける。
前を走る車が、藤堂一家を乗せたキャンピングカー。
その後を走るオープンカーに、俺と美波が乗っている。
『坊主、誰もいねぇがどうする?』
ダッシュボードに取り付けた無線から、和哉さんの声がした。
「確かに物音一つもしませんね。郊外へ向かったらどうでしょう?」
『そうだな。………旧千葉方面に行ってみるか。』
『直輝さん。その後、静岡方面を通って関西に行ったらどうかしら?』
沙耶香さんの声が、割り込んできた。
「そうですね。俺達はその辺の土地勘もさっぱりなんで、お願い出来ますか?」
『おう、任せとけ!』
和哉さんの力強い返事を最後に、無線を切った。
「何か、凄いことになったね直ちゃん。」
隣の席から、美波が話し掛けた。
「ん?どういうことだ?」
「だって、最初は私達二人だけの旅になるはずだったのに、いつの間にかこんな大所帯になってるんだもの。」
「ああ、成程。」
そうだった。最初は俺と美波だけで日本を回る予定だったんだ。そう考えると、妙に感慨深くなる。
「最初は徒歩で回ろうとしかけたもんな。」
「も、もう直ちゃん、弄らないでよ。私の黒歴史なんだから………。」
頬を軽く赤らめて、美波が可愛らしく抗議する。もうちょい弄ってやろう。
「そんでもって、この車に乗り込む時も、エンジンかけるだけでビクビクしてたねぇ。」
「もう!止めにしてよ、直ちゃん!」
握り拳を作って、ポカポカと叩いてくる。はっきり言って全く痛くないし、その仕草をする美波がやっぱり可愛かった。
二台の車上で通信ツールがあると、便利だと思っていたから、神力や魔力で電源を入れて繋ぐ無線を造った。
その紹介をすると、美波は凄いと素直に褒めてくれた。しかし藤堂一家は、感心を通り越して呆れたと言われてしまった。
造る時は楽しくなって、普通自動車以上の装備をしてしまった。無線だけでなく、車体やタイヤは防弾にし、エンジンも最速で時速二百キロメートルは出せる設計にしてある。勿論、車体もタイヤもそのスピードに耐えられる。
そして万一の脱出機能として、搭載したエンジンに通常以上の神力や魔力を流すと、ロケットエンジンになる様にした。操縦次第では、車で空を飛べる。飛行制限時間は、自身の神力・魔力の供給が途切れるまで。膨大な神力・魔力を消費する為、緊急時以外は使えないと言う難点はあるが、あると無いとでは全く違うだろう。
つまりこの二台は、『自重』と『常識』を完全無視したオリジナルカーということだ。
全部説明したら、藤堂一家どころか美波にまで『やりすぎだ!!』って言われたなぁ………。
第七戦
誰もいない都心を走り続けること、約三十分。
「ギシュゥゥ………。」
蜥蜴頭の魔物・リザードマンが五体闊歩していた。俺や美波は、一撃で倒すことが出来る。しかしここは、あえて藤堂兄妹に討伐させよう。
「拓史君、麗奈ちゃん。」
『はい。』
『どうしたですか?』
「訓練の成果、ここで見せてくれ。」
『『了解(です)!!』』
言うや否や、リザードマンの頭上から光が落ちた。
「ギシャャァァ………。」
リザードマンは光の中で、消滅した。明らかに麗奈ちゃんの技だ。
「流石ね、『天照の威光』だよ。」
成程、天照大御神は太陽神だ。日光を操ることが出来るって訳か。
俺が感心していると、
「えっ!?拓史君外に出ちゃったよ!!」
キャンピングカーがドリフトし、その遠心力に乗って拓史君が飛び出した。その右手には既に、グングニルが握られていた。
「はあああっ!!」
纏った雷が尾を引き、リザードマンを突いた。途端にリザードマンは、四肢を一瞬痙攣させて、
「ギシュゥッ!!」
身体が爆散した。辺りに、リザードマンの血液と肉片が飛び散った。
「うわぁ………。」
「拓史君、………案外えげつないな。」
槍が敵を突く瞬間に体内に電流を流し、行動不能・爆散させる技『内放電』。
雷よりも弱い電流を流す為、消費神力が少なく済む。よって、連発が可能になる。
雷の平均電力は約九〇〇GW。それに比べて、内放電は約三〇〇MWしか無い。
それでも、相手を葬るには充分すぎる電力ではある。
衝撃的な光景に、俺達二人は軽く引いてしまった。(まぁ、本人には絶対言えないけど………。)
その後、麗奈ちゃんが撃ち漏らしたリザードマンを、拓史君は全て討ち取った。
………辺り一面、リザードマンの血が飛び散り、藤堂兄妹の恐ろしさを俺達は知った。
『リザードマンの討伐、終わりました。』
『大したこと無かったです!』
淡々とした事務報告をする拓史君と、日光の矢を十数本撃ち落としたとは思えない明るい麗奈ちゃんの声が、無線から聞こえてきた。
「う、うん。見てたよ………。」
「………お疲れさん、二人とも。」
