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リジェクター・バトル   作者: 平菊鈴士
1/7

壊滅日本戦闘記 第壱部

  プロローグ

 人間が怪物に抵抗する力は、この世に実在する神の力と英雄の力であり、この力を得ている人間達を、『抵抗者(リジェクター)』と言う。 

 彼等は神や英雄の力を、自身に憑依させて闘いを続けていた。


 西暦2047年、日本は未曾有の大災害が重なり、『日本』という国が潰れかけた。

 『スーパー台風』、『火山の噴火』、『大地震』などの災害が立て続けに発生、日本の人口は四分の一近くにまで低下した。いくつもの都市が火災に襲われ、あるいは地震などによって倒壊し、死んだ町となっていった。

 もう国として復活することが不可能になりかけた時、追い討ちを掛けるかの様に、別の世界から魔物(モンスター)が襲い掛かってきた。奴等は、日本が壊滅状態になることを知っていて、その期を利用して日本を乗っ取ろうとして来たのだった。

 その為、確認はされていないが、日本の人口は災害前の約八分の一にまで激減した。

 日本が怪物の国になり掛けたその時、人間達に新たな希望が現れた。人間達が崇める神の力を持った、『リジェクター』が現れたのだった………。


  第一戦

「グフルルル………。」

「ゴロロルルル………。」

 野獣を思わせるかのような奇妙な唸り声。発声者は、二メートルを越える狼の頭をした魔物と、同じく二メートル越えの蜥蜴(とかげ)の頭をした魔物の二体だった。

 狼頭の種族名は『オーガ』、蜥蜴頭は『リザードマン』。ゲームなどでもよく出現する魔物だが、決して雑魚モンスターではない。

 オーガの体は灰色の毛皮に覆われており、リザードマンは紺色の鱗に覆われていた。オーガの手には、原始人の持つような棍棒があり、その棍棒の先は、まだ新しい血が付いていた。一方のリザードマンは、片手用の木製の円盾(シールド)と鈍色に光る曲刀が握られていた。

 十メートル程の間合いを置いて向き合っている。互いにまた一つ、唸り声をあげた。彼等のような魔物のほとんどは、言語を持たない。発声出来るものは、野生動物とほとんど変わりはない。そして、彼等の頭に入っている法則はただ一つ。


 ━━━『力こそ全て』。


「グワワアアア!!」

「ギシャアアア!!」


 不快な雄叫びを上げて、両者は同時に地を蹴る。彼等の異常に発達した筋肉は、十メートル程の間合いを一足で駆け抜けた。

 力任せのオーガの棍棒が、リザードマンの頭を目掛けて振り下ろされる。………寸前に、リザードマンが掲げた右手の円盾にぶつかり、派手に火花を散らせる。

 リザードマンは円盾を横に振り、棍棒を払う。仰け反ったオーガの胴体に、リザードマンは曲刀で斬り付ける。………もののオーガは、これを予測していたかのように後ろに跳んだ。

 今度はリザードマンが、曲刀を大上段に構えて、オーガに向かって跳んだ。振り下ろされる曲刀を、オーガは棍棒で払った。そして棍棒を、袈裟懸けの要領で肩に降り下ろす。これをリザードマンは、円盾で防ぐ。


 こんな闘いが続いていたが、この闘いは急速に終わった。

 オーガの棍棒を円盾で防いでいたリザードマン。この二体の胴体に、赤い閃光が走った。その閃光に沿って、オーガとリザードマンの上半身が落ちた。

 ━━━彼等は一声も上げることなく、同時に死んだ。


「ふぅ………。」

 オーガ達を一太刀で斬った俺は、偶然にも元オーガが立っていた場所にいた。約一メートル程の直剣を、腰に吊っていた鞘に戻した。

「………やっぱ増えてやがる。一体何処から湧いてくるんだ、コイツら………。」

 無惨に横たわる魔物達を一瞥し、俺は一人愚痴を溢す。

 俺の名は、秋山直輝(あきやまなおき)。壊滅状態の日本で生まれた、数少ない日本人。それと同時に、俺は『リジェクター』だった。司る神力名は、『不動明王』。大日如来の化身であり、悪しき者を降魔の利剣『倶利伽羅剣くりからけん』で制する、明王の代表格である。


 『リジェクター』の持つ能力は、俗に言う『超能力』の一種。人間は多かれ少なかれ、『神力』を備えているが、その力が顕著に表れた者の大半は、歴史に名を残している。日本史だけでなく、世界史に名を轟かせた者は、兼ね備えた神力を無意識、あるいは意識的に利用し、カリスマとなった。代表的な者として『ウルクの王・ギルガメッシュ』、『救世主・イエス』、『第六天魔王・織田信長』、『聖女・ジャンヌダルク』などが挙げられる。そんな力を俺は、幼い頃から自覚し始めていた。そして俺の周りにも、同じく神力を持って生まれた者がいた。


