うちの都営住宅は1.5MのADSLが現役バリバリ
顔の影はすぐに消え、淡白な口調で答える。前にもあったこんなやりとりがあったような、と感じて思い出す。俺が遭難した草原には、昔、大きな街があった、と話したときと重なる。一夜に滅ぼされた街。
じゃあ、クサイダーと愉快なクサヤたちの街も魔――「魔王の攻撃を受けたんだよね」
俺が連想するのと同時に、ソアラがあっけらかんと言った。
話の重さと語調のそれがやや噛みあわないのは、ほんのり染まった頬が示すほろ酔いのせいか。俺も酒に詳しくないが、そこそこ強そうに見えるやつをグラス数本空けておいてまだそれっておかしいだろ。L◯E30倍がカレーの王子◯まに感じられそうな超絶激辛料理も食ってるし。
俺はその飲食にげんなりし、デネブは話題に不似あいなエルフ娘の口ぶりに少々鼻白んだ。
「あのね、あたしの出身地のことなんだけど?」
「でも昼間、言ってたよね、デネブちゃんがトーキョーからアンティクトンに来たのは半年ぐらい前だって。生まれ故郷って実感はないんでしょ?」
「そうだけど、月単位の期間、住んでた街だし、こっちの世界で初めて触れた場所ってことで少なからず思い入れはある。あたしに記憶がないだけで、デネブって子はあの街で十八年間、生まれ育ったんだから。もとからアンティクトンの住人で、人間の街ではアウェイってあんたじゃ、この気持ちはとうていわかんないだろうけど」
なんか微妙にASD的なとことかいろいろ混ざっちゃってそうだし、とよくわからない悪態をつけ加え、デネブは嘆息する。
ソアラがきょとんとした笑顔で小首をかしげると、異世界の住人のあんたには逆立ちしても理解できない概念よ、と手をひらひらさせた。
「勇者様はあたしの気持ち、わかりますよね」
いや、同意前提のトーンで振られても、そのADSLみたいなやつ、俺も知らないし。(ちなみにうちの都営住宅では1.5Mが現役バリバリだ。00年代初頭かよ)
「そこじゃなくて、日本からの転生者がこの世界に対していだく、複雑で微妙な心境のことです」
まどろっこしそうに小さくテーブルを叩いてデネブは訴える。ちょっとからみ口調だ。あれ、こいつ飲んでないよな。
がんがんに飲んでるソアラのほうが落ち着いたそぶりで、あ、お兄さん、また生もう一杯、とウエイターに愛想よく追加注文している。てかどんだけ飲むんだよこのエルフ。胃袋がアナザーにディメンションしてんのか。




