表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リジェクター・バトル   作者: 平菊鈴士
2/7

壊滅日本戦闘記 第弐部

  オープニング

 翌日、俺達は眠い目を擦りながら『十一号室』に入った。三食はこっちで用意してくれると提案してくれた為、お言葉に甘えさせてもらったのだ。

「「………おはようございます。」」

 間の抜けた様な挨拶をする俺達。そこに、

「おはよう、二人共。………昨晩はお楽しみで?」

 沙耶香(さやか)さんの一言で、俺達の眠気は一気に覚めた。

「な、何言ってるんですか!?」

「そ、そうですよ!な、(なお)ちゃんとは別の部屋でしたから!?」

 美波(みなみ)と一緒に、俺達は慌てて否定した。からかわれていることも、気が付かなかった。

 昨晩、俺達は満足するまで抱き合った後、別々の部屋で寝た。しかし、藤堂一家が見た場面は俺達が二人で部屋に出て行ったところまでのはず。こう予想されるのも、ある意味当然だ。

 沙耶香さんは、俺達がところ構わずイチャイチャしているものだと思い込んでいる。だけど、俺だって場所は考えるぞ!(説得力皆無だけど。)

 ………何でこの人は、俺達をそういう目で見るのだろう?


「おう。おはようさん、お二人さん。」

 昨晩、宴会の様になった夕食で使った大きい机の前に座ったら、奥から和哉(かずや)さんが頭を掻きながら挨拶をした。

 隣で座っている美波と俺を交互に見ると、急ににやけた顔をした。………何だか嫌な予感。

「朝から熱いねぇ。昨日はちゃんと寝たのかい?」

 俺と美波は、顔を真っ赤にした。

「おやおや、どうやら当たったのかな?」

「違います!美波とは別の部屋で寝てますから!!」

「そうやって慌てるところが、尚怪しいな~。」

「そうよね~。初々しいわねぇ、貴方。」

 沙耶香さんも入って、俺達を弄り始めた。美波は、とうとう何も言えなくなっていた。

 結果、俺一人で必死に誤解を解こうと奮闘していた。

 ………いい加減にしてくれよ、この夫婦はぁ~!!


「あ、おはよう!直輝(なおき)兄ちゃんと美波姉ちゃん!」

「おはようです!」

 暫くしたら、今度は拓史(たくし)君と麗奈(れな)ちゃんが起きてきた。朝から元気が良いなぁ。

「おはよう。」

「おはよう、二人共。」

 にっこりと笑う兄妹。………そこの夫婦みたいに弄られる事は無く、ほっとした。


  第四戦

「さて、今後坊主達はどうするんだ?」

 朝食を終わらせると、和哉さんは真面目な顔になって聞いてきた。俺達も、いつまでもお世話になるつもりは無かった。

「俺達は、他のリジェクターを探すつもりです。そして、跋扈する魔物を全て倒します。」

「最終結果は、全魔物の討伐か………。」

 和哉さんは腕を組み、目を瞑って考えた。

「………その計画、俺も参加させてもらえるか?」

「え、それはありがたいのですが………。」

「和哉さんには、家族がいますよね?一家の大黒柱が私達と行動すると、家族と生活出来ませんし、………万一の事があった時、間に合わない事もあるかもしませんが?」

 美波の発言は、最悪のシチュエーションだ。しかし、起こり得る可能性は高い。必ず考慮しなければならないのだ。すると、

「悪いが、俺達一家を舐めないでくれ。」

 和哉さんは、少し怒気を含んだ声で言い放った。

「俺の能力は、知っての通り『クー・フーリン』だ。嫁の能力は『スカアハ』だ。」

「えっ!?」

「?」

 驚いたのは、俺だけだった。美波は、どうやら分かっていないようだった。

「スカアハって誰?」

「クー・フーリンの師匠だ。槍の名手で、『影の人』と言う意味がある。………ゲイボルグを教えたとも言われる、伝説の女性だ。」

 俺の説明で、美波は目を見開いた。

「って事は、沙耶香さんは和哉さんより強いのですか?」

 ………おいっ!無神経な質問してんじゃねぇよ!!すると、

「まぁ、そうだな。沙耶香が怒ると………。」

 昨晩の寒気が、再び感じられた。和哉さんの隣では、………吹雪のスカアハがいた。

「貴方、美波さん。その辺にしてくださいね?」

「お、おう………。」

「は、はい………。」

 二人して、黙り込んだ。………沙耶香さん、怖ぇ。

「………直輝さん。」

「は、はい!」

「………それ以上、言っては駄目ですよ?」

 この人、心読んだのか!?

 ………兄妹二人は、分かっているのか何も喋らなかった。


 冷え切った空気の中、和哉さんは咳払いをした。

「………嫁の能力は、さっき言った通りだ。そんでもって、戦わせていないが、息子と娘にも能力があるんだ。」

 何と、この一家は全員能力持ちなのか!