 歩き出して数歩、またしても魔物は襲い掛かってきた。

「キイイッ!!」

 奇怪な声は、空から聞こえてきた。頭上約十五メートルに蝙蝠の翼が生えた、鬼のような者が飛んでいた。背丈は約二.五メートルほどで、目は青白く光っていた。

 この魔物は、種族名を『ガーゴイル』と言う。ヨーロッパでは一種の魔除けとして、石像などが作られていた。しかし、本当のガーゴイルは魔除けなどするはずがない。しかも魔物の中でも有数の、空中戦型である。その巨体に似合わず、時速二百キロメートルを超す速度を持つ上、両手のかぎ爪には猛毒がある。


「面倒な奴が来やがったか………。」

 俺は再び、腰の剣を抜いた。片手で持つことの出来るこの剣は、不動明王が司るという神火『迦楼羅炎』を現世に現す。

 俱利伽羅剣を中段に構え、ガーゴイルと向き合った。途端に、俱利伽羅剣が赤く発光し、その刀身が徐々に炎に包まれていった。

 ガーゴイルが急降下してきた。石像が作られていた経緯からか、ガーゴイルの体は鎧のように頑丈である。なまくらの剣ならば、一振りで刀身が砕けてしまうだろう。俺の俱利伽羅剣は、そのようなことはまず有り得ないものの、苦戦することは明らかだ。右手のかぎ爪を振りかざし、剣を薙ぎ払おうとするガーゴイル。その右手に集中し、タイミングを見計らう。

 かぎ爪が振りかぶられるその刹那。

「やあっ!」

 掛け声と共にガーゴイルの体に白く光る三本の矢が突き刺さった。矢の威力でガーゴイルは、後方に吹き飛ばされた。そして、二度と動くことなく地面に転がった。


「危なかったね~。」

 およそ、この場では全く似合わない口調で、矢を放った張本人は俺に話し掛けた。

 長い髪をなびかせて、颯爽と歩く女性が一人。そしてその右手には、純白の弓を握っていた。

 片手を挙げながら歩いてくる彼女の名は、鈴野美波(すずのみなみ)。俺の幼馴染みであり、恋人だ。そして、俺と同じく数少ないリジェクターでもある。

 その右手の弓は「銀の弓」と言う銘を持つ。何の変哲も無い弓に見えるが、これも俺の剣と同じく神力を兼ね備えている。本来の持ち主は、ギリシャ神話の月の女神・アルテミス。

 ガーゴイルは剣での攻撃には耐性があるが、矢や槍など一点を攻撃する武器には弱い。ましてや神力を兼ね備えた銀の弓は、ガーゴイルにとって天敵ともなり得る武器である。

「すまない、ありがとう。」

「いえいえ、どういたしまして。」

そう言いながら美波は、右手の弓を軽く振った。弓はガラスを割った様な音を奏でながら、儚く砕けた。

「最近増えてない、魔物?」

「ああ、確かに増えている。そもそも発生源が何かですら分かってないのに、鼬ごっこなんて嫌だな………。」

 そう言いながら俺は、動くことの無いガーゴイルを一瞥した。青白く光っていた目は、何の光も跳ね返さない漆黒となっていた。


 魔物は何十体とその存在を確認されている。そして魔物の中に、各種族ごとの順列が存在することが分かってきた。

 トップに立つ種族は『魔王』。またの名を『堕天使』と言う。元は天界の種族だったが、所謂邪心が芽生え、天界で暴虐の限りを尽くし、魔物達の世界へと堕とされたという。

 次点に立つ種族は『魔人』。彼等は人間と同じ姿形をしているが、禍々しい程の魔力を秘めている。いうなれば、リジェクター達と対極に位置する種族である。

 その次にその他の種族が立つ。先程倒した、オーガやリザードマン、ガーゴイルなどである。その理由は、一部を除いて言語を持たない種族だからだ。言語を持たない故に、思考能力が魔人などに比べて低く、その為格下と見られる。


「そもそも、魔物達は異界から来たって言われてるけど、その根拠が何にも判明してないのよね~。」

「それこそ、鬼門から出て来たって言う説が出ても、おかしくはないよな。」

 たった今戦闘があった場所から、俺達二人は移動している。ここは旧東京都の郊外。災害と怪物達の襲撃で、国の機能が完全停止状態の今、かつてあった都道府県や市町村などの区分が何もかも無くなっている。その為、今では場所の指定をする時は必ずかつての県名を、『旧』と付けて説明するようになった。

「この惨劇を後に、『日本の黄昏(ラグナログ)』と言う。何てコラムを作った、アメリカの記者がいるんだって。」

「何の偶然か、魔物の襲撃は日本だけだからな。海外じゃ、魔物の被害は殆ど無いし。」

 そう、この惨劇は日本だけの話。日本神話だけでなく、海外の神話の魔物も現れているのだ。海外の国々は、日本の自衛隊だけでは対抗出来ないことを予想し、自国の軍隊を日本に送ったものの、軍隊からの連絡は日本に上陸してから一切無かった。

