この回とまったく関係ありませんが、猫の後ろ足の骨が出っぱっているところをぐりぐり触るのが好きです(作者)
【トーラスの街】には午前中に到着した。モンスターはあの火だるまになった鳥以外は遭遇せず、平和そのものだった。
エリースよりこぢんまりとした印象の街並を歩いて、俺たちは目についた大衆食堂に入った。歩きっぱなしで腹ぺこだ。少し早いが昼飯をとることにした。
店内はテーブルが六、七ほどの比較的、小さな構えだった。席は半分ほどが埋まっていて、地元と流れ者の両方が来店しているようだ。店主らしいオヤジと女の給仕のふたりで切り盛りしている。手際がいい店で、へたなファミレスより早く料理が出てきた。
俺は七面鳥のスープを、デネブはパエリアとサラダを食べながら、このあとの行程について確認した。
「この先に【ジェミナイ】という大きい街があります。このペースなら夕方前にはつけると思います。そこを拠点にレベルを上げつつ、勇者の使徒を探しましょう」
「RPGの定石的に考えれば、先に進むほど強いモンスターが出るだろ。一足飛びに行って大丈夫か? それに使徒だってこの街にいるかもしれないだろ」
スプーンでスープをすすりながら尋ねると、デネブはレタスの入った口を動かし、横に首を振った。
「あのレッドブラックカイトは例外的な強さでしたが、この先のジェミナイ近郊までならまだどうにかなるレベルです。なるべく強いモンスターを倒さないとらちがあきません」
ふむふむ、とうなずきつつ、昼食にはこってりとしすぎなスープをすすぐにように水を含む。
「勇者の使徒は――これは直感なのですが」言いよどんで、デネブはスプーンの先でパエリアの残りをつついた。「出会うべくして出会うのだと思っています」
「というと?」
あいの手を入れると、俺にならうようにグラスにひとくち口をつけて言う。
「私がたまたまエリースにいて、偶然にも捜索クエストを受け、勇者様と出会った。出会っても勇者様だと気づかずにそのまま別れていた可能性だってあります。きっと勇者の使徒は、勇者様に引き寄せられるようになっているんです」
あの幽かな波紋を使う人たちみたいなアレか。ほっといても向こうからやってきてくれるならありがたい。餓死しかけた末に出会うのはごめんだが。
 