「僕は『オーディン』です。」

「私は、えっと『天照大御神(あまてらすおおみかみ)』です!」

 しかも、北欧神話の主神と日本神話の太陽神か!!流石にこの二柱は知っているのか、美波も驚いていた。

「だから、心配は無用だ。何なら、一家全員で参加するってのはどうだ?俺や嫁は即戦力になるし、息子と娘は訓練こそ必要だが、重要な戦力になると思うぜ。」

 暫く考えた。この提案はかなり魅力的だが、色々と問題はある。その前に、俺は兄妹に確認をした。

「拓史君と麗奈ちゃん。」

「「はい。」」

「………二人は戦いたいか?」

 戦力どうこうの前にまず、『戦いたいか』。その意思の有無で、提案は破棄するかが決まる。すると、

「戦いたいです!僕の能力が役に立つなら、訓練もしたいです!」

「私も、戦いたいです!」

 ………正直、まだ悩んでいた。年齢で見れば、小学校低学年と幼稚園児だ。戦場に立たせるなんて、させたくはなかった。しかし、本人達はやりたいと言う。訓練もしたいと言う。その意思は尊重するべきか。ふと、隣の美波を見ると、美波は上目遣いで俺を見ていた。

 (直ちゃんに任せるよ。)

 目で訴えていることが、よく分かった。そして俺は、決意した。


「………分かりました。全員で戦いましょう。」


 ーーー俺の命に変えても、全員を守り抜く!!


 藤堂一家が歓声を挙げる中、美波はまだ、俺を見ていた。その目は、僅かに潤んでいた。


「あの、もしかしてですけど。」

 俺は、このアパートに来た時からの疑問をここで聞く事にした。

「何だ?」

「アパートの結界は、沙耶香さんが張ったのですか?」

 そう、アパートの結界だ。アパートそのものに結界が掛けられていて、魔物等の視認及び侵入を防いでいた。これまでは和哉さんが張ったとばかり思っていたが、沙耶香さんがスカアハの能力持ちだとしたら、話は違ってくる。

「ええ、そうですよ。でも何故、分かったのかしら?」

「スカアハは槍の名手であると同時に、魔術にも長けていたと聞いています。スカアハそのものの能力を持っているとしたら、この結界も張った人物が沙耶香さんだと言うことに、説明が出来ます。………沙耶香さん。貴女は、魔術全般を使うことが出来るのではないですか?」

 沙耶香さんは、絶句していた。やや時間が経って、その口を開いた。

「………驚きました。(うち)の子達にすら話していなかった事だというのに………。旦那が直輝さんを、『規格外人物』と言うのも、納得ですね。」

 最後は、微笑みながら答えた。しかし、俺は問い詰めたい単語を聞いて、和哉さんに冷たい視線を向けた。

「………和哉さん、『規格外人物』とはどういう意味ですか?」

 若干の怒気を含んでいた為か、和哉さんどころか沙耶香さんも、兄妹も顔を少し青くしていた。

「あ、いや。そのだな。………悪い意味があったんじゃないんだよ、本当にさ。」

「では、どんな意味があったのですか?」

 徹底的に問い詰める俺の隣で、美波が一言呟いた。

「………ここでは、直ちゃんと沙耶香さんだけは怒らせちゃ駄目だね。」

 ………美波よ、しっかり聞こえてるからな。


 その他にも様々な確認事項を見直して、俺達の今後の方針がある程度決定した。

 期間としては、約二ヶ月間はこのアパートに滞在する事になった。理由は単純。藤堂一家含め、全員が乗れる自動車の設計・製造をしなければならないからだ。

 今使っているオープンカーはそのままにして、もう一台は、キャンピングカーにしようかと考えている。万一の野営用として、使える様にする為だ。

 早速、俺はキャンピングカーの設計を始めた。他の皆は、兄妹の訓練に付き合うと言って、家事を残していた沙耶香さん以外は外に出ていった。


 一段落がついてから、俺は沙耶香さんと外に出た。

 そこでは、美波と和哉さんが拓史君と麗奈ちゃんの訓練に付き合っている………はずだった。

「………。」

「………これは、どういう訳でこうなった?」

「えっと………。」

 拓史君は、お茶を濁した。その隣の麗奈ちゃんは、無邪気にこう答えた。

「私が『父ちゃんと美波姉ちゃん、どっちが強いの?』って聞いたら、こうなったです!」

 目の前では、真剣な目をした和哉さんと美波が向かい合って、武器を構えていた。

 ………って、おいおい!本気かよ!?

 いつになく真剣な雰囲気に、俺は止める事が出来なかった………。


 最初に動いたのは、美波だった。

 銀の弓を構えながら、距離を取って槍の間合外に出る為に、後ろに跳んだ。そのまま矢が、白く発光しながら和哉さんに飛ぶ。

 何故か和哉さんは、微動だにしなかった。矢の先端だけを見ていたかと思うと、

「ふんっ!」

 矢の先端を槍の先端で突いたのだ。矢は儚い音と共に砕けた。あれは………、

「『点針破(てんしんは)』か?」

「そうですよ、旦那は槍の名手の英雄を司っているのですから、出来て当然です。」

 当たり前と、沙耶香さんが答えた。………いやいや、当然って。あれは、奥義にも部類する技だぞ?