 連絡が漸く届いたのは、上陸してから一ヶ月後だった。その内容はたった一文、『日本は滅びた。』と。

 その連絡を送った隊員も、その連絡を最後に、音沙汰が無くなった。

 そして、俺達にも悲劇がある。


「ねえ直ちゃん。」

「ん?」

「三年前のこと、覚えてる?」

「ああ、覚えてるよ。もう三年もたったのか………。」

 美波は目を伏せた。僅かに震える瞼は、その悲劇から完全に立ち直っていないことが分かる。


 三年前、俺達の家族は一つの街と共に殺された。その犯人は、魔人だった。魔人は所謂魔法が使える。その魔人が作った巨大な火球は、街そのものを消滅させてしまったのだ。

 リジェクターである俺は、その火球の中でも生き残ったものの瓦礫で頭を打ち、気を失っていた。しかし、俺の家族は骨の一つさえ残らなかった。

 消し炭の家の瓦礫の中で、俺は意識を取り戻し、その惨劇を目の当たりにした。住宅街が、今では真っ黒な炭の山となっていた。俺は、感情が抜け落ちた様な錯覚を感じながら、変わり果てた街を歩いた。何も考えなれない、何も感じない、抜け殻の様だった。

 その瓦礫の中で、僅かにでも音がしたら、俺はそこに飛び付いて瓦礫をどかした。もしかしたら、生きている人かもしれない。そう思いながら、何度も瓦礫をどかし続けた。しかし、結局誰も見つからなかった。

 諦めかけた時、今までよりもはっきりと聞こえた瓦礫が落ちる音がした。一目散に駆け付け、懸命に瓦礫をどかした。その瓦礫の下から見つかったのが、隣で歩いている美波だったのだ。

『おいっ!しっかりしろ美波!』

 死なせたくない、その一心で瓦礫から美波を助け出した。この惨劇の一週間前に、俺達は付き合い始めていた。せっかく実った恋を、こんなすぐに終わらせたくなかった。

 暫くして、気絶していた美波は目を覚ました。

『………直……ちゃん………?』

『ああ、俺だ!良かった!』

 思わず抱き締めた。涙が溢れだした。

『………痛いよ、直ちゃん。』

 弱々しく、それでもしっかりと話す美波が自分の腕の中にいる。俺は、美波を抱き締め続けた。無事で良かったことに安堵して、嗚咽を上げながら。


「あの後、直ちゃんから話を聞いた時、また泣いちゃったんだよね。」

「そうだな。だけど、泣きたい時は泣けばいいさ。俺が支えるから。」

 かつての俺だったら絶対言わない歯の浮く台詞を、今では普通に言えるようになった。甘い空気は、俺が今生きている意味を教えてくれるからだ。

「うん、ありがと。でも直ちゃんは、全然泣かないよね?」

「そんなこと無いよ。三年前のあの日だって、美波を抱き締めながらわんわん泣いていただろ?」

「ああ、そう言えばそうだね。でも、あれ以来は泣いてたっけ?」

「いや、多分無いな。って言うか、泣かないようにしていたな。」

 勿論、理由はある。恥ずかしいけど。

「何で?」

「………泣き顔、見られたくないから。」

 そっぽを向きながら答えた。すると、いきなり腕を抱かれた。

「えっ!?」

「直ちゃん、泣いて良いんだよ。」

 はっきりとした意思で、美波は言葉を続けた。

「本当の理由は違うでしょ?本当は、私を不安にさせないため。直ちゃんは優しいから、何でも一人で背負おうとしているのは分かってるんだよ。」

 そこで一旦言葉を切った。そして、微笑みを浮かべた。

「私は、そんな直ちゃんも好きだよ。だけど、全部背負おうとしないで、私を頼って?私は直ちゃんのその、………か、彼女だから、直ちゃんを支えたいの………。」

 『彼女』というフレーズを言った途端に頬を赤くさせて、段々俯いてしまった。それがとても可愛くて、

「ありがとな、美波。」

つい、頭を撫でてしまった。

「あ、………エヘヘ。」

 くすぐったそうに、頭を腕に擦りよせる美波。

 ………堪らなく可愛いっ!!!


  第二戦

 俺の予想として、この旧日本にはまだ何人かリジェクターはいると考えている。根拠は無い。ただ、もしリジェクターが俺達二人だけだったなら、もっと魔物は増えていると感じたのだ。

 その意見は、美波も同じだった。

「ってことは、日本中を探し回れば誰かしら、見つかるかもしれないってことだよね?」

「まぁ、そう言うことだな。」

「よしっ、それじゃ探しに行こう!」

「おいコラ待て。まさか日本中を徒歩で探す気か?」

「あっ、………バスや電車は………無いよね。」

 今の日本は、全機能を停止していると言っても過言ではない。

「動いていると思うか?」

「うっ、………駄目か。」

 天然と言うか、短絡的と言うか………。美波はよく、勢いだけで物事を解決しようとする。当然、上手くいった試しはない。それどころか、勢い任せで単純なミスを連発することが多々あるのだ。

