乳首券――かつてゴールデンタイムのお茶の間を震撼、凍結させてきた超古代兵器TKB、その封印を解除する許可証。発行には役員クラスの承認が必要とされ、事実上、何人も行使不能
追いすがる俺に見向きもせず、足早に魔法少女コス魔道士はすたすた道を行く。ふたりとも何度も人にぶつかりかけ、交わし交わしだ。肩が当たってガタイのいい鉱夫っぽいおっさんににらまれ、すんませんすんませんと詫びながら追っつく。
「魔王どうすんだよ。おまえだって復活がかかってんだろ?」
デネブは一瞬、はっとしたようだが、すぐにむくれ顔の奥にしまい込んだ。
「私は向こうでの生活にそれほど未練はありませんので。ろくな家族じゃなかったからお母さん以外、そんな悲しまないだろうし」少々吐き捨てるぐらいの勢いで言いきる。「勇者様のように家族の復活がかかってるとかもありませんし」
なんか複雑な家庭の事情があるんだろうか。それはまたあとだ。
「未練があんまないとか家族がろくでもないとかは俺も同じだけどさ、いやまあ、未練っていえば、今期のアニメは大豊作で俺なんか二十本近く追ってるんだけど、特に次回の『まりみり』のテコ入れ温泉回はもう絶対見逃せないっつーか。ていうのも、どーも聞くところによると、いろいろやらかし気味の監督が今回、ついに乳首券の強行に踏みきるとかどうとかの黒い噂が流れてて、地上波で乳首なんて何十年ぶりの快挙かわからないとすでに一部で騒然となってるもんだから、これはもう見届けなければ死んでも死にきれな――」
俺がオタ特有の早口で語っていると、低い声でデネブが「まりみり」とつぶやき足を止めた。じろりとねめつけられ俺は固まる。
「へーえ」ゴミを見るようにデネブは目を細める。「あんなものをご覧になってたんですか、勇者様」




