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3 お茶会

 国の名前が出てきますが、覚えなくて問題ないです。


 ルビーにお茶会に呼ばれてしまった。


 あの後、休憩用に用意されている部屋で一緒にお茶をしたら、ものすごく緊張しながら「ここここ今度お茶会を開くのでエミェ、エメラルジョしゃまもぜひ!!」と顔を真っ赤にして頭を下げてきた。

 可愛い。

 なんというか、小動物ぽい感じ。名前噛まれても全く気にならなかったわ。

 その時は思い付きの勢いで言っているんだろうと受け流したけれど、その三日後の今日、正式な招待状が届いてしまった。本気だったらしい。


 このお茶会、知ってる。


 ゲームであったお茶会だ。

 ルビーが社交界に出てから初めて開くお茶会だ。そのお茶会にエメラルドは呼ばれない。

 エメラルドの友人たちは呼ばれるけれど、公爵令嬢を呼ぶのは畏れ多い、と考えて呼ばなかったのだ。

 仲間外れにされたエメラルドは怒って呼ばれていないお茶会に乗り込みルビーをイジメるのだ。


 そんなお茶会に呼ばれてしまっている。正式に。


 この前の婚約パーティーのジャスパーといい、ゲームとは違う流れになっている?

 でもイベントの順番は同じね。

 ルビーは婚約パーティーで王太子とうっとりダンスをし、名残惜し気に別れ思いをはせる。その後貴族の仲間入りをしたご挨拶も兼ねての女子だけのお茶会、しばらくジャスパーは出てこない。

 悪役エメラルドとの戦いである。

 

 ルビー主催のお茶会でエメラルドは乱入し、わざとルビーのドレスを汚し嘲笑い、「女性をまとめている公爵令嬢である私を呼ばないなんて」と怒り、パーティーに招かれている人たちにむかって「常識のない人と付き合う人たちの気が知れない」と言って暗に「自分に逆らうならどうなるか分かっているだろう」と気まずい空気にして去って行くのだ。そのせいで招いた令嬢たちも次々と帰っていく。お茶会は大失敗だ。

 なんて感じの悪い公爵令嬢エメラルド。


 私である。


 いや、正確には私じゃないけど。

 私そんなことする気ないけど。

 乱入する以前に呼ばれてしまっているわけだし。


 正直、ルビーが何を考えているのかが分からない。

 前世で読んだ転生小説だと、イジメていなくても主人公がいいがかりをつけてきて無理やり悪役にされるという話もあったのよね。ルビーはどうかしら。お茶会に行ってイジメっ子にされるのは嫌だわ。

 単純に仲良くなりたくて誘ったように見えたけど……

 パーティでもジャスパーから助けてくれたし……

 ジャスパーを好きでも私を助けるかしら……?


 ルビーとジャスパーが出会った瞬間はゲームと一緒だったわよね。見つめ合って恋に落ち、ダンスをする。

 ルビーはセリフもゲームの通りだったわ。違うのはジャスパーだけよね。

 ジャスパーも前世の記憶があったりする…? いえ、そういう感じじゃなかったわ。

 私が気付いていない何かがあるのかしら。


 でも、私は別にルビーとジャスパーが結婚しても良いと思うのよね。

 ゲームでは出てこなかったけれど、私とジャスパーが婚約したのにはいくつかの事情がある。


 ひとつは単純にお互い顔見知りだったこと。

 顔を知らないままの政略結婚もあるけれど、知らないよりは知っている方が良いと考えるのは当たり前だ。

 従兄弟同士だから頻繁に会っていたし、年もそれほど変わらない。兄と私ともうひとり幼馴染がいて、よく4人で遊んだり勉強したりした。


 もうひとつは、ある国に対して王族と公爵家の繋がりが強いことをアピールする意味もある。

 

 ここ数年、海を渡った先の大陸の国・レイズ国から外交官が来ている。

 その国は大陸ひとつを女王が治めている。この国の何倍もの大きさ、何倍もの資源を持つ大国がこの国と友好関係を結びたいそうだ。


 どんなに大きい国だったとしても、舐められては困る。

 搾取されるのはもちろん、この国を足掛かりに隣国に責められるような事態になったら大変だ。

 公爵家の領地は広く豊かで人口も多く軍事力もある。父は王と20歳近く歳が離れているが血のつながった弟で、外交を得意としている。

 そんな公爵家と王族が繋がりが固いと見せるのに結婚はもってこいだ。


 しかしこれはルビーに変わっても問題ないと私は思っている。


 平民から貴族になったルビーを王族が娶る、というのは平民の心を掴みやすい。

 国民に慕われる王族、というのも相手にとっては見過ごせないだろう。もし戦争になった時、国民は兵士に変わる。

 質の高い公爵家だけでなく、国民全員が味方。それもありだと思う。


「伯爵家のお茶会に行かれるのですか?」

 紅茶を持って来たマリアがそう言った。


 マリアは私より5歳年上の侍女で、子供の頃から色々世話を焼いて貰っているので、身分は違うが友達のような仲だ。

 招待状を前に考え込んでいたのだから、声をかけたくもなるだろう。


「迷っている、というのが本音ね」

 正直に答える。


 お茶会に行かないという選択もある。

 でもルビー可愛かったし、何を考えているのか様子を見るのもいい。

 お茶会も楽しそう。


 普段私が行くお茶会って、必ず王妃様や王妹殿下、隣国の姫とか身分の高い貴族が多くて楽しむというよりは仕事なのよね。

 たまには気楽に楽しめるお茶会にも行ってみたいわ。

 あら?

 そう思うとゲームのエメラルドも単純に行きたいのに呼ばれなくて拗ねたのかしら。そう考えると可愛いわね。イジメはだめだけど。


「伯爵家のパティシエは大陸から渡ってきた方との噂ですよ」

 マリアは情報通だ。

「この国に流れてきた時は奴隷だったそうですけど、8年前の奴隷制度廃止後に菓子職人の道を選んだとの噂です。大陸にいた頃も職人だったとか」

「大陸って、レイズ国のことよね?」

「あくまで、噂ですけど」

「それはぜひとも行きたいわね」

 作られるお菓子も気になるけれど、大陸の情報はまだ少ない。少しでも話を聞いてみたい。


 私はペンを執ると、お茶会に参加することを伝える手紙を書き始めた。



*エメラルドたちが住んでいる国=「この国」

*海を渡った大陸の国(レイズ国)=「大陸」

*陸続きの隣の国=「隣国」


 と、覚えて頂ければ問題ないですし、「婚約は政治的意味合いもある」と認識していただければ結構です。

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