「全く………。」

「………どうにかならないの?」

「うーん………。」

 心当たりは、無いわけでもない。しかし、テストはまだだから、あれがまともに動くとは限らない。計算上、問題は無いのだが………。

「………仕方ない、使うか。」

「えっ、何を?」

 ぶっつけ本番だが、俺達ならでかい怪我はしないだろう。

「美波、ちょっと来てくれ。」


 少し歩いたところに、周辺の木材やらレンガやらを使って出来た、自作の小屋がある。冷暖房はどうしようもないが、住むにはそれ程支障の無い小屋だ。その脇には………、

「これって、………オープンカー?」

「ああ。各パーツを自作して組み立てた、完全オリジナルカーだな。」

 俺の能力は不動明王であり、属性として見れば炎である。その属性を有効に使えないだろうかと考えた結果、工業技術に繋がったのだ。炎の熱を使って、金属を切断・溶接したり、時には金属同士を溶かして混ぜ合わせて、混合金属を作ったりして、このオープンカーを造り上げたのだ。

「どうかな?計算上、普通の自動車と同じ様に動くはずだけど。」

 美波は、このオープンカーを見てから、微動だにしなくなった。………もしや、気に入らなかったのか?

「あの、………美波?」

 すると、美波はいきなり俺に向かって抱き付いた。

「へっ!?」

 美波の予想外な行動に、俺は変な声が出た。抱き付いた美波は、目を輝かせながら俺を見上げた。

「凄いっ、凄いよ直ちゃん!能力を使ってこんなの造るなんて、凄すぎるよ!!」

「お、おう………。」

 若干気圧されながら、返事をした。

「これに乗りながら走るのか~。サングラス欲しかったな~。」

 俺から離れながら、浮かれ気味にオープンカーに向かう美波。

 ………美波、柔らかかったな。………なんて、美波には絶対言えないよな。


「そう言えば、燃料は何?ここら辺、ガソリンスタンドなんて無いんだし、別の燃料使ってるの?」

 その問いに、俺は片方の口角だけ上げて何も言わなかった。

「?」

 不信な目をする美波が乗り込んだことを確認し、俺はハンドルを握った。すると、握った手が徐々に赤く光り始め、ハンドルを伝わって車両そのものが赤く光った。能力の炎を具現化させず、神力状態でハンドルに流したのだ。

「えっ、えっ!大丈夫なの、本当に!?」

「ああ、大丈夫だろ。………多分。」

「多分!?」

 曖昧な返事に、美波は更に慌てた。何を慌てる必要があるんだ?

「ほ、本当だよねっ!?本当に大丈夫だよねっ!?」

「だから大丈夫だろ。………計算上。」

「計算上っ!?」

 美波がとうとう体を震わせ始めた時、

「ひっ!?」

 車両が一度大きく震え、エンジンが掛かった。

「よし、出せるな。」

 ふと横を見ると、美波が涙を滲ませて縮こまっていた。

「だから言っただろう、大丈夫だって。そんなに怯えるなよ。」

 すると、美波は体ごと俺に向けて叫んだ。

「直ちゃんが多分なんて言うからでしょっ!!」


 ………まぁ、多少のハプニングはあったが、車自体は問題無く走った。当の美波は、最初こそ震え続けていたが、五分程走ったら慣れてきたようだ。今となっては、

「うわああぁぁっ!凄い凄いっ!!」

 乗ったことの無いオープンカーに興奮して、はしゃいでいた。

「直ちゃんやっぱ凄いよ!私、オープンカーのドライブが夢だったんだ!!」

 なんと、思わぬ形で美波の夢が叶ったらしい。気を良くした美波にホッとして、俺はアクセルを強く踏み込んだ。

「よしっ、それじゃ行くぜっ!」

「やっほううぅぅっ!!」


 このオープンカーの燃料は、『俺の』神力だ。設計上、自身の神力を燃料にするようにしてしまったため、恐らく他の人は操縦出来ない。後で美波の神力も設計に組み込もうと提案したが、

「直ちゃんに運転してもらった方が楽しい!」

と言われてしまった。自慢の長い黒髪を靡かせながら。


 俺と美波は、実は埼玉県民だ。そのためという訳ではないのだが、旧東京都の細かい区分は二人揃ってからっきしである。原宿と新宿、赤坂、渋谷がせいぜいというほど、東京都の知識がまるで無い。その上東京都に来たことですら、修学旅行の一回きりであり、慌ただしい雑踏にウンザリした記憶しかない。

 何故この旧東京都の都心部に足を運んだのかというと、旧埼玉県より魔物が多く、用心深い魔人の出現率が高いからである。しかし、旧東京都という迷宮のような道の多い都市部に土地勘が無い二人が乗り込むと、その結果は明白である。

「………直ちゃん。」

「………何?」

「ここ、………何処?」

「………知らない。」

 俺達は、早々に迷った。さっきから適当に走り回っているため、最初こそ何となく場所が分かっていたものが、今では北がどっちの方角にあるのかですら分からなくなっていた。

 太陽や星を見ればいいと思うかもしれないが、魔物達の襲撃の際に魔王が空に分厚く赤黒い雲を張ってしまった為、あれ以来一度も晴れたことがない。しかも奇妙な雲であり、雨どころか雪も降らなくなった。降ってくるのは雹か雷という、最悪な雲であった。