はっきり言って、ここまで成長していたとは思っていなかった。俺達は軽くフリーズしていた頭を何とか再起動させ、二人を労った。
『坊主、嬢ちゃん………。お前達凄ぇな………。』
『本当に………、家の子達がここまで強くなるなんて………。しかもたった一月程度で………。』
和哉さんと沙耶香さんの驚愕した声がした。
「えっと………、何と言うか………。」
「………俺達二人も、ここまで成長したことに驚いてますよ………。」
正直な気持ちを、藤堂夫妻に伝えた。
『え………。』
『嘘………。』
何とも言えない微妙な空気が、二台の車内を包んだ………。
その後、旧東京都を出て旧千葉県を通過、旧静岡県に入っていた。かつて渋滞も起きていた東名高速道路も、今は車一台も走っていない。それどころか、今まで通ってきた街にも、一人も人間はいなかった。
出てきたのは魔物だけ。それもオーガやリザードマン、コボルト、スケルトンばかりだった。その度に、俺達が指示する前に藤堂兄妹が殲滅させていったのだから、はっきり言ってつまらなかった。
だからだろうか。
目の前に強大な日本の魔物「鵺」と「がしゃどくろ」が現れた時、無性に身体が疼いてきたのは。
『直輝兄ちゃん、コイツらはちょっと無理かも………。』
『頼む坊主、殺ってくれるか?』
不安そうな声が無線からした時、既に俺達は、臨戦態勢に入っていた。そして、
「勿論、行くぞ美波!」
「分かった!私は鵺を殺るよ!」
俺達二人は、同時にオープンカーから飛び出した。
俺が相手にしたのは、身の丈十五メートルはあるがしゃどくろだった。目の奥には、爛々とした金色の光がチラチラと動き、口から黒く光る瘴気を吹く。存在そのものが不気味であった。
「ギギギ………。」
軋むような音が節々から聞こえ、骨だけの拳が握られた。瘴気を濃く、一息吹いた時、隕石の様な破壊力を持った拳が降ってきた。
「うわっ!」
紙一重で避けてしまった為、衝撃波で身体が飛ばされた。空中で体勢を整え、飛ばされた先の建物の壁に着地、壁を蹴って跳んだ。
身体が大きいから鈍重と言う訳ではなかった。
むしろ巨体を使って、俯瞰した視野で攻撃を繰り出している。
それを理解した俺は、拳の降る先を予測した。
(前方七メートル地点、タイミングをみて落とす!)
瞬時に判断し、ステップバックで前進を止めた。その直後に、予測した地点に拳が落ちた。
「ギギ………。」
予測を外された事に動揺したのか、動きが一瞬止まった。
その隙を逃さず、俺は全速力でがしゃどくろの腕に飛び乗り、その腕の上を走った。腕を蹴る俺の脚は、がしゃどくろの骨に細かい亀裂を走らせた。すると、
「ギリギリギリ………。」
関節が軋み、俺の走っている腕が横に振りかぶられた。そして、激しく横の建物の壁に腕を叩き付けた。
「坊主!!」
「直輝兄ちゃん!!」
もうもうと立ち上る砂煙の中、俺は叩き付けられる直前に腕から飛び上がり、辛うじて逃れた。
「あ、あぶね………。」
ただのデカいスケルトンって言う訳じゃ無ぇんだったな。
俺はがしゃどくろのイメージを、思い直した。
「だったら、こいつを使うか………。」
身体能力を炎を使ってアシストさせて跳び、十メートル程後退した。
はっきり言って、時間的にも身体的にも余裕が無い。
着地と同時に俺は、左手に炎を生成した。そして大気中の酸素を吸収させ、青く高温の炎に変換させる。
炎は高温になる程、色が青白くなる。赤い炎は約一八〇〇Kに対し、青い炎は約一六〇〇〇Kになる。
ケルビンとは熱力学温度の単位であり、一般的に使われるセルシウス温度とは別物である。最も低い温度とされる絶対零度は、ケルビンでは〇Kと表される一方、セルシウス温度では-二七三.一五℃となる。
つまり、赤い炎は一般的なセルシウス温度で表すと一五二六.八五℃となり、青い炎は一五七二六.八五℃となる。
その温度差、一四二〇〇℃。
右手で腰に吊ってある倶利伽羅剣を抜く。そして俺は、左手に生成した青い炎を、倶利伽羅剣の刀身に纏わせた。
地を蹴り、滑る様にがしゃどくろへ迫る。
青白い倶利伽羅剣は彗星の様に輝き、一種の幻想的な光景となった。そして呟く。
「A red flame indicates a victory, and a blue flame indicates undefeated.」
『赤き炎は常勝を示し、青き炎は不敗を示す。』
「I don't allow a single defeat, I just want victory.」
『ただ一度の敗北を許さず、ただ勝利を欲する。』
「Beyond is a winning victory, not a winning victory.
