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 サブキャラって普通同性じゃない? と思っている方、安心してください。

 作者もそう思ってます。

 

 マリウス・コントルシー。

 ルビーの親友でお助けキャラだ。ちょこちょこ登場するサブキャラである。


 爵位のない末端貴族で、城下町の教会でルビーと知り合う、ルビーが伯爵に引き取られる前からの友人だ。引き取られた後も色々世話を焼いたり相談にのってくれる。

 ちょっと童顔で黒髪茶色の瞳、中肉中背で顔は普通。特に格好いいわけではない。

 日常では天然でスリにあっても気付かないのに社交界ではルビーのサポートをそつなくこなす、都合の良いキャラだった。


 どういう都合かというと、さりげなく貴族生活のアドバイスをくれたり、いざこざの時に選択した人物を呼んでくれたり、彼がスリに遭ったことに気付いたルビーが犯人を追いかけて危ない目に遭ったところに選択した人物が助けに来るのね。そんな感じ。

 マリウスはあくまでサブキャラなので相手に選ぶことはできない。


 私、マリウス好きだったんだよね……!!!!

 だって親身に助けてくれるんだもん! 二周目で選択できるんじゃないかって期待したくらい!

 選択できなかったし隠れキャラでもなかったけど!

 なんで忘れてたのかしら…!


「この度はご婚約おめでとうございます。社交界の宝石と言われるエメラルド様と、王国の至宝と言われるジャスパー様がご結婚されるという知らせは、この国に多大なる幸福をお運びになることでしょう」

 ほら! 挨拶も滑らかで表情も爽やかで完璧だわ! 好き! 大好き!

「う、嬉しいお言葉でしゅわ。心よりお礼もうしゅあげます」

 噛んだ! この私が二回も噛んだ! 「お言葉」も「おことびゃ」になりかけてた!

 恥ずかしさと嬉しさと好意が爆発しそうで顔を熱くしながら私はややうつむき気味に礼をする。

 この私としたことが!

 ことさらゆっくりとお辞儀をして、咳ばらいをしながら顔を上げるとマリウスと目が合った。

 笑った。

 好き!!!!!!!!


 一礼して去って行く姿を目で追ってしまう。

 好きだわ。あんなに颯爽と歩いているけど城下町では子供にスられてるのよ知ってるわ。

 男爵にあんなにスマートな挨拶をしているけど、階段踏み外して青あざ作ったりするのよね。知ってるわ好きだわ!

 男爵と乾杯してるけど、お酒に弱くて飲めるのはシャンパン一杯までなのよね。可愛いわ好きだわ!!

 ルビーがエメラルドに睨まれた後、飲み物を持って行って励ますのよね。優しいわ好きだわ!!!


 すぐ横で大きい咳ばらいが聞こえて顔を向けるとジャスパーが私を見ていた。

 ジャスパーのすぐ横にはルビーがいる。

 あら? 確か挨拶の後、ふたりで踊るんじゃなかったかしら。

「エメラルド、少し踊ってきてもいいかな」

 あら? ゲームではエメラルドをそっちのけでルビーを誘って、エメラルドは悔しそうにそれを許すのよね。ジャスパーからこんなセリフなかったはずなのに。

「よろしいわよ。音楽はもう始まっているわ。ルビーさんも楽しんで」

 私は覚えているゲームのセリフを言う。

 ゲームではもうちょっと嫌味っぽく言ってたけど、マリウスに会った後に意地悪するのは無理だわ。今幸せな気分だもの。


「……」

 あら?

 ジャスパーは少し不機嫌そうな顔をして私を見た。

 何かしら。

 ルビーを見るとニコっと可愛い笑顔をいただいた。何かしら?