 直後、和哉さんが動いた。

 地面を蹴り、低空を滑るように美波へ詰め寄る。そして、

「はああ!!」

 高速の突きの雨を繰り出した。とても一本の槍の技ではない。速すぎて残像が見えていた。

「っ!」

 またしても美波は、後ろに跳ぶ。そして矢を番える。本数は五本。今度は、和哉さんではなく上空に放った。

「どこに撃ってやがる!」

 和哉さんはまた、美波へ突進した。美波は、これを上に跳んで回避した。

「ちっ!」

 舌打ちした和哉さんが振り向いた瞬間、

「なっ!?」

 矢が和哉さんの真上から降ってきたのだ。紙一重で躱した和哉さんは、その直後に所謂直感で槍を高速で回した。その槍は、円盾シールドのようになり、美波の放った無数の矢を防いだ。

回転槍(スピンランス)』。

「どうよ?」

 口角を上げる和哉さん。対する美波は、無言だった。再び矢を番えると、今度は辺りが円く光り始めた。円状の光は回り始め、その中心から新たな矢が出てきた。円状の光は、魔方陣だった。

嵐月白矢らんげつはくし』。

「行けっ!」

 弓に番えた矢と魔方陣の矢は、息継ぐ間もない速度で放たれた。雨を越え、嵐の様な矢を防ぐ手立ては無いはずだった。

 和哉さんは、またしても回転槍で防いだ。しかし、無傷ではなく、腕や足に所々矢の掠めた傷があった。

 槍を再び構えると、何故か和哉さんは槍を投げた。直線で飛ぶ槍は、避けるに苦労はしないはずだった。………これが、ただの槍だったのなら。

 紙一重で美波は槍を避けた。通り過ぎた槍は直後、


 背後から再び飛んできた。


「えっ!?」

 驚愕の声がした。その為美波は、槍を避けるタイミングを僅かに誤った。

「くっ!?」

 脇腹を掠め、その痛みに声が漏れる。

「どうだ、嬢ちゃん。これが、ゲイボルグの力だ。」

 飛んできたゲイボルグを、和哉さんは掴み取る。

 ゲイボルグは、心臓を穿つ事を結果に定義された槍だ。その為、心臓を貫くまで何度も襲い掛かる。

 和哉さんが、再び槍を振り被った。しかし美波は、脇腹の痛み故か、全く動かなかった。マズい!と思っていると、美波が目をカッと見開いた。途端に美波自身の身体から、光子が溢れ出した。光子は美波の前に集まり、あっという間に一枚の光の盾が造り出された。

 あれは………、『月光虚盾げっこうきょじゅん』。

「んなもんで、防げるかああっ!!」

 和哉さんの咆哮と共に、ゲイボルグが必殺の威力を込めて投げられた。ゲイボルグは、盾など認識していないように真っ直ぐ飛ぶ。そして、凄まじい程の火花と轟音が大気を揺るがした。

「なっ、………んな馬鹿な。」

 ゲイボルグは月光虚盾と衝突した、………だけだった。必殺のゲイボルグは、月光虚盾に完全に防がれていた。

「嘘、………どうして?」

 沙耶香さんが、呆然として呟いた。当然だろう。伝説でも防がれた記述のない武器が、目の前で完全に防がれているのだから。

「美波の造った盾、あれは月光虚盾と言います。月は近いようで遠い存在です。その為、触れることが出来ません。つまり『虚』です。触れられもしないものが盾になったら、それは不可侵の盾になるんです。」

「えっと………、つまり?」

「『触れられない』ということは、『他からの影響一切を受けない』という現象に繋がります。月光の光子を主として造るからこそ、あの盾は決して破れることのない絶対防御の盾になるのです。」

 未だによく分かっていないような沙耶香さんと、藤堂兄妹。………まあ、分からなくても仕方ないか。

 しかし、これでは互いの決め手が無いまま膠着状態となって、勝負が着かない。どうする、美波。

 すると、

「行けっ!!」

 美波の一声で、飛び散った火花が方向を変えて、和哉さんに向かって飛んだ。そうか、これなら勝機がある。

 美波の能力は、属性上で見ると『光』である。しかし、ただ光を扱うと言っても、操作を得意とする光があると言う。美波の場合は、月光の操作を得意としていた。

 しかしそれは、得意かどうかの違い。美波は、少しぎこちないながらも、他の光を操作することが出来る。その中には、当然火花の光も含まれる。美波は月光虚盾と並行展開しながら、火花を弾丸のようにして撃ったのだ。

「しまっ………、」

 和哉さんは、ゲイボルグが防がれた光景を目の当たりにして呆然としていた為、防御が遅れた。

 和哉さんに向かって、火花の弾丸が雨になって降り注いだ。と言っても、所詮は火花の威力であり、大したダメージは入らない。当然和哉さんは、瞬時に体制を整えた。

「ゲイボルグだけが、俺の武器じゃ無ぇんだよ!」

 左右に伸ばした手から、二本の槍を作り出す。ゲイボルグ程ではないが高い強度を兼ね備える、所謂名器に匹敵する槍だ。それぞれの槍を片手だけで回しながら、未だにゲイボルグの進行を防ぐ美波に突撃する。これは、かなりマズい。

 このままゲイボルグの進行だけを防ぎ続けていれば、二本の槍を持った和哉さんの攻撃を受けてしまう。しかし、月光虚盾の維持を一瞬だけでもキャンセルしてしまえば、ゲイボルグの餌食となる。完全に追い詰められていた。