Keep the pinnacle of all things, protect and fight alone.」
『その先にあるものは、勝つ勝利では無く、守る勝利。
万物の頂点となり続け、守り、独り戦う。』
俺達二人が独自で見つけ出した、威力を高める為の式句。所謂『言霊』である。
イメージするものを鮮明にする為に、声に出したのだ。
そしてこれは、日本語よりも英語の方が威力が高い。その上、技そのものの式句よりも、自身の信条や願望を唱えた方が、更に威力が高まる。
俺は羞恥を押し殺し、必死に覚えた英文の式句を唱えた。途端に青い倶利伽羅剣が、その火力を更に高めた。それと同時に、俺の背後で無数の魔方陣が展開され、青白い炎を纏った刀身が現れた。
『蒼炎剣界』。
「ギギ………。」
一本の神力が倶利伽羅剣と同等である。それが無数にある為、全体の神力がとてつもなく高い。
がしゃどくろもそれが感じられるのか、少し後退した。
しかし、だからと言って俺は手を抜く気は毛頭無い。
「放てっ!!!」
俺の声が引き金となり、魔方陣から剣が連射された。
「ギギギッ!!!」
その巨大な手で、連射される剣を凪払おうとしたものの、絶え間無く飛ぶ、高速かつ高神力の剣を全て防ぐ事は不可能。そのほとんどが手を通り越し、あるいは手を貫通させてがしゃどくろを貫いた。
目に見えて、ダメージを受けている事が分かった。
その巨体が、魔方陣から飛ぶ剣によって傾いている。
この瞬間、がしゃどくろは完全に俺の事を忘れていた。その隙を逃さず、俺は地面を強く蹴り突けて、がしゃどくろの頭上まで跳んだ。
「これで、終わりだっ!!!」
そしてその巨大な頭蓋骨を、青い倶利伽羅剣で叩き斬った。
その亀裂から瘴気が漏れだし、金色の目は徐々に光を弱めて消えた。その途端、がしゃどくろの骨がガラガラと音を立てて、崩れ落ちた。
「や、やった………。」
「凄ぇな、坊主は………。」
がしゃどくろは今や、完全に骨の山になっていた。俺はそのまま戻ろうとしたその時、
「?」
その破片の中から、キラリと何かが光った事に気付いた。よく見るとそれは、ルビーの様に赤く光る宝玉だった。丁度、がしゃどくろの頭蓋骨内部だった。
「なんだこれ?」
禍々しく赤黒い、血の様な色、形は完全な球体で中には黒い球体が入っていた。大きさとしては、ビー玉程度だった。なんとなく、白目が赤く染まった眼球を連想させた。
俺は不気味な宝玉を手に取った。恐ろしい程冷たかったが、特に何も起こらなかった。
がしゃどくろの残骸を背に、俺はオープンカーに戻った。
第八戦 ‐美波‐
直ちゃんががしゃどくろと対峙している時、私は鵺と戦っていた。がしゃどくろがパワータイプの魔物に対し、鵺はスピードタイプ。
その速さの所為で、私は狙いが定まらなかった。
「………くっ。」
速い。速すぎる。
直ちゃんと対戦している様だった。
私は弓兵。
直ちゃんや和哉さん達の剣や槍みたいな、近距離攻撃は難しい、遠距離攻撃に秀でたリジェクターだ。
だから、今までは射程圏外に出られたり、射撃直後に肉薄されると対応が取れなくなってしまう。
―――今までは。
「グガゥッ!」
「あっ!」
鵺に銀の弓を弾かれてしまった。この武器は遠距離武器である上、光と言う無実体が原料の為か、強度が低い。
鵺の一撃だけで弓にひびが入り、一部が欠けた。
好機だと感じたのか、鵺が再び、腕を振りかぶった。
振り下ろされる、鵺の腕。その爪から、瘴気が尾を引く。
その腕に目掛けて私は………、
「やあっ!!」
「ガアァッ!?」
―――光子を脚に纏わせて、鵺を腕ごと頭を蹴り飛ばした。
鵺はそのまま、十メートル先にある無人の廃墟となったアパートに突っ込んだ。
「嘘っ!?」
「凄いです、美波姉ちゃん!!」
沙耶香さんの驚愕した声と、麗奈ちゃんの純粋な称賛の声がした。
『徒手空拳?』
私達が藤堂一家と出会う一年半前、私は直ちゃんに、弓の弱点の対策方法を相談した。
『ああ、弓矢の特徴って遠距離攻撃が出来ることだろ?』
『うん。』
『って事は、近距離に持ち込まれれば勝算は無くなるって事だろ?』
『………うん。』
そう、それが問題なのだ。
『だから、素手による迎撃をすれば良いんだよ。』
『えっ、それなら短剣や小太刀とか、それこそ直ちゃんみたいに剣を使えば良いんじゃないの?』
すると直ちゃんは、ジト目で私を見た。何だか居心地の悪さを感じる。
『………お前、弓以外の武器使えるのか?』
『あ………。』
