作監が 2桁達して 総集編 万策尽きて ツイに炎上 (東京都・HSさん/20歳・童貞)
何度も礼を重ねておばあさんの家をあとにした俺は、すげえいい人だったな、と狭い路地を歩きながらふと思い出す。
そういや名前を変更するの、すっかり忘れてた。さっさと変えないと衛兵にしょっぴかれちまう。
壁に挟まれた小道を抜け通りに出た俺たちは、酒場へとって返しに向かった。
夕方前の街は、小さいながらも賑わいをみせていた。中心地に進むにつれて人通りと物売りが増えていく。
そこここで、あの店は槍とダガーの品ぞろえがいいだの、南の沼地ルートでよく盗賊が出没するだの、今日はヴァーゴ原産の魔石がお買い得だの聞こえてくる。
会話の内容も、人々の異国情緒たっぷりの服装、ファンタジックな武器防具の携行品も、背の低い石造りの街並も、俺のやってきた世界とは大きく異なる。まさに外国、異世界の景観。
にもかかわらず、飛び交っている言葉は二十年間、耳になじんだ日本語なのだから調子が狂う。まるっきりちぐはぐ。
なんだか、作画監督が何人もいる(=現場がいろいろヤバいことになってる)アニメを見ているような、落ち着かない気分だ。
雑踏の一般人や冒険者を縫いながら、俺はデネブに、勇者がこんなみっともなくて幻滅したろ、と自嘲気味に笑った。
魔女っ子の首の動きはロングの黒髪を横にゆらせ、肩の後ろをなでる。
「ちゃんと謝るのは勇気のいることだと思います。アルタイル様は勇者してました」
俺は、デネブ、と一番目の使徒の名を呼び、そのまっすぐな目を見た。
「レベルは上げられます。いっしょに戦って強くなりましょう!」
デネブは、二対の白い手袋をぐっと握って励ました。
おうっ、とひとこと応じて俺は先を歩いた。
もうこれ以上、年下の子に、ぐしゃぐしゃの顔は見られたくなかったから。




