試練2
『人は命の危険に晒されたとき最も本性が現れる生き物だ』と誰かが言えば、真面目に考えた者の中には否定する者は誰一人としていないだろう。絶対的驚異を前にすれば被害がある者は徒党を組むか逃げだす。その姿はある種醜く、ある種滑稽。
故に人は、根本的に驚異を避ける。そうすることで惨めな思いをすることも、自らの本性を周りに悟られることもなくなるから。
、、しかし、もし避けようのない驚異と相まみえてしまえば、、、
そしてもしその脅威が、自らに牙を剥いているのならば、、
どれだけの月日が流れても変わらぬ人間の本質を、
思い知ることになるだろう、、、
息が弾む。胸が苦しい。
ドクドクと脈打つ鼓動と、整わない息使いのせいで体の芯が信じられないほど熱い。なのに必死に動かす手足は冷たくて、全力で駆け抜けた廊下の風は気持ち悪い。
いつもならすぐ足を止めてしますだろうこの感覚は一緒に廊下を必死に走るもう1人の友人も同じだろうか。
……いやあいつの方が根性あるから俺よりはましかな?
「走れ走れ走れぇ!!!!くるぞぉぉぉぉおおおお」
校舎の二階の廊下を全力で走る俺たちに向かって、校舎の向かい側にある体育館の三階の窓からそう叫ぶ声が聞こえる。
え?何かに追われてるのかって?
大正解。やばいヤツに追われてる。それもヤンキーなんて比じゃないやつに。
……やっぱ訂正。ヤンキーも普通に怖いわ…。
〈ドォーンッッ!!!!〉
廊下を走りきって突き当たりから左に繋がる渡り廊下に飛び込むと、すぐ後に後ろから廊下の端の壁にやばいヤツが突っ込んだ轟音が聞こえてくる。斜め前を走る友人がだめだと事前に話していたのに後ろを振り向き顔を恐怖に染めていく。馬鹿、一人でも脱落したらおじゃんなんだからそんな暇あったらとっとと走れ!!
「はぁっ……はぁっ……!!」
渡り廊下をほぼ並んで駆け抜け、突き当たりにある体育館へ走る。後ろからガラガラと壁が壊れる音とやばいヤツの足音が聞こえる。どんどん近づいているのが音でわかり恐怖が体を支配するが、今だけはそれを振り切らなければ死んでしまうのだ。視界に扉で待ち構えている生徒の顔が恐怖で引きつっているのが見えた。おいおい間違っても閉め出してくれるなよ!
「………っくっそがぁぁぁぁああ!!!」
体育館の中に飛び込んで床を転がり、急いで後ろを確認する。扉係はちゃんと仕事をしてくれたらしく誘導した3人全員が飛び込んだ後に扉を閉めたらしい。そしてすぐに扉から離れている。
<ドォーンっ!!>
轟音を響かせてヤツ、トカゲの化け物の首が金属製の扉を突き破ってきた。化け物は俺たちのこと爬虫類らしい細い目でにらむと奇声を上げて首を伸ばしてくる。どうしても俺たちのことが食いたいらしい。
「……お前なんぞに食われてたまるか、化け物め…」
『うおおぉぉぉぉおおおおお!!!』
扉の外からたくさんの雄叫びが聞こえるのと同時に、化け物が暴れだす。血を吐きながらもがいていた化け物だったが、しばらくして一際たくさん血を吐くと、ゆっくりと動かなくなった。そして……
【ピンポンパンポーン。現時点をもちまして、試練は終了となります。各参加者に付与される恩寵は本試練の精査後となります。後日個別に通知させていただきますので、少々お待ちください】
そのアナウンスと同時に歓声が上がる。俺はそれを聞きながらこんな異常な事が日常になったあの日のこと思い出すのだった。