「らああああっ!!」

 再び、和哉さんの咆哮が響く。美波に突撃をした………、その時。


「貫けっ!!」

 美波の一言と同時に、上空の分厚い赤雲から、無数の光が地面に突き刺さった。


「なっ!!」

 予想外の方向からの攻撃を、まともに受けてしまった和哉さんは、突撃する力を失って地面に膝を着いた。それと同時に、ゲイボルグの力も無くなって、地面に落ちた。

(流石だ、美波。)

 そう思った。ふと藤堂一家を見ると、

「………何、あれ?」

「………光の………矢?」

「えっ、………どうして?」

 口をあんぐりと開いて、固まっていた。見かねた俺は、解説をした。

「あれは『月神アルテミスの威光』。所謂、美波の必殺技のようなものです。」

「げ、原理は?」

 俺は、分厚い赤雲を指差した。

「今でこそこのように雲で覆われていますが、その上には当然、月が通っています。美波は、この地球上ならどこでも見られる月の光を、収集・凝縮させて矢の形に成形し、それを撃ったのです。」

「………はぁ!?」

「それって、この地球上であれば、何処でもこの技を使えるってことですか!?」

「まぁ、そうですね。」

 またしても絶句する藤堂一家。まぁ当然か。地球上であれば、何処でもあの強力な光の矢が降ってくるってことだからな。

 俺は美波の方を向いた。肩で息をしていた美波は、ふと俺の方を見た。数秒見つめ合っていると、美波は目をぎゅっと瞑って、俺に向かって走って来た。そして、

「直ちゃん!」

 ………俺に抱き付いた。

「やったよ、やったよ直ちゃん。怖かったけど、私も出来たよ!」

 頭を俺の胸に押し付け、喜びを爆発させる様にはしゃいだ。そして、その目が少し潤んでいた。俺は思わず美波の頭を抱える様に、抱き締め返した。耳元で、

「………良くやった、お疲れさん。」

と返す。すると美波はその潤んだ目で、俺を見上げた。途端に俺の頭も、靄がかかった様にぼぅっとしてきた。何も考えられない頭で、俺と美波は顔を近づけ………、

「………おい、そこのバカップル。」

 和哉さんの声で瞬時に我に返った。和哉さん達の方を見ると、全員が呆れた目をしていた。

「あのな、いちゃつくことは悪いとは言わねぇけどよ。」

「少しは場所を考えた方が良いと思うわ。」

 藤堂夫妻から窘められた。俺達は、顔を真っ赤にして離れた。

 そんな俺達を見て、和哉さんが一言。

「これが、あの激闘の後の雰囲気なのか?」


 とりあえず、この戦闘の結果として美波の方が強いということが分かった。やれやれと思っていると、麗奈ちゃんからまたしても爆弾が投下された。

「それじゃあ、母ちゃんと直輝兄ちゃんはどっちが強いですか?」

 ………まだ戦闘を見たいのかよ!?


  第五戦

「それじゃあ、いつでも良いわよ。」

 初めて見た沙耶香さんの槍。この槍に銘は無いが、完全な名器であることが分かる。俺は全身に炎を纏わせて、倶利伽羅剣を構えた。

「では、………はぁっ!!」

 顔の横に突きの型で剣を構え、刀身が赤く発光したと同時に地面を蹴る。沙耶香さんは槍を構えて、和哉さんと同じく点針破で迎え撃った。美波の矢と違い、俺の剣は俺の体重を加えた力を含んでいる為、当然この突きは重突進攻撃となる。威力の桁が違うのだ。沙耶香さんは槍を剣に突き立てた。その瞬間、衝撃波が発生、辺りの瓦礫が吹き飛び、砂埃が舞い散った。

「うわわっ!」

「沙耶香も坊主も、加減無しかよ………。」

 そんな和哉さんの呟きが聞こえた。沙耶香さんにも聞こえたらしい。二人揃って、

「「当然!!!!」」

と返した。

 俺は槍を横に払った。がら空きになるだろう身体に、一撃を加えるつもりで逆に斬り返すと、遠心力がかかった槍が反対側から襲ってくる。斬り返しの剣と槍が交錯した。

 再び降りかかる槍を、剣で弾き返す。槍と剣が交錯する度に激しく火花が散り、衝撃波を発生させた。襲い掛かる槍の軌道だけを意識し、ほんの少しの隙があるのならば剣を振る。そして、カウンターの攻撃を寸前で弾く。重心がぶれた所で、剣で斬り掛かる。この報酬の繰り返しだった。

「流石です、沙耶香さん。これ程俺の剣戟を防いだ者は、貴女が初めてですよ。」

「あら、美波さんとは違うのかしら?」

「ええ、美波アイツは弓の使い手ですから。」

 美波との戦闘は、何度か経験したことはある。しかし、美波は遠距離武器『銀の弓』の使い手。近距離での戦闘にさえ持ち込めば、特性は半減する。だからこそ、近距離戦闘でここまで接戦をした事が初めてで、楽しいのだ。