そうだった。私は極度の不器用だった。
体育の成績は、クラス単位で見ても、後ろから数えた方が早かった程だ。
『お前って、恐ろしい程不器用だっただろ?今使っているその銀の弓ですら、つい最近使いこなせる様になったばかりじゃねぇか。下手に武器を増やすより、可能な戦闘手段のレパートリーを増やした方が、よっぽど実戦に役立つぜ。』
『むぅ………。分かってるけど、はっきり言わないでよ………。』
思わず頬を膨らました。
(どうせ不器用ですよーだ。自覚してますよー。)
その日から私は、直ちゃんから能力でアシストさせた徒手空拳を教わった。
ちなみに直ちゃんは、素手による格闘経験は無い。それを補うかの様に直ちゃんは、素手の対魔物戦闘を今まで続けていたそうだ。多少は拳法や空手なんかの型を取っているが、実際の動きは完全に戦闘そのもの。殺しにかかっていた。
………直ちゃん直々の訓練によって、私は何度も花畑を幻視した。
この訓練のお陰で、この時の私は、徒手空拳に限って直ちゃんと互角になった。………と、思い込んでいた。
私が直ちゃんに正拳突きをすると、直ちゃんは手刀で正拳を受け流してから回し蹴りで私ごと蹴り飛ばしたり、その腕を掴まれて一本背負いを食らったり、時には正拳・顎・鳩尾の三ヶ所を同時に掌底で迎撃されるという神業を受ける事もあった。
『ハァ………、ハァ………。』
『美波、………お前単純すぎ。』
私は所謂、奇策の対応を苦手としている事が分かった。
『美波は良くも悪くも、王道の正面突破を狙う癖があるな。だが対人戦みたいに、思考力のある相手と戦う場合は、正面突破は悪手になることが多い。』
『ハァ………じゃ、じゃあ、どうすれば、………いいの?』
整っていない息のまま直ちゃんに尋ねる。
『………このアドバイスで良いのか分からんけど、俺は必ず、頭の中で迎撃方法を予測している。』
『………え?』
『相手がこの手段で攻撃したら、こう対応する。相手にこう攻撃したら、きっとカウンターはこうなる。だからこの手段で躱す。ってみたいに、頭の中で予測してんだ。』
正直、この話を聞いた時には複雑な気持ちになった。
これはつまり裏を返せば、今までの私の攻撃は予測範囲内だったって事。凄いと思う反面、私の単純さが表れている気がした。
………そう言えば、直ちゃん私に『単純すぎ。』って言ってたっけ。
それからずっと、私は直ちゃんと訓練を続けた。その影響か、動体視力と反応速度が上がった。そして私は、独学で拳法を学び、今は本当に直ちゃんと互角に戦える様になった。
今では直ちゃんの剣筋が見え、その刃に矢を当てる事が出来る程にまでなった。
(負けない。負けられないんだ!)
私は鵺を蹴り飛ばしたアパートに向き直った。
「ゴルルル………。」
鵺は既に体勢を整えていた。今にも飛び掛かりそうな、隙の無い構え。
それに対し私は、銀の弓を振り消し、両手両足に光子を纏った。
『纏い術・月光の鋼』。
この光子を纏うことで、直ちゃんの様に身体能力を一時的に上昇させる事が出来る。
私が独学で学んだ拳法は、『太極拳』。今では健康法となっている、ゆっくりとしたイメージがあるが、本当の太極拳は全く違う。
戦闘の太極拳は、もっと俊敏かつ強力である。
使う技は、脳を揺らす太極拳の中で数少ない、骨を打ち砕く拳、『進步搬攔捶』。
鵺が少し、身体を沈み込ませた瞬間、
「グラアッ!!」
大きく跳躍してきた。
降ってくる鵺の腕を、左手で払う。
慣性で跳んできた眉間に目掛けて、右手で拳を打つ。
「グルル………。」
強力な拳でも、鵺を一撃で倒すには難しい。だが、
(拳は効いている。ならば、数だ!)
「My power is the moon god.」
『我が力は月神。』
「My spirit is its majesty.」
『我が気はその威光。』
「The only light that illuminates the dark night.
Wear on my fist and wear evil.」
『闇夜を照らす、唯一の光。
我が拳に纏い、悪を穿て。』
直ちゃんと見つけた『言霊』。
その式句を唱えた途端、私の身体を纏っていた光の密度が、より高くなった。
「グルル………、グロロロ!!」
再び飛び掛かってきた鵺に、私は冷静に対応する。
(『頭に血を上らせるな。常に冷静でいろ。』だったね、直ちゃん!)
鵺の攻撃を、拳・蹴り・掌打・手刀・肘と繰り出し、相殺しながら攻撃をする。
不思議な事が起きた。
(えっ?)