「もうっ、直ちゃんがそこら中を走り回るから、本当に何処だか分からなくなっちゃったじゃん!!」

「えっ、………俺の所為?」

「このオープンカー、誰が運転してるの?」

「すみません………。」

 先程の元気は何処へやら。俺は運転しながら、シートに縮こまった。


 暫く走っていると、何の物音もしない路上で微かに鉄が交錯する様な音が聞こえた。聞き慣れたこの乾いたと共に、魔物達の咆哮がする。

「これは、………剣戟かな?」

「間違いない、この先で魔獣との戦闘があるはずだ。美波、しっかり掴まれよ!」

「うん!」

 美波の返事がするや否や、俺はアクセルを思い切り踏み込んだ。


「ゴロアアアアッ!!」

「ちっ、クソ!」

 剣戟の方向に走らせていると、大きな道路に出た。その先約二百メートル程で、一人の男性と西洋鎧を身に付けた骸骨三体が戦っていた。

「あれは、『スケルトン』!?」

 骸骨兵・スケルトン。ゲームなんかでは定番の雑魚キャラだが、現実は当然そんなことは無い。骸骨である故、既に死んでいる体だ。その為、死を知らない。体が動く限り何度でも攻撃してくる、非常に面倒な魔物だ。そして、スケルトンを操る魔法を断たせるか骨そのものを粉砕でもしない限り、止まることも無い。

 遠目から見ても分かる様に、男性の身体は筋骨隆々だった。手には二メートルはありそうな槍を持ち、骸骨に向かって振り回していた。しかし、スケルトンは三体。しかも既に死んでいる体は、云わば不死身である。その上、一度骨が外れてもすぐに元に戻るため、全くダメージが入っていない。

「あの(ひと)、かなり劣勢だよ。どうしよう………。」

 美波の中では既に、助太刀する予定でいるらしい。

 まぁ、俺自身も助けたいから、あえて言うことはない。

「美波。」

「えっ、何?」

「俺は運転を続ける。美波の矢で狙い打ってくれ。」

「で、でも何処を射ればいいの?」

「可能なら、頭蓋骨と心臓部の両方を狙ってくれ。一体ずつで構わないから。」

 俺はあのスケルトンが、魔法によって動かしている様に考えている。その考えが当たっているのなら、あの体の何処かに『依り代』があるはずだ。ならば、何処にあるのか。そう考えた結果、頭蓋骨か心臓が最も可能性が高いはず。

「わ、分かった。」

 美波はシートの上に立ち上がった。そして、白い神力を手に、弓矢を具現化させて狙いを定めた。

 運転している車上からの狙撃は、想像以上に難しいだろう。だが、俺は美波は成功すると信じていた。

(俺の彼女が、失敗するはずねぇよ)


 キリキリと弦が音を立てる。二本の矢を引き、しっかりと狙いを定めて、美波は軽く息をつく。すると、矢じりが小さな吐息に反応したように、白く輝き出した。

「………フッ!」

 『白流星(はくりゅうせい)』。

 矢は、まさに流星の尾を引きながら、真っ直ぐスケルトンの身体に向かった。

「ギシャアアッ」

 一体のスケルトンに、二本の矢が突き刺さった。途端に頭蓋骨から、どす黒い瘴気が漏れ出した。崩れる様にスケルトンは倒れ、動かなくなった。

「美波っ、奴等の頭蓋骨を狙ってくれ!」

「了解!」

 再び美波は矢を二本、(つが)えた。狙いは残りの二体。美波の矢は、またしても白く輝きながらスケルトンの頭蓋骨に命中した。

 その場景に、槍の男性は目を見開いていた。

「大丈夫ですか?」

 オープンカーをドリフトで止めて、俺は声を掛けた。

「あ、ああ。怪我はねぇ………。」

 突然の乱入に驚いているのだろう。返事が微妙にたどたどしい。すると男性は、美波に目を向けた。

「それより、嬢ちゃん。」

「あ、はい。」

「アンタ、良い腕前だな。驚いたぜ。」

「え、いえいえ。そんなことは………。」

「いや、ああも頭蓋骨に当てんのは相当凄い事だ。おまけに、可愛いなんてよ。」

「あ、あぅ………。」

 恥ずかしくなって、顔を赤くした。そのまま美波は、俺の袖を掴んで俯いてしまった。

「ううう………。」

「大丈夫か、美波。」

「………恥ずかしい。」

 そんな光景に、男性は声を挙げて笑った。

「いや~、初々しいな。羨ましいぜ!」

「………もう、その辺にしてください。美波がもちません。」

「おお、そうか。俺は藤堂和哉(とうどうかずや)だ。よろしくな。」

 男性・和哉さんは手を出した。

「秋山直輝です。こちらこそ、よろしくお願いします。」

 俺は手を握った。

「す、鈴野美波です………。よ、よろしくお願いします………。」

 恥ずかしさにまだ立ち直っていない美波は、今度は俺の背に掴まって返事をした。


  第三戦

「へぇ、アンタらもリジェクターだったのか。」

「はい、俺は『不動明王』で剣を、美波は『アルテミス』で弓矢を使います。」

 このオープンカーは4人乗りとして設計してある。しかし、乗っているのは俺達二人だけだったので、後部座席には野営用の道具を積んでいた。その座席に和哉さんを乗せて、旧東京都を走り回っていた。因みに美波は、先程漸く羞恥から立ち直った。