 沙耶香さんもそれを理解したのか、小さく笑みを浮かべた。

「成程。………それを言うなら直輝さん、貴方も中々凄いと思います。うちの旦那とは戦闘をしたことが無いですし。」

「それは勿体無い。こんな強大な力を持ちながら、和哉さんと戦闘をしたことが無いとは。俺でよければ、何時でも相手をしますよ?」

「ありがとう、時間があったらお願いしようかしら。そもそも直輝さんは、旦那と戦っても普通に勝ちそうね。そんな人と戦闘が出来るのなら、逃すつもりはないわ。」

 普通に会話をしているようだが、この間にも槍と剣の交錯が続いていた。傍から見たら、異様な光景なのだろう。

 先にこの状況を変えようと動いた方は、沙耶香さんだった。槍と剣で起きた火花は全て、沙耶香さんに飛ぶよう俺が操作していた。火花は『光』でありながら、『火』でもある。その為火花は、美波だけでなく俺も操ることが出来るのだ。

 剣での直接的な攻撃は無いものの、火花による間接的な攻撃が沙耶香さんの体力を、徐々に削っていた。

 槍を大きく振り回し、それをまともに受けた俺はノックバックした。その隙に剣の間合いを出るように、紗耶香さんは後ろに跳んだ。

 上半身を屈め、槍を構え直した。その姿は、しなやかな筋肉で樹上から獲物を狙う、『豹』を彷彿とさせた。

 対する俺は、逆袈裟を狙うように剣を構える。のちに沙耶香さんは、この時の俺を『龍の様な威圧感があった。』と言っていた。

 ほんの少しの動作ですら見逃さない様に俺達は、集中力を極限にまで高めていた。そして、

「やああっ!!」

「らああっ!!」

 同時に地面を蹴って、突進した。

紫彗槍(しすいそう)』。

 沙耶香さんの槍は、濃くて暗い紫色に発光した。リジェクターの中で、神を司っていない者は魔力を纏う。そして魔力は、俺達が持つ神力と同じ作用を持つことが分かった。

 沙耶香さんの純粋な魔力を、槍に纏わせている。魔力を纏った槍は、ただの突きの十数倍の威力を兼ね備えている上、如何なる障壁も意味を成さない。触れた瞬間に、魔力によって障壁が風化し、崩れるからだ。そしてこの魔力は、能力も効果を失ってしまう。つまり、触れることが出来ない技だということ。

 その為、『陽炎』も使えない。

 この技の選択は、魔物との戦闘ならば基本間違ってはいない。

 しかし対人戦闘では、弱点がはっきりしている故に、この選択はむしろ悪手だ。その弱点とは………。

「嘘っ!?」

 俺は突進するスピードの方向を、沙耶香さんが間合いに入る寸前で変えた。俺がいた筈の空間を、沙耶香さんの槍が突く。

縮地(しゅくち)』。

 各地点との距離を縮めると言う、仙術の一種だ。しかし、俺が使った縮地は、仙術ではなく体術だ。単純な、脚力だけの技。

 炎の能力は、爆発的な攻撃力を生み出す。視点を変えるとそれは、炎だけでなく、一時的に身体能力を極限にまで高める事にも繋がる。極限の身体能力を持つことで、常人では考えられない体術も使える様になる。

 縮地は、実戦ではあまり役に立たないと思われがちだが、近距離戦闘であればコンマ一秒で肉薄出来る為、かなり有効な技となる。

 一方沙耶香さんの技は、ただの重突進と同系列である為、急激な方向転換に対応が出来ない。ましてや必殺の威力を秘めた技であるならば、その技が終わるまで、その他の動作が一切出来なくなるのだ。

 驚愕に目を剥く沙耶香さんの横腹を、突進のスピードを上乗せさせた足で蹴り飛ばす。

 全く予測出来ていなかったのか、その蹴りで沙耶香さんは大きく跳んだ。

 辛うじて受け身を取った沙耶香さんは、蹴り飛ばされた横腹が痛むのか、顔を歪めて膝を突いた。そして、片目だけを何とか開けて、

「………負けね。」

とだけ、呟いた。これ以上の戦闘は、今までよりも不利になると考えたのだろう。

「ありがとうございました。」

 俺は倶利伽羅剣を腰の鞘に差し、沙耶香さんに手を差し伸べた。

 呆気に取られた様な顔をした沙耶香さんは、目を弓なりに細めて、俺の手を取って立ち上がった。


「「「………。」」」

 藤堂一家は、全員絶句していた。そして、

「直ちゃんっ!!」

「なっ!?」

 美波はまたしても、俺に抱き付いて来た。正直フラフラで、立っていること自体がしんどい俺は、美波の強烈なハグで、見事にひっくり返った。

「お疲れ様、直ちゃん。」

 満面の笑みで俺を見る美波に、怒る気持ちが昇華されていった。ただ、一言だけは答えた。

「………勘弁してくれ。」

 この光景に、フリーズしていた藤堂一家はニヤニヤと笑っていた。生温かい視線に、俺はこれ以上無い程の居心地の悪さを感じていた。


「それじゃあ、この中の最強は『直輝兄ちゃん』なんだね。」

 結果を麗奈ちゃんが纏めた。

「まぁ、そうだな。」

「直輝さんが序列一位なら、次点は美波さんよね。」

「確かにそうだよね。」

 口々に序列を纏めていく藤堂一家。っておいおい、勝手に決めるなよ。いつの間にか、美波が二位になってるし。

 ………こっちに来る危険、いつ言おうかな?

「楽しくなってるところ、ごめんなさい。」

 美波が口を開いた。

「ん、どうした?」

「魔物の群れが来てますよ。」

「ざっと五十体位しかいませんが、どうしますか?」

 そう、魔物の群れだ。

 しかし、たった五十体の魔物。大して面倒な奴等じゃないし、俺達二人で殲滅させても良いかな?