鵺の動きが、手に取る様に分かる。
否、鵺の先の動きが予測出来る。
「腕をこのタイミングで振る」や「この後に噛みつく」など、鵺がこの後に取るであろう行動が、意識しなくても分かった。
「ゴルル………。」
先程から、自分の攻撃全く当たらなくなった事に気付いたのか、鵺の動きに乱れが出てきた。
その隙を逃す筈が無い。
本の少しだけ後退した鵺の、前足を二本、同時に脚で払う。
体勢を崩した鵺の、顎に突き上げの掌底を打つ。
光子のアシストをされた掌底は、鵺を空中で反転させた。
反転した鵺の喉元を狙い、手刀を落とす。鵺は背を地面に強かに打ち付け、乾いた声を出した。
蜘蛛の巣に割れた地面から跳ね返った鵺の胴体に、回転して遠心力を上乗せさせた回し蹴りで蹴り跳ばす。鵺の胴体に脚が触れた時、背骨が折れる感触がした。しかし罪悪感は感じず、
(魔物にも骨あるんだ。)
と言う、至極どうでもいいことを考えていた。
鵺は、先程突っ込んだ無人アパートに飛ばされ、アパートは全壊した。
瓦礫の下敷きになっているが、それで終わったとは、当然考えていない。
瓦礫から出て来た鵺は、
「ヒョオオオゥゥゥ。」
と、奇妙な声を上げ出した。その途端、
「ううっ!?」
「な、何だっ………。」
急に和哉さん達が苦しみ出した。
「美波!鵺の鳴き声だ!」
先にがしゃどくろを倒した直ちゃんが、苦しむ原因を言い当てた。直ちゃんは、両手で印を結んでいたからか、苦しんでいなかった。
「鵺は平安時代末期に現れた妖怪で、二条天皇がその鳴き声を聞き、病気で衰弱したと平家物語で語られている。」
直ちゃんは魔物と対峙する時の為に、国内外あらゆる魔物の伝承を頭に叩き込んでいた。
そしてその魔物の、討伐方法も知っている。
「そして鵺を討伐した源頼政は、源氏の守護神である八幡大菩薩に祈りながら、矢を放ったと伝わっている。鵺の弱点は、光の弓矢だ!」
「わ、分かった!」
直ちゃんは、上着の内ポケットから二つ折りの呪符を四枚取り出し、和哉さん達に貼った。少しずつ、和哉さん達の顔色が良くなった。
(………許せない!)
この戦闘に和哉さん達を巻き込み、苦しませた鵺に対し、私は怒りに震えた。しかし、怒りで我を忘れなかった。
(鵺の弱点は弓矢、だけど………。)
鵺はスピードタイプ。しかも脚で走っている訳ではない。
鵺は走る時、自身の身体を黒い雲に変えているのだ。脚が見えない為、鵺の進行方向が予測出来ない。
その上今は、鵺が吐き出した黒い濃霧によって、辺りが全く見えなくなっている。
駄目元で足下に撃って、動きを抑える?いや、そもそも動く方向が分からなきゃ、狙いようがない。
「月神の威光」で一気に仕留める?それも確実とは言えない。
(………どうする?どうすれば良いの?)
そう言えば、直ちゃんに聞いた事があったな。
『敵の場所が分からない時?』
もしも敵の居場所が分からなくなった時の方法。確か………、
『美波、あえて敵を見ようとしなくても良いんだよ。』
『どう言う事?』
『魔物の中には、実体が無かったり、俺の陽炎みたいに、一時的に非実体化する奴もいる。そんな奴を相手に、はっきり言って視認はしない方が良い。』
『じゃあ、どうするの?視認しなければ、攻撃も防御も出来ないよ。』
すると直ちゃんは、人差し指で私のおでこをつついた。
『第六感ってやつを使う。気配を感じるんだ。』
『………そんなの出来るの?』
『ああ、拳法が使えるなら、第六感を会得するのも難しくは無いぜ。』
直ちゃんの言う事は、少し理解が難しい。
『美波、直感を信じてみな。それが第六感に繋がるから。』
(鵺の気配を感じる………。)
私は神力を、辺りに広げた。より広範囲の気配を察知する為に薄くし、広げていく。
後ろの暖かく、日溜りの様な直ちゃんの気配。力強く、優しい和哉さんの気配。柔らかいながらも鋭い、沙耶香さんの気配。元気で満ち溢れている、拓史君と麗奈ちゃんの気配。そして、
(………見つけた!)
右斜め前にある、冷たい殺気。
間違いない、鵺の気配だ。
黒い濃霧に視界が塞がっている中、私は銀の弓を出し、殺気に向かって矢を番えた。
「A flash that cuts through the dark night, its power represents the power of the moon god.」
『闇夜を切り裂く一閃を放ち、その威力は月神の威光を表す。』
「Fight for the right victory and win.」
『正しい勝利を欲する為に戦い、そして勝利する。』
「Always look for the right meaning and fight.
