明らかに伊豆の名産品な肴の魚
ソアラの聞きつけた情報は正しく、この酒場はなかなかうまかった。
日本じゃあまりなじみのないタイプの香辛料がふんだんに使われていて、なんか新大久保とか錦糸町辺りの異国情緒がたっぷりの料理だ。異世界で異国情緒も今さらだが。
そこそこクセがあって始めはちょっとクセぇ気がしたものの、食ってるとだんだんクセになってくる。六百イェンとリーズナブルなくせに。日本なら学生割引でも六千円はする。この惑星に転生まれてよかったぁーっ。うわっ、クセえな、こっち皿のやつも。惑星だけに。
「勇者様、なにひとりでにやついているんですか。気持ち悪いです」
デネブがへきえきとした顔でテーブルの対面から苦言を呈した。
そういうこいつも、二十秒に一回は辛い辛いと涙目で訴えつつ、ココ◯チの4辛ぐらいありそうな赤み成分多めのスープを口に運ぶ。制汗剤も静観せざるをえないほど盛大に発汗、滝汗状態だ。
デネブはまだ清楚な顔だちからセーフだが、うちのセイウチが汗いっぱいだったら、俺は理性を制御できず、許せ妹よ、と奇声を発して正拳突きの制裁を叩き込み、猛省をうながしているだろう。
まあ、五十キロの転生前の俺が推定八十キロから〇・一トン級のBBWとやりあえば、どのような惨劇が待ち受けているか言うまでもないが。というか実際に男女平等パンチを食らって吹っ飛んだことがある。
にしてもこのクサヤみたいな魚の干物、クセえな。てゆーかこれ絶対クサヤだろ。明らかに伊豆の名産品なその魚を食ってると、酒の肴に飲みたくなってくる。が、目の前に飲ませろ飲ませろとうるせーやつがいるからな。
自制する俺とは正反対のソアラは、清酒とラム酒とチェリー酒というめちゃくちゃな組みあわせでがんがん呑っていた。
 