「ご、五十体!?何で!?」

「それは多分、俺達がここで戦闘をした際の魔力と神力を感じて集まったんじゃないですか?」

 魔物や魔人は、魔力に集まってくる習性がある。魔物は、その魔力を取り入れて、力にする為。つまり捕食する為だ。一方魔人は、魔力を保有する生物を殺す為。要は虐殺だ。

 今回は幸いにも、魔物だけである。

「大して多くはないですよ。」

「いやいや、多すぎるわよ!」

「どうします?」

「どうするって、逃げるしかないだろ!!」

「え、戦わないんですか?」

「当たり前だよ!五十体相手は無理だし!!」

 あ、そっか。そもそもこんな沢山の魔物を相手にしたこと無いんだっけ。

「それじゃあ、美波と二人で殲滅させてきますよ。」

「はぁ!?」

「じゃあ、行こっか。」

「分かった。直ちゃんと行きますので、そこで見ててください。」

「ちょ、おいおいおい!!!」

 慌てる和哉さんを尻目に、俺達は砂煙を上げてこっちに来る魔物の群れへと向かった。

 直後魔物の群れから、月光を凝縮させた強烈な光『月神の威光』と、酸素を高濃度で含んで高温となった青い炎の火柱『蒼炎柱(そうえんちゅう)』が複数本立ち、噴火かと思う程の大爆発を起こした。魔物は全て、跡形も無く消え去った。


  第六戦

 一週間後。

「やあああっ!!」

 拓史君の武器・『グングニル』が、雷を纏って向かってくる。俺はその槍先を冷静に見極め、倶利伽羅剣で払った。慣性で跳んで来た拓史君の鳩尾を、掌底で迎え撃った。

「甘いっ!」

「ガフッ!?」

 慣れない槍に集中した為、反撃に対応出来ずに吹き飛ばされた。ゴロゴロと転がっていく様子を見ると、やり過ぎたと言う罪悪感が湧いてくる。しかし、

「ゲホッ、まだまだ、………やあああっ!!」

 グングニルを握り直し、再び突進する拓史君。そのひたむきな姿勢は、流石だと思う。俺は心を鬼にして、(拓史君からは絶対、鬼教官だと思われている)拓史君の相手を続けた。


「はぁ、はぁ、はぁ………。」

 地面で大の字になっている拓史君。もう、立つことも厳しいだろう。グングニルを握る手も、力が感じられない。

「潮時だな。この辺で終わりにしよう。」

「は、………はい………。」

 疲れで足を震わせながら、何とか立ち上がった。

「な、直輝兄ちゃんって、本当に、つ、強いね………。」

 息を切らせながら話し掛ける拓史君。

「元から強かった訳じゃ無いよ。」

「で、でも、僕の攻撃、全く効かなかった、よね?………それだけ、でも、凄く強いと、思うけど………。何で、そんなに、強いの?」

 俺は考えた。そもそも俺が強い理由なんて、俺には分からない。可能性として、思い当たる節ならあるが。

「俺はね、家族を魔人に殺されたんだ。」

「え………。」

「美波もそうさ。俺達二人は、家族どころか、町そのものを魔人に消されたんだよ。」

 あの時の光景は、今でも鮮明に思い出せる。

「一面が消し炭になっていて、自分の無力さを痛感した。そして、孤独を感じたんだ。そんな中、美波だけが見つかった。俺は、美波が生きてくれたことが純粋に嬉しかったんだ。」

 拓史君は、俺の話を真剣に聞いている。その目に背を押されて、俺は話を続けた。

「だから俺は、美波を失いたくないんだ。美波を守る為に俺は、強くならなきゃいけなかったんだ。だから、ひたすら俺は戦い続けた。その成果が、この強さだと思うよ。」

 俺が強い理由は分からない。だが、俺が戦う理由はある。


「多分、誰かを守りたいと言う『意思』が、俺の強さの理由なんじゃないかな?」


 そう、俺はもう二度と大切な者を失いたくないのだ。

「じゃあ、美波姉ちゃんが強い理由も同じ?」

「さあな。だけど、そうであったのなら嬉しいな。」

 自然と笑みが浮かんだ。

「やっぱり、美波姉ちゃんが好きなんだね。」

「ま、まぁ、そう言うことだな。………好きだからこそ、絶対に守りたいんだ。」

 少し頬が熱い。しかし、これが俺の本心だ。

「………恥ずかしいから、美波には言わないでくれるか?」

 きょとんとした拓史君。意図を理解したのか、その後にっこりと笑って頷いてくれた。


「俺が強い理由?」

「うん、父さんはどうして強いの?」

 夕食の時、拓史君が和哉さんに問い掛けた。すると和哉さんは、腕を組んで答えた。

「そりゃ、俺が『父さん』だからだな。家族を守らなきゃならないから、俺は強いんだ!」

 自信満々に答えた。

「へぇー、直輝兄ちゃんと似てるね!」

 無邪気に拓史君が秘密をバラした。

「おいっ、秘密にしてくれって言ったよな!?」

「え、あれは『美波姉ちゃん』に秘密にするってことだったよね。」

 まさかの反撃に、言葉が詰まった。確かにそうだ、確かにそうだがな!

