俺みたいなとりえのない奴にとって都民であることは唯一のプライド
「アルくんたちは異世界から来たんだよね?」
昼間、しゃべったときに、俺やデネブが日本から転生してきたことは話しておいた。仲間として事情は共有していたほうがやりやすそうなのもあったが、実はソアラも日本から来たんじゃないかとの予想もあった。勇者パーティーは全員、転生者なのではと。
見当は外れ、ソアラはアンティクトンの住人だった。
森の奥深く、エルフの村でひっそりと暮らしていたそうだが、あの神のじじいの啓示を受け旅に出たという。
「ああ、東京ってとこ。あ、言っとくけど村でも田舎でもねーから!」
「そうなんだ。やけに強調するね、そこ」
「何度、田舎者呼ばわりされたかわからないからな」
都民にとってはアイデンティティーに関わる最重要事項。特に俺みたくなんのとりえもない奴は、なけなしのプライドのよりどころだかんな。
「魔王を倒さないと、そのトーキョーって街に帰れないんだっけ」
「なんか知らねーけど神の野郎に使命を押しつけられた。こんな、低スペックっていうか、ありえないほど超絶低ステータスで。なんの縛りプレイだよ」
「ふふっ。パラメーターがHPまで含めて全部一なんだもん。最初、勇者さんじゃなくて『勇著』とか『湧者』みたいなまがいものかと思っちゃった」
どこかで見たようなまぎらわしい名称だな。聖剣ラグナロクだかなんだかの段ボールのやつ。
「ソアラはなんで【勇者の使徒】をやってるの? 断れないわけでも?」
こっちの世界の住人なら、俺たちのように日本への帰還をかけられることもないはずだが。
「私は森の外に出てみたかったから」
ソアラは長い金の束を指にからませてはにかむ。
「一族の掟で村を、特に森を出ることは禁じられてるんだけど、私たちみたいに若い子は外の世界に興味しんしんなんだよね。ないしょで人間の街を見にいったり。だから神様のお告げは願ったりかなったりだったわけ」
屈託なく破顔する様子は十代前半そのもの。これで俺の歳の倍だってんだからわかんねーよな。




