【悲報】コンビニでほかの客に失笑され逃げる「ちょとマテ。ください。テンチョー、この眼鏡、オタクのくじ、引きたい。ワタシまだ習てない。ません」
食うものも食ったしそろそろ、と思いながら、俺は離れたテーブルの女の子をちらちら見ていた。
さっきひとりで店に入ってきて、客全員の注目を集めている。目立つ外見だった。その服装、長い金髪、とがった耳。
デネブが、エルフですね、と声をひそめて言った。あまり人前に姿を現さないので、好奇の目で見られる、と言葉を継ぐ。
まあ、エルフの子が来店するまでは、頭の特大リボンから足先のウイングつきシューズまで、ピンクと白の入り混じった珍妙なコスチュームを着た誰かさんが、好奇の目で見られていたわけだが。
エルフの少女は、客の視線とひそひそ話を独占していたが、いっこうに気にする様子はなかった。うまそうに肉料理を胃袋に収めていく。エルフって肉とか食うんだっけ。森の動物はみんな友達的なイメージが。
何度かちら見しているうち、エルフの子と目があってしまった。まずっ、と顔をそらす。
そらとぼけるように店の小汚い天井を仰いだが、視界の端っこでその子がこちらを見ているのを感じた。
突如、彼女が、がたっと立ち上がった。反射的に向きなおると、目をかっと見開いていた。迷いなくこっちへ向かってくる。
やばい。これは因縁をつけられるパターンだ。嫌な記憶がよみがえる。
去年、限定販売などのやむにやまれぬ事情で、自宅警備の職務を一時的に放棄するという、引きこもりにあるまじき背徳の行為――人はそれを外出と呼ぶ――におよんだときのこと。道ですれ違ったJKたちと目があって、『おい、なに見てんだよ』『こいつ、いかにも童貞って感じしない?』『かわいそうだよー。眼鏡くん、顔真っ赤』っておちょくられたトラウマがカムバくる。
エルフ特有の金色の髪もしかり。地下鉄で酔っぱらいのおっさんにからまれて逆にひざ蹴りでKOしてたジャージの女を連想する。そいつにも『あんだコラ、眼鏡。見せもんじゃねえぞ』ってにらまれた。
金髪といえば、メイトの帰り道で外人の女に声かけられて、浅草がどうとか言ってんだけど英語わかんねーし、しどろもどろで『のののの、のーさんきゅー!』つっても通じなくて、しまいには手をW字にして首振られて、通りがかりの中国人ふうのグループに聞きなおされて、十秒ぐらいの説明で外人女が『オーゥ、センキューヴェリマーッチ』つったのを聞いて、顔から火を吹きそうになりながら駅へ急いだことも思い出す。
あと中国人といえば、コンビニのレジの女に大声で(以下略)
いろんな嫌なことがいっぺんにフラッシュバックする。
近づくエルフに俺は、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、と縮こまった。
対面のデネブは対照的に、まじかる☆ステッキに手を伸ばし警戒態勢をとる。
俺たちのテーブルの前に立ちはだかったその子が開口一番、放ったひとことは、
「勇者さん、見ーつけたっ」
「は?」「え?」
満面の笑顔のエルフ少女に、俺とデネブはぽかんと口をひらいて固まった。