「この場に美波もいるじゃねぇか!」

「まぁ、そこは偶然ってことで。」

「ませたこと言ってんじゃねぇよ!!」

「えっと、………直ちゃん?」

 潤んだ目をした美波と目が合う。さっきからのやり取りを見れば、俺が守りたい人は誰なのかはすぐに分かってしまう。

「直ちゃんが守りたい人って、………誰?」

 答えが分かっていること聞くなよ美波!

「………みだ。」

「もう一回、お願い………。」

 ああもうっ、ヤケクソだっ!

「美波だ!!」

 顔から火が出そうな程熱い。頼むから見ないでくれ………。

 すると、

「直輝兄ちゃんも、美波姉ちゃんと同じです!」

 更なる爆弾が、麗奈ちゃんによって投下された。そう言えば、麗奈ちゃんの訓練相手は美波だったな。

 同じこと話してたんだ。

「ちょ、麗奈ちゃん!?」

「美波姉ちゃんも、直輝兄ちゃんを守りたいって言ってたです!」

「麗奈ちゃんっ、それは内緒って言ったよね!?」

 顔を真っ赤にして慌てる美波、………可愛いな。

「美波姉ちゃん、直輝兄ちゃんの気持ちが分からないから、言うのをやめてたです。でもさっき、直輝兄ちゃんの気持ちが分かったから、言っても大丈夫です!」

「それ理由にならないから!!」

 俺は、唖然としてた。ただ、こうあって欲しいと言う望みが叶った時、何も考えられなくなっていた。漸く働く様になった頭で、

「………美波、………本当か?」

 一瞬身震いをして、恐る恐る俺の方を見る。首筋まで真っ赤にして、コクリと小さく頷いた。………滅茶苦茶可愛いなぁ。

「ククク………、相思相愛ってのはこういうことを指すんだな。」

 和哉さんの抑えた笑い声が聞こえた。

 俺達二人は、羞恥で顔を上げられなくなっていた。そんな状況を、端から見ている女性(ひと)が一人。

「あらあら、本当にお似合いねぇ。もう、夫婦と言っても良いんじゃないかしら?」

「ええっ!?」

「ふ、夫婦!?………は、早すぎますよ沙耶香さん!!」

「あら、「違う」じゃなくて、「早すぎる」なのね?二人が慣れる為にも、「秋山夫妻」と呼びましょうよ、貴方。」

「ああ、そりゃ良いな!!」

「「良くないです!!」」

「息合ってるじゃねぇか。よし、決定だな!」

「「何が決定ですか!?」」

 俺達の羞恥の叫び声が、賑やかな部屋に木霊した………。


「直輝兄ちゃん、今日もよろしくお願いします!」

 拓史君は、身体を九十度曲げて礼をした。

「いやいや、そんなに畏まらなくても良いんだよ?」

 苦笑いしていると、

「僕、直輝兄ちゃんがあんなに強い理由が分かってから、自分が大切にしたい人を考えたんだ。」

 拓史君が急に真剣な話を始めた。

「僕には直輝兄ちゃんにとっての、美波姉ちゃんみたいな恋人はいない。だけど、直輝兄ちゃんと父ちゃんの守りたい理由は一緒だったことが、昨日分かった。だから、僕は父ちゃんみたいに家族を守りたいんだ。」

 真剣な顔をしていながら恋人と言われるのは、かなり恥ずかしい。しかし拓史君の話は、本気の決心が感じられた。

「………よし、じゃあこれからはもっと厳しく(しご)くか!」

 途端に拓史君は、絶望の表情を浮かべた。

「えっ………。あれ以上に、厳しく………?」

「当然!正直今までの訓練は、ウォーミングアップ程度だったもんな。」

「嘘………。」

 拓史君は口をあんぐりと開けて、固まった。

 当たり前だ。今までのは大して厳しくない。大切な家族を守れる様にする為に、俺はこの日から、徹底的に拓史君と訓練をした。拓史君はこの日、立つどころかもはや気を失いかけていた。