 行く宛が無い事を話したら、和哉さんが気前よく自分の家までガイドをしてくれることになった。

「そうか、神さんの力を司っているからあれだけの威力が出たのか。」

「神さんって………。」

「まあ、そういうことですね。」

「和哉さんは何を司っているのですか?」

 すると和哉さんは、苦笑いを浮かべた。

「いや~、俺には神さんの力は無いんだよ。」

「えっ?でも、リジェクターですよね?」

「ああ。どうやら俺には、とある英雄様の力がある様なんだよ。」

「とある英雄ですか?」

 美波は首を傾げたが、どうやら浮かばなかったようだ。

「直ちゃんは分かる?」

「う~ん、………多分、『クー・フーリン』じゃないかな?」

 すると和哉さんが、

「おおっ、流石だな坊主!何で分かったんだ?」

「槍の英雄といえば、『ゲイボルグ』の持ち主・『クー・フーリン』が代表的ですよ。それに、司る英雄がそれならば、さっきの戦闘が劣勢になった理由も説明が出来ます。」

「どういうこと?」

「『ゲイボルグ』は『投げると必ず心臓を貫く』という結果を出す。そして、それを扱うことが出来る者は、ケルトの大英雄『クー・フーリン』しかいなかったという伝説があるんだ。だけど、さっき戦ったスケルトンには………。」

「そうか、心臓がそもそも無いから、ゲイボルグ本来の力が使えなかったのか!」

「恐らくね。」

 和哉さんは、さっきから何故か一言も喋らなくなった。どうしたのかと思って、横目で見てみると………、

「ぼ、坊主………。お前、あれだけでそこまで分かるもんなのか?」

 美波の矢を見た時よりも目を見開いて、呆然としていた。流石にまずいと思ったのか、

「い、いえ、違いますよっ。わ、私には全然分かりませんでしたし………。な、直ちゃんの、………あ、頭の中がどうかしてるだけですよ!」

 おい、美波!それじゃ、ただの罵倒じゃねぇか!!

 そう反射的に叫ぶ前に、

「ククク、嬢ちゃん。坊主に対して遠慮が無ぇな!!」

 和哉さんに笑われた。ハッと気付いた美波は、慌てて俺の方を向いた。

「ご、ごめん直ちゃん!そんなつもりは無かったの、全然!!」

「はぁ………、別にいいよ。」

「あ、ありがとう!!」

 美波は、俺が運転しているのを忘れたかのように(いや、この瞬間だけ確実に忘れていたはずだ)、腕に抱き着いた。当然、

「うわわっ!」

 ハンドル操作を少し誤って、車体が左右に揺れた。

「………美波?」

「もうちょっと、………このままにさせて。」

 そのまま、俺の腕を堪能するかのように目を瞑った。………相変わらず可愛いなぁ!!!

 その後ろで、

「嬢ちゃん。………所構わずこんな事してるのか?」

 苦笑を通り越して、呆れているだろう和哉さんの声がした。………誤解ですっ!!!