「エメラルド、君…」

「あ、あの、それではジャスパー様をお借りします!」

 何かを言いかけたジャスパーを遮るようにルビーが私に丁寧にお辞儀をした。あら可愛い。セリフはゲームの通りね。

 睨むどころか笑顔で見送ってしまうわ。ジャスパーはまだ何か言いたげね。もっとルビーに集中しなきゃ足踏んじゃうわよ。


 給仕が飲み物を持ってきてくれたので、さっきマリウスが飲んでいたのと同じシャンパンを手に取る。

 ちょっと甘いわね。マリウス、甘いもの好きだったものね。こういうの好きよね良かったわ。

 マリウスを目で探すと壁際でルビーの父親と話をしていた。

 いいなぁ。私ももっと声を聞きたいわ。

 でも、王太子の婚約者で公爵令嬢の私と、爵位のないマリウスでは接点が何もない。

 話しかけるには不自然だし、向こうも何事かと思うわよね。

 ああ! 笑ったわ! その笑顔大好き! 何の話をしてるのかしら。

 身分が違いすぎてダンスどころか近付くことも出来ないなんて。

 ジャスパーはいいわよね。王太子だから何しても許されるし、男だから自分からダンスに誘えるわ。


 ため息をつきながらシャンパンを一口飲む。

 マリウスと同じものを飲めることだけが救いね。

「エメラルド」

 声に振り向くとジャスパーがいた。強く腕を掴まれる。

「ジャスパー様? ルビーさんは?」

 ルビーは横にいなかった。


 ジャスパーは不機嫌そうに私の手からシャンパンを取り給仕に渡してしまう。

 まだ半分も飲んでないのに。

「踊ろう」

 そう言って私が返事をする前にホール中央に連れて行かれる。

 注目される中ルビーを発見した。困った顔で何というか、挙動不審だ。


 私たちがホール中央に出たところで音楽が一旦止まる。

 ジャスパーは踊っている途中で私の所まで来たのね。なぜかしら。ルビーも困ったんじゃない?

 音楽は私たちのために仕切り直される。ジャスパーの勝手な行動だけど、私たちが主役だものね。

 踊っていた人たちも下がると再びワルツが始まった。

 ジャスパーと踊るのは初めてじゃないから安心ね。


 と、思っていたのに、いつもより動きが強引だった。

 ジャスパーを見上げると、不機嫌…というより怒っている?

「エメラルド、君、自分が誰の物か分かってる?」

 声も怒ってるわね。

「目の前で婚約者が他の男に惚れるのを目撃した僕の気持ち、分かる?」

 

 …………あら?


 ジャスパーは今まで見たことのない、笑顔なのになぜか怖い顔をしていた。

 思わず視線を巡らせると、笑顔で私たちを見守る中、ルビーだけが心配そうに私を見ている。

 あ、マリウ…

「誰を見てるの? 僕を見て」

 言われてジャスパーを見る。怖いわ。今、マリウスを見付けたのに気付いたのね。

「ジャスパー様だって、ルビーさんを…」

「ちょっと可愛いなと思っただけなのにさっさとどこかへ行けと言わんばかりに追い出すのはひどくない? 今日は僕らの婚約パーティだよ? 君は僕と結婚するんだ。爵位のないあんな男とは口をきくことも出来ない。せいぜい同じシャンパンを舐めるくらいさ」

 固い口調でつらつらと言われ私はあんぐりと口を開けてしまう。

 こんなジャスパー見たことないわ。

 ゲームでも、転生してからも。

 

 怖い、と思ったら涙が出た。

 ちょうど曲が終わり足が止まる。その瞬間、零れ落ちる涙をジャスパーが拭った。

 唇で。


 悲鳴に似た歓声と共に、人々が踊るために輪を作り始める。

 ジャスパーは私を見たまま、私が視線を逸らすのを許してくれなかった。


「あ、ああー、ああーー!」

 わざとらしい声と共にすぐ横に倒れた姿があり、やっと視線を外してそれを見る。

「し、しまったわー。きんちょうして足がもつれちゃったー。くじいたかもー」

 思い切り棒読みのルビーだった。

 突然何…あ!

「まあ、大変ね! 手当してもらいましょう。ジャスパー様、ここはよろしくお願いします!」

 さっと手を放してルビーを助け起こす。

 ホールに再び音楽が始まる中、私はルビーに肩を貸して輪から抜けた。


「助かったわ、ありがとうルビーさん」

 小声でお礼を言うとにこっと笑われる。可愛いわね。癒されるわ。

 廊下に出る前に振り向くと、ジャスパーは動かずに私を見ていた。

 あの怖い笑顔で。



 ゲームの世界に転生したはずなのに、


 ちょっと、違うみたい……





ここまで短編で投稿したものです。

エメラルドがマリウスをガン見しているのが伝わればいいなって思いながら書きました。


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