The pure light turns into arrows and rain, creating new meaning.」
『常に正しい意味を探し、戦う。
清らかなその光は矢と化し、雨となり、新たな意味を生み出す。』
直ちゃんと見つけた、別の言霊。先に唱えた言霊よりも長く、言い間違えない様にしなければならなかった。たった一言でも、たった一文字でも言い間違えてしまえば、その術は途端に破綻してしまう。
その反面、長い言霊を言い間違えなければ、より高い効果が期待出来る。
この言霊が効果を示す技は一つ。
『月神の威光』だ。
しかし、そのままでは威力だけが高まるだけで意味が無い。
「纏えっ!!!」
月光を矢にして撃ち込むのではなく、銀の弓に番えた矢に纏わせる術式。
空から降ってきた光の矢は、番えた矢に吸い寄せられ、矢と一体化する。
白色の矢は更に光を強め、一回り大きくなった。
その矢の先端、矢尻の先がより強く発光する。その光に反応する様に、私を中心に風が吹き荒れる。
『月神の裁き』。
今の矢の威力は、直ちゃんの倶利伽羅剣の一撃を遥かに上回っている。同様に、神力も桁違いに跳ね上がっている。
『ゴ………グルル………。』
黒い濃霧の中で、鵺の狼狽した声が響く。僅かに殺気が弱まった。
「………フッ!!!」
光の矢は、流星そのものとなって鵺に襲いかかった。
「ググ………ゴアッ!」
鵺は、矢が当たる直前に身体を反らし、回避しようとした。
………これがただの矢なら、判断は間違っていなかった。そしてこの光の矢を相手に、この手段は全く意味が無い。
「ガガガアッ!?」
紙一重で避けようとした鵺の横腹に、光の矢が深々と突き刺さった。途端に鵺の傷口から、どす黒い瘴気が漏れ出した。
この矢は、私が第六感で感じた殺気に向かう様に、最初から定義されている。それ故矢を避けたとしても、殺気がある限り、何処までも追い続けるのだ。
「ガアアアァァァ………。」
瘴気と共に声が萎み、身体の力が抜け、とうとう崩れ落ちた。
瘴気が漏れ終わった時には既に、鵺はピクリとも動かなくなった。
「や、やった………。」
ようやく終わった強敵・鵺との戦闘の疲れで、私はその場にペタンと座り込んでしまった。
すると後ろから、
「お疲れさん、美波。」
ポンと直ちゃんが私の頭に手を置き、撫でてくれた。
その優しさに、その温かさに、私は涙を滲ませた。
第九戦
鵺との一騎討ちと言う、女子にとって厳しい戦闘を、美波は勝ち抜いた。
それを俺は、彼氏として誇らしいと思うと同時に、美波にこれ程厳しい戦闘をさせてしまったことに、後悔の念を感じた。
俺は美波の側まで歩み寄り、その頭をそっと撫でた。そして、
「お疲れさん、美波。」
と、耳元で囁いた。
すると美波は、両目に涙を滲ませて、俺を見上げた。その仕草が、とてつもなく可愛かった。
堪らず俺は、美波を肩越しに抱き締めた。
そして俺は、形の整った唇にそっと、自身の唇を軽く押し付けた。
『いや~、相変わらずのチートパワーだよ、坊主達は。』
「「………。」」
無線から軽いからかいが交じった和哉さんの声がしても、俺達は反応出来なくなった。
否、反応出来る程の精神状態じゃなくなった。
近くに藤堂一家がいることをすっかり忘れて、俺達はとうとうキスをしてしまった。
軽くとは言え、キスはキス。
あの後散々一家(主に藤堂夫婦)から、からかわれてしまった。
羞恥と弁明によって俺達は、がしゃどくろと鵺との戦闘以上に、主に精神的に疲労したのだ。
『まぁ、その後のお前達のキスの方が、俺からしてみれば衝撃的だったけどな!』
「「うっ………。」」
『貴方、もうその辺にしてあげて下さいな。二人とも何も話せなくなっていますよ。』
漸く沙耶香さんからの援護が入った。しかし、今まで和哉さんのからかいを放置していた為か、どうにも共犯者の様にしか感じられない。
その時、付近から生物反応を感知した。同時に美波も感知したのか、目の色を変えた。これ幸いと俺は、無線に話し掛ける。
「和哉さん、付近から生物反応を感知しました。」
『え、どの位の距離だ?………俺には感知出来ないし、周りにもそんな気配は無いぜ。』
それに答えたのは、隣の美波だった。
「約二~三キロメートル先です。」
『はぁ!?そんなに先の生物反応を感知出来るのか!?』
「はい、出来ますよ。」
『出来ますよって………。』
『直輝兄ちゃんも美波姉ちゃんも、やっぱ凄ぇ。』
何か、大した事はしてないのに呆れられた。
「そう言えば美波、鵺から何か見つけたか?」
「うん、これを見つけたよ。」
そう言って美波は、ズボンのポケットからあるものを取り出した。それは、俺ががしゃどくろから取り出した赤い宝玉と良く似た、黄色の宝玉だった。色が違うだけで大きさも、中の黒い球体もほとんど同じだ。
「鵺の頭から出てきんだ。びっくりするぐらい冷たかったよ。」
「そうか、そこも同じだったのか。」
そう言って俺も、胸ポケットから赤い宝玉を取り出した。
「直ちゃんも見つけたんだ。」
「ああ、必要になるかと思ってな。」
「………何だか嫌な予感。」
「同感だ………。」
旧静岡県の西部、旧浜松市の駅前に着いた。
とは言え今は、人一人もいない。