「ここが、俺達が住んでいる家だ。」

 そう言って指差した先には、周りより幾分か損害が少ない二階建てのアパートがあった。所々錆びている箇所があり、いかにも年期を感じさせる様だった。

「アンタら、宛が無いんならこのアパートの部屋使え。家賃は要らん。払っても意味ないからな。」

「えっ。でも、いきなり良いんですか?」

「何、構わねぇよ。さっき助けてもらった、礼とでも思ってくれ。」

 そう言って和哉さんは、オープンカーから下りた。そのままアパートに向かおうとすると、一階の部屋の扉が急に開いた。

 扉から出てきたのは、小学生位の男の子と幼稚園児位の女の子だった。弾丸のように飛び出して、和哉さんにぶつかるように飛び付いた。

「父さん、大丈夫だった!?」

「父ちゃん、平気!?」

「ああ、大丈夫だよ。怪我もないよ。家は何もなかったか、拓史(たくし)?」

 拓史と言われた男の子は、

「大丈夫、魔物もでなかったよ!母さんも麗奈(れな)も無事だった!」

「そうか、良かった良かった。」

 和哉さんの顔は、優しい父親の顔になっていた。

「ああ、紹介してなかったな。この二人は俺の子供だ。」

 和哉さんは、二人の頭に手を置いた。

「こっちが息子の『藤堂拓史』で、こっちが娘の『藤堂麗奈』だ。」

「拓史です、初めまして。」

「麗奈でしゅ!」

 拓史君はしっかりと、麗奈ちゃんは緊張して自己紹介をした。

「初めまして、俺は秋山直輝です。」

「鈴野美波です。よろしくね。」

 丁寧に、俺達も自己紹介を返した。すると、開けっ放しの部屋から、もう一人出てきた。

「あらあら、お客さんなんて珍しいわね。」

 この様子だと恐らく、

「ああ~、坊主の察している通り、俺の嫁だ。」

「初めまして、『藤堂沙耶香(とうどうさやか)』です。主人がお世話になりました。」

 おっとりとした、優しそうな女性だった。

「秋山直輝です。」

「鈴野美波です、初めまして。」

 二人同時に頭を下げた、その時の事だった。


「グロロロロ………。」

 不気味な唸り声と共に、重い足音が聞こえてきた。

「な、これは!?」

 和哉さんが驚愕の声を挙げた。そこに現れたのは、三つの頭を持つ巨体の狼・『ケルベロス』だった。

「………何で、………こんな時に。」

「いや………、父ちゃん………。」

 子供達は、絶望した声を出した。しかし俺達二人は、

「何だ、ここにもいたのか。」

「久しぶりに見たね~。」

 ………随分場違いな話をしていた。

「お、お前ら何呑気な事言ってんだよ!?地獄の番犬なんだぞ!?」

「ええ、そうですけど何か?」

「討伐しなきゃならねぇ奴なんだぞ!?」

「分かってますって。」

「はぁ!?」

 パニックになっている和哉さんを尻目に、俺達は話を進めた。

「どうする?一人でやっちゃっても問題無いよね。」

「まぁそうだな。」

「じゃあさ、直ちゃんがやってよ!スケルトンの時は、私がやっちゃったしさ。」

「いいのか?じゃあ、やらせてもらうわ。」

 そう言って俺は、一人でケルベロスに向かった。

「ぼ、坊主一人でか!?」

「大丈夫ですよ。直ちゃんなら充分です。」

「ほ、本当かよ………。」


「さて、早速やらせてもらうかな。」

 そう呟くと、自然と口角が上がった。歩きながら、腰に吊った倶利伽羅剣を抜刀した。その刹那、

「ギャオオオッ!」

 ダッシュの要領で一歩目を強く踏み込み、ケルベロスの左前足を斬り飛ばした。そのまま、左後ろ足を斬ろうとした時、ケルベロスは三つの頭を伸ばして、俺を噛みつこうとした。

 ケルベロスは、底辺にある魔物のなかで見れば、その凶暴性故に上位に存在する。野性の勘とも言うべきその反応速度は、正直俺の予想を上回っていた。

 三つの頭を交わしながら、俺は一旦距離を取った。

「へぇ、やるねぇ………。」

 思わず声が零れた。目が見開き、歯を見せ、俺は身体を屈めた。

 一度この顔を見た美波は、『獰猛な狩人みたい』と言われた。俺は、この戦闘に興奮していた。

「グララアアアッ!」

 足を一本失ったとは思えない速度で、ケルベロスは俺に飛び掛かった。噛みつかれるその瞬間、

「「「「えっ!?」」」」

 ケルベロスは、俺をすり抜けた。

陽炎(かげろう)』。

 炎は、この世に存在しながら実体が無いもの。炎を司る俺は、この身体を『意識して』非実体化させる事が出来る。その技こそ、陽炎と言う。

 当たるはずの攻撃が通用しないことが有り得ないと思ったのか、ケルベロスは俺を見て膠着した。

 俺はその隙を逃さずに、再びケルベロスに向かって踏み出した。地面が蜘蛛の巣の様にひび割れる。たった一歩踏み込んだだけで、俺の身体は低空飛行をした。その時、倶利伽羅剣の刀身が赤く発光した。

