そんな子が履いているのはきっと春の桜を思わせるようなピンクパンツに違いない。短いふりふりのスカートのなかをチェックしておこうとしゃがんだ瞬間
両手の白い手袋を左右に広げて、魔法少女のコスチュームに身を包んだ従者は説く。
「弱いからなんだっていうんですかっ。私が全力で守ります!」
「デネブ……」
「勇者様はきっと強くなります。どんどん強くなってください。そしていつか私を守ってください」
射抜くような真摯な眼は、まさに俺の心臓をえぐり貫通した。
「はは……。参ったな。二コも下の子から叱咤激励かよ」
こんなに人から思ってもらえたの、お袋と担任の先生以外じゃ初めてだ。くそっ、死にかけて、醜態さらして、温情受けて、心にゆさぶりをかけられすぎだ。
「五分、いや三分だけ時間をくれないか」
俺は背を向けた。もうあまり何度も見せたくないものを隠すために。
デネブは「いつまででもいいですよ。私も向こう向いてますから」と背後で言った。
地平線が明瞭でなくなり、青と緑がじわり溶けあう。天気雨が何滴か局所的に降り、土に染みた。
ゆがんだ景色がようやく原形を取り戻して、俺は振り返ることができた。
デネブはちゃんと後ろを向いて待っててくれた。いい子だ、と頬がゆるむ。
そんな子が履いているのはきっと春の桜を思わせるようなピンクパンツに違いない。短いふりふりのスカートのなかをチェックしておこうとしゃがんだ瞬間、さっとデネブが振り向いた。
「勇者様?」との笑顔の隅っこに、漫画みたいな血管が浮き出ていた。口もとを引きつらせて返した笑顔に、ハートのステッキが突きつけられる。
「回復と攻撃、どっちの魔法が出ると思います?」そういうロシアンルーレットは遠慮しときます。いやホント目がマジなの勘弁してください。
モンスターより恐ろしい従者をあまり怒らせないほうがよさそうだ。セクハラ発言はほどほどに自重しよう。