当然電車や新幹線、バスの一台も無かった。そんな物音も、気配も無い旧浜松市の路上に、たった一台だけ、自動車があった。
『坊主、自動車があるぜ。』
「はい。その中から、生物反応を感じます。」
『何人いるのかしら?』
「三人ですね。だけど一人、かなり生物反応が弱いです。もしかしたら、高齢者か子供かもしれません。」
「分かった。近づいてみるか。」
俺達の車は、路上の自動車に近づいた。
「………。」
路上の自動車の近くに停車して、俺達は車外に出た。
「あれだな、坊主。」
「はい、生物反応はまだします。」
「ってことは、動いて無いのね?」
「恐らくは。」
恐る恐る自動車に近づく俺達。すると、いきなり自動車のエンジンが掛かった。そして、
「………誰ですか?」
運転席の窓が開いた。そこには三十代の女性がいた。
「………魔物でも、魔人でもなさそうですね。」
「あ、はい。俺達は抵抗者です。」
突然の声掛けがあるとは思わなかったが、冷静に答えた。
「えっ!?本当にリジェクターなのかい!?」
そう反応したのは、後部座席に座っていた、同じく三十代と思われる男性だった。
「そうですが?」
「なら、この子の呪いを解いてくれ!!」
慌ただしく後部座席のドアが開き、男性が下りてきた。約百七十センチ程の男性の腕には、息が荒い赤ん坊が抱かれていた。
「えっ!?」
「ど、どうしてですか!?」
「君達はリジェクターなんだろ!?だったら、呪いの解き方が分かるはずだ!!頼む!!」
男性はなりふり構わず、赤ん坊を見せた。その赤ん坊の右の二の腕は、赤く腫れ上がっていた。
「なっ!?」
「どうしたの、直ちゃん!?」
思わず声を漏らしてしまった。何故なら、それを一目見た途端、俺には呪いの正体が分かったからだ。
「これは………、この場で解呪出来ない呪法だ。」
「………どういうことなの、直ちゃん。」
「これを見てくれ。」
そう言って俺は、赤ん坊の二の腕に呪符を当てた。すると、そこから『蠱』の文字が浮かび上がった。
「っ!?」
それを見た途端、沙耶香さんが無言の悲鳴を上げた。
「えっ、何?何なの、直ちゃん?」
「どうしたんだ、沙耶香。」
美波と和哉さんには、この呪法の種類が分からなかった様だ。
「この呪法は、『蠱毒』。古代中国から伝わった、強力な呪法だ。」
「ええ。呪法自体はそこまで強く無いけど、少しでも強くなったら、命の危険があるわね。」
流石沙耶香さん。スカアハの能力故、呪法や魔術に詳しい。
「蛇や百足、蛙なんかの百虫を一つの壺とかに入れて、共食いをさせて、最後に残った一匹を神霊として祀る呪法だ。その毒を使って、相手を殺す事が出来る。」
「………危険なの?」
「古代中国でも、この呪法はとても危険である為に、蠱毒を行った人は死刑に処されたのよ。」
「ひぇっ!!」
沙耶香さんの発言に、美波は小さく悲鳴を上げた。
「じ、じゃあ………、治せないのかい?」
男性は不安そうに訊ねる。
「いえ、まだ死んでいないのならば、解呪出来る可能性はあります。」
「ほ、本当かい!?是非、治してくれ!!」
男性は頭を下げた。藁にもすがる思いが、手に取る様に感じられた。
「わ、私からもお願いします!!」
運転席の女性も下りてきて、男性の隣で頭を下げた。
「この子が治るのなら、どんな事でもします!ですから、お願いします!!」
「「「「………。」」」」
俺達は、何も言えなくなっていた。治してあげたい気持ちもある。しかし、どうにも裏がある様で、解呪をすぐに受けることが出来なかった。その時、
「僕は、治してあげたい!」
「私も!」
キャンピングカーから、拓史君と麗奈ちゃんの声がした。
「その人達、嘘はついてないと思うよ。」
「………どうして、そう思う?」
「だって、そんなに必死に頭を下げる人達だよ?直輝兄ちゃんや美波姉ちゃん達と同じで、大切な人を守りたいから、そうしてるんだと思うよ。」
「………そうか。」
俺は考えた。ここで了承する事は、情に流されたと言う事。そしてその判断は、時に破滅を招く事もある。
「どうする、坊主。」
「………直輝さんの判断に任せます。」
和哉さんと沙耶香さんは、俺に判断を委ねた。反対側の美波を見ると、美波は無言で小さく頷いた。
そして俺は、判断を下した。
「………分かりました。蠱毒の解呪の為、微力を尽くしましょう。」
俺は、解呪を了承した。
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!!」
「どうか、お願いします!!」
男性と女性は、何度もお礼をした。
「あ、申し遅れました。私、山科亜希と申します。こちらは私の夫の蓮、そしてこの子は娘の詩音です。」
女性、亜希さんは慌てて自己紹介をした。
「俺は藤堂和哉です。こっちは嫁の沙耶香、車に乗っているのが息子の拓史と娘の麗奈。そしてこの二人は、恩人で友人の秋山直輝と鈴野美波だ。」
後を継いで和哉さんが、自己紹介を返した。
にしても、『恩人で友人』って思ってくれてたんだ。
………何か、くすぐったい。
二人揃って頭を下げている時、俺は顔がにやけてしまうのを抑えていた。
エンディング
コトコトと煮込む音、トントンと包丁を使う音、そして香ばしい料理の香りが、キャンピングカーから漂ってきた。
