女の子と会話がはずんで調子こいて玉砕、非モテあるある
「私はアンティクトンでの役割を演じあうほうがいいなと思ってます」曖昧な笑みで、何歩か先を見やりながらデネブは語る。「お互いに実際の名前を知ってしまったら、今の関係が壊れちゃう気がするんです。【勇者】や【魔道士】って記号じゃなくなって、むき出しすぎる生身になるような。それはちょっと怖いです」
空じゃないほうの空を見上げる。「私は勇者様にお仕えする使徒のポジションに収まっているのが一番、居心地がいいです」
とつとつと理由を述べて、すみません、と魔道士はわびた。要は「ネトゲで名前聞くな」って言われたようなものか。ぐさりと胸にくる。俺は破滅的に空気読めないからなあ。
別の話題で空気の入れ換えを図ろうとしたが、それも選択をマズってしまう。
「なあ、立ち入ったこと聞くようで気が引けるんだけど、転生したってことは、デネブも元の世界で死んじまったんだよな。死因はなんだった?」
デネブは上げた目線を再び土の上に落とす。少しの間、口をつぐんで「ちょっと人に話せるような内容じゃないので……。ごめんなさい」ともう一度わびた。
別にいいよ、変なこと聞いて俺こそごめん、と俺は笑ってみせた。――俺のどアホウ。
しかし、人に話せないような原因か。普通の病死とか事故死って感じじゃなさそうだ。
まさかとは思うが、男に襲われて、とかじゃないよな。俺が死ぬ前辺りにニュースサイトを見ていた限りでは、都内でそういった事件は発生していなかった、はず。もしかして、陵辱を受けて、バラバラにされて、人知れず遺棄されたとしたら――。そんなのむごすぎる。不用意に尋ねるなんて軽率だった。
「もし――東京に戻れないとしたら」俺の後悔とはよそに、デネブは、案外あっさりした様子で言った。「お母さんに、死んじゃってごめん、って謝りたいかな。そんなに仲がよかったわけじゃないんですけど、母子家庭だったし」
少し寂しそうに微笑する。
「逆に聞いてもいいですか。勇者様はなにが原因で亡くなられたんでしょうか」
「俺? 俺は――」言いかけた言葉を飲み込む。「いや、俺もないしょ。これでおあいこ」
にやりとした俺にデネブもくすりと笑ってくれた。
勇者が腰抜かしてショック死したとか口が裂けても言えない。あと、さっきちょっと漏らしたことも(まだ乾いてなくて必死に盾で隠していた)。このことは墓場まで持っていく。
――つーか、もう死んでるか。