「はぁっ!」

「ふんっ!」

 俺の倶利伽羅剣と拓史君のグングニルが、空気を震わせて交錯した。訓練を始めてから、僅か二週間。たったそれだけの期間で、拓史君は見違える程に強くなった。

 三回に一回は俺の攻撃を防ぎきって、カウンターを返す様になっていた。それでも、まだまだ荒削りだ。カウンターを返されると、対応が取れなくなり、また吹き飛ばされた。

「はぁっ、はぁっ………、まだまだあぁっ!!」

 それでも諦めずに、拓史君は突撃を繰り出す。

 拓史君、流石だ。


  エンディング

 俺は、設計図と完成したキャンピングカーを見比べた。そして、

「よしっ、完成だ!」

「「「「お疲れ様!!!!」」」」

 四人が一斉に、俺を労ってくれた。

「やったね、直ちゃん!やっぱり凄いよ!!」

 特に美波が、本当に子供の様に興奮していた。………と、他人事の様に考えていたのは、この時までだった。

「おいおい………。」

「本当に、美波ちゃんは直輝さんが大好きなのねぇ~。」

 またしても美波は、俺に抱き付いてきたのだ。しかも、

「うう~。」

と、何故か唸りながら俺の胸に、頭を擦り付けている。もう子供じゃなくて、猫だなこりゃ。

「美波、ちょっと場所考えてくれ。」

「ふにゅ〜、直ちゃんは抱き付かれるのが嫌なの~?」

 ん?何か美波が変だ。

 いつもなら、顔を真っ赤にして離れるはずなのに、離れるどころか更に密着してくる。

 美波の顔を見ると、

「美波………。お前もしかして………、呑んだ?」

 靄のかかった目と赤くなった頬。明らかに酔っ払っていた。

「ふぇ?なにお~?べつになんものんでらいよ~?」

 おいおい、呂律も回ってないじゃないか。

 ふと藤堂一家に顔を向けた。若干怒気も含めて、

「美波に、何呑ませたんですか?」

「え、えっと………。」

「そ、それはねぇ………。」

 ふいと顔を反らせる藤堂夫婦。もう、犯人(達)は分かった。ついでにその横を見ると、拓史君は何か諦めた表情に、麗奈ちゃんは目をきらきらさせていた。

「拓史君、麗奈ちゃん。美波は何を呑んだんだ?」

「お、お酒です。」

「………何て言う酒?」

「ウォッカのスクリュードライバーです!」

 って、スクリュードライバー!?

 ウォッカをベースにしているから、度数はかなり高いじゃねぇか!

「ねぇねぇ、どしたの直ちゃん?」

 アルコールが入っている為か、美波が幼児退行してやがる。

「ったく、何で呑ませたんですか………?」

 首謀者と思われる沙耶香さんに問い詰めた。この間、カクテルを作ることが趣味と聞いていた。そうでなくても、こんな悪乗りを好む女性(ひと)は沙耶香さん以外いない。

「えっとねぇ、美波ちゃんが酔ったらどうなるか知りたかったのと………、可愛く酔う気がしたから………かな?」

「『かな?』じゃないですよ!第一美波は俺と同じ、未成年なんですが!?」

 俺達はまだ十八歳。真面目で通していた俺達は、そもそも酒を呑んだことが無い。

「ま、まぁ良いじゃない。美波ちゃん、カクテルだなんて気付いて無かったし。」

「そう言う問題じゃ無いんですよ!アル中にでもなったらどうするんですか!?」

「それは問題無いわよ。魔術でちょいちょいっと強引に治すから。」

「結局荒療治じゃねぇか!!」

 とうとう、敬語をかなぐり捨ててしまった。俺は頭に血が上ると、敬語が使えなくなるようだ。

「ふにゃぅ〜………、ううん………。」

 美波が更にしっかりと抱き締めてきた。

「おい、しっかりし、」

「すー………、すー………。」

「ったくよ………。」

 美波はそのまま、こてんと寝てしまった。揺さぶっても起きる気配が無い。

 仕方無ぇな。

「よっと。」

「あら。」

「流石男だな、坊主。」

 俺は寝ている美波を、そのまま横抱きにした。所謂お姫様抱っこと言うやつだ。

「拓史君、美波の部屋のドア開けてくれ。」

「あ、うん。」

「麗奈ちゃん、部屋で布団出してくれ。」

「分かったです!」

 拓史君と麗奈ちゃんが走っていく。その後ろを、俺は美波は抱えて歩く。

「あら、部屋でお楽しみ?」

「坊主は男でありながら、獣でもあるんだな。」

 俺は未だに囃し立てる藤堂夫婦に向かって、

「………後で覚悟してくれよ?」

 特大の怒気と共に、低い声で説教の覚悟を伝えた。

 藤堂夫婦は身震いをしていた。その顔は、青ざめている。

 一瞥をしてから俺は、美波の部屋に向かった。


「はい、どうぞ。」

「布団敷いたです。」

 先に向かっていた拓史君と麗奈ちゃんは、報告をしてきた。

「ありがとう、二人とも。」

 優しい笑顔を意識して、礼を伝えた。

 そのまま俺は、美波の部屋に入っていった。

 部屋の真ん中に敷いてくれた布団に、美波を寝かせた。その時、俺ははっとした。


 ―――美波のあどけない寝顔を見て。


 俺は、何を守らなければならないのか、改めて思い出した。

 堪えきれない愛おしさを、俺は必死に抑えていた。

「ううーん、………ふふふ。」

 楽しい夢でも見ているのか、美波は笑っていた。

「美波………。」

 俺は美波の額に、そっと唇を押し付けた。

「………ありがとう、おやすみ。」

 静かに部屋を出て、ドアを閉めた。

 長い話になりそうな「リジェクター・バトル」も、とうとう二話目となりました。今回は、対戦を多めに書いたつもりです。

 にしても、対戦する状況を書くのって、かなり大変ですね。頭の中で考えている場景が、読者の皆様に伝わっているか心配です。

 まぁ対戦だけじゃなく、そもそも戦いそのものが書くことが難しいのですが。

 私自身、このような話を書くことが難しいながらも楽しんでいます。

 ドMだと思った人、私は違いますからね!

 健全な人間を通しているはず(?)ですからね!

 さて、今回も勝手にボケているだけで、終わりにしようと思います。(もう、この「リジェクター・バトル」の後書きはボケだけで通そうかな?)

 次は、三話目です。楽しみにしてください。(時間があったら、早く投稿します。)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