「はああっ!!」

 今度は『斬る』のではなく『突く』。ケルベロスの中央の頭に突き刺さった途端、その頭が破裂した。

「ギャアアアッ!」

 痛覚までもが共有されているのか、残りの頭が苦痛に顔を歪める。

 ケルベロスの頭を潰した俺は、そのスピードの方向を上に切り替えて跳んだ。残り二つの頭の上で、最後の攻撃を仕掛けた。

「………終わりだ。」

 そのまま倶利伽羅剣を首に向かって一振し、斬撃を飛ばした。

 ケルベロスの頭は二つ同時に落ち、そしてとうとうその巨体も、崩れ落ちた。


「ま、マジで一人で討伐しやがった………。」

 藤堂一家の前に静かに着地した俺を迎えた言葉は、和哉さんの驚愕した一言だった。他の人達は、言葉すら発さなくなった。………たった一人を除いて。

「お疲れ~、前より強くなってなかった?」

 美波だった。

「確かにな。まぁ、前討伐した奴よりでかくなってるし、その分少しは強くなったんじゃないか?」

「ちょ、ちょっと待て。まさか、二人共既に討伐した事あるのか?」

 和哉さんが、今更の質問をしてきた。………そう言えば、和哉さん達には伝えて無かったな。

「ええ、ありますよ。」

「私は二体、直ちゃんは確か、………今のを合わせて五体討伐した事あります。」

「な………。」

 あ、とうとう和哉さんもフリーズしてしまった………。


  エンディング

「いや~、坊主の力は凄ぇな!!」

 酒を呑んで顔を赤くさせた和哉さんは、上機嫌で俺の肩を叩いた。

 ケルベロス討伐後、俺達は藤堂一家の夕食に招かれていた。

「あの悪魔みてぇなケルベロスを一人でバッサリ斬り倒しちまうとわな!」

「い、いえ。………大したものじゃないですよ。」

 酔っ払いの勢いに、俺は少し引いてしまっていた。その上、俺を手放しに褒めてくれるので、居心地の悪さを感じていた。

「もうその辺にしてくださいな、貴方。直輝さん、困ってますよ?」

 救いの手を差し伸べてくれたのは、沙耶香さんだった。『今朝調達してきた』と言う食料で、久しぶりに豪勢な料理を頂いていた。

「どうかしら、お口に合いましたか?」

「ええ、とても美味しいです。」

 隣で美波も、沙耶香さんの料理に舌鼓を打っていた。

「和哉さんは、毎日こんな美味しい料理を食べているんですか?羨ましいです!」

 静かに食べていると思ったら、急に和哉さんを羨んだ。

「おいおい、止してくれよ。良いもんばっかじゃねぇよ。俺の嫁さんは怒ると凄ぇ………。」

 途端に、背筋が凍る様な視線を感じた。会話がぴったりと止み、美波は身震いをした程だった。

「怒ると………何ですか、貴方?」

 吹雪の様な沙耶香さん。一応にっこりと笑ってはいるが、本当の笑顔ではない事は、ここにいる全員がしっかりと感じ取っていた。

「え、………いや、その………。」

「幾ら酔っているとは言え、言ってはいけないこともありますよねぇ。」

 和哉さんは真っ赤になっていた顔を、今度は真っ青にしていた。

 ………沙耶香さん、マジで怖ぇ………。


「そう言えば直輝さん。」

 和哉さんを威圧していた沙耶香さんは、今度は普通の笑顔で話し掛けてきた。そのお陰か、返事は普通に返すことが出来た。

「さっきから気になっていたのだけれど、美波さんとお付き合いしているのかしら?」

「はい、三年前から付き合っています。」

 隣で美波は、顔を赤くして俯いた。口元が僅かに上がっているところから、満更でもないのかもしれない。

「へぇ~、良いわね。初々しいわぁ~。」

 美波を見ながら、今度は口を隠しながら笑う沙耶香さん。恥ずかしさのあまり、俺の袖を掴んで腕に顔を埋めた。耳まで赤くなっていた。

 俺までもが、頭から湯気が出そうな程恥ずかしくなった。

「フフフ………。可愛いわね、美波ちゃんは。」

「そ、………そうですね。」

 何故か返事が、たどたどしくなってしまった。

「あら、直輝さんはそこまでいちゃつかないのかしら?」

「あ、いえ。そういう訳じゃないのですが………。」

「へぇ~、それは見てみたいわ。」

 あ、墓穴掘っちゃった………。

 だが、もう後にも退けなくなった。こうなりゃ、最後まで惚気てやる!

「「「「えっ!?」」」」

 俺は美波を、身体ごと引き寄せた。そして美波の頭を肩に、思い切り抱き締めたのだ。

「あ………。」

 当然美波はフリーズ、藤堂一家までもが口をあんぐりと開けてしまった。たった一人だけ、隠さずにニヤニヤしていた。

「あらぁ、こんな目の前でなんてやるわねぇ。」

「はい、美波は俺の彼女ですから。」

 耳が熱くなるのを感じながら、俺は言い切った。すると、美波が急に震え始めた。何だと思って、腕の中の美波を見てみると………、

「皆の前で、こんな恥ずかしい事しないでよっ!!」


「………ごめん。」

「本当だよ、………もう。」

 静かになった夜、俺達は二人だけで外に出ていた。

 藤堂一家は『十一号室』に住んでいる。俺はその上の『二十一号室』、美波はその隣の『二十二号室』を借りている。

 美波は機嫌を損ねていた。俺は美波に、何度も謝っていた。

「………直ちゃん、私は別に抱き締めてくれた事を怒ってないんだよ。………場所を考えてほしかっただけなの。」

 美波は、理由を漸く教えてくれた。すると、

「………今、抱き締めてくれるなら許すよ。」

 美波は両手を広げた。俺は、それを断るなんて考えもしなかった。

「美波………。」

 今度はしっかりと、美波を抱き締めた。美波は、俺の身体に手を回した。そして俺の胸に顔を埋めて、そっと目を閉じた。

 夜空の下、互いの存在を確かめる様に、俺達はずっと抱き締め続けた。

 正直、こんな私が小説を書いても良いのだろうかと思っています。ですが、それでも小説を書いているのは、やはり私自身が「本の虫」だからでしょう。………度が過ぎるでしょうか?

 さて、今回も私は小説を書かせて頂きました。今回は連載小説として、今後も書き続けるつもりです。終末の形は未定ですが………。

 この小説では、一応技名を付けていますが、叫びながらすることはありません。恥ずかしくて、死にそうになりますし。

 未だに後書きには慣れないので、この辺で失礼します。(慣れるのかな?)

 ………何故かこの後書き、自分で突っ込んでいるばかりですね。つまらないかもしれませんが、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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