『私が夕飯を作るよ。』
と美波が提案し、それに沙耶香さんと亜希さんが乗っかって、三人で料理を作っていた。
時々女性陣の笑い声が響いてきて、何だか微笑ましい。
一方俺達男性陣は、拓史君と麗奈ちゃん、詩音ちゃんの子供三人の面倒の傍ら、戦闘の話をしていた。
「成る程な、坊主はパワータイプと思っていたが、あのスピードの産物だったんだな。」
「そう言う和哉さんこそ、スピードは驚異的ですよ?拓史君も中々のものだしね。」
「そ、そうですかね………?」
「………凄い。」
正確には、俺と和哉さんと拓史君が対等に話をして、蓮さんは何とか理解している形だ。
蓮さん達山科一家は、リジェクターはいないらしい。
しかし、詩音ちゃんの呪いを何とかしなければならない事は分かっていた為、車で移動していたと言う。
「えっと、………ちょっと聞きたいんですけど。」
「何ですか?」
「皆さんの能力は何ですか?私知らないんですけど。」
「俺は『クー・フーリン』で嫁は『スカアハ』、拓史は『オーディン』で麗奈は『天照大御神』だ。」
「俺は『不動明王』で、美波は『アルテミス』です。」
「………伝説と神話、宗教の人物ばかりですね。」
「基本的には、神と英雄を司っていますからね。」
その時、
「出来たよ~。」
「お待たせ~。」
「お待たせしました。」
美波と沙耶香さん、亜希さんが料理を運んできた。
今俺達は、車を近くに寄せ合って簡易の机と椅子を出していた。その机に、所狭しと皿が並んだ。
そして、
「「「「「「「「頂きます!」」」」」」」」
楽しそうな夕飯が始まった。
詩音ちゃんの蠱毒の呪いも、今は効いていない様だったらしく、スヤスヤと寝息を立てていた。
その様子を見た亜希さんは、ホッと一息吐いていた。
「もう直ちゃん、ご飯粒付いてるよ。」
周りを気にしすぎていたのか、頬にご飯粒が付いているのに気付かなかった。
「ほら、ここだよ?」
「あ、悪い。」
隣の美波が自然に、頬のご飯粒を取った。
「ありがとな。」
「フフっ、どういたしまして。」
すると、急に周りが静かになった。見回すと、全員が俺達二人を見ていた。
「相変わらず甘いわね………。」
「バカップルだな………。」
「直輝兄ちゃん、うっかりしすぎだよ………。」
「美波姉ちゃん、ラブラブです!」
藤堂一家は、呆れた顔をしていた。(若干一名は違っていたが。)
そして山科夫妻は、
「………直輝さん、子供っぽいですね。」
「………美波さんってば、大胆ね。」
あり得ないものを見た様な顔をしていた。
「あっ………。」
「………うぅ。」
相変わらずな仲を公開してしまった為、二人して赤面して項垂れた………。
「お二人は、付き合っているのですか?」
蓮さんから、新たに爆弾が投下され、またしても俺達は赤面した。
「は、はい。………付き合ってます。」
消えそうな程小さい声で、美波が答えた。すると、
「いや、『付き合ってる』じゃ無いな。」
和哉さんから否定された。
「「え?」」
俺達は付き合って無い?どうしてだ?
「この二人は、『夫妻一歩手前』だからな。」
「「なっ!?」」
夫妻一歩手前だと!?そんな事言った覚え無いけど!?
すると隣から、
「夫妻………一歩手前?やだ、恥ずかしい………。でも………、良いかも………。」
………あれ、嫌がって無い?むしろ嬉しそう?
「ええ、そうね。この二人、人がいる前で堂々とイチャイチャするし、キスまでしちゃうんだから。後出来てないのは、式だけじゃないかしら?」
「し、式!?」
またしても俺は驚愕した。その隣で、
「えっと、………式は何処が良いのかな?………沙耶香さんや亜希さんに聞くべきよね。」
いつの間にか、美波はトリップしていた。
「あ、あの!」
思わず声を上げた。
「俺達は確かに付き合ってます!ですが、結婚はまだですよ!」
すると、
「プッ、ククク………。」
「冗談ですよ?直輝さん。」
ニヤニヤと藤堂夫妻がからかう。
「まぁ、あながち間違ってないけどな。」
「そうですね。この二人の通称は、『秋山夫妻』ですもの。」
そんな会話の中、
「美波さん、可愛いわね。」
「直輝さん、ファイトです………。」
山科夫妻は勝手にイメージを定着させてしまった………。
………もう、この二人の中ではバカップルのイメージがあるんだろうな。
………はぁ。
三部を書き終わるのに、やけに時間が掛かってしまいました。
ですが、私も嫌になったから辞めてた訳ではありません。
一応、受験をしてました。ご容赦下さい。
さて、固苦しい謝罪はこの辺にしましょうか。社会じゃ絶対出来ませんけどね。
今回、直輝と美波は詠唱をしてますが、一応これもオリジナルです。英語にしたのは、日本語だと格好悪く感じたからです。
まぁ、日本語の詠唱も取り入れる予定も無くも無いので、今後に乞うご期待を。
そして、今回新しく登場した山科一家。今後の冒険(?)のキーとなる………予定です。
何故かって?そりゃ、決めてないからです。
まぁその辺も、今後に期待してて下さい。
さてさて、今後も色々な人物が登場する予定です。英雄やら神様やらを司らせないといけないので、少々(?)大変です。
その辺りも、暖かい目で見てて下さい。
では、四部もよろしくお願いします。