2話 一筋の光
僕の名前は守田孝助。
19歳の大学2年生だ。
僕は平凡な能力ではあるが、他の人と違う部分が1つある。
それは、孤独に生きている、という事だ。
僕の家族、両親と妹は僕が高校2年だった夏休みに交通事故でこの世から去った。
ぶつかったのは運転手が居眠り運転をしていた大型トラックらしい。
あまりの衝撃で車は大破し、3人ともほぼ即死だったと聞いている。
また、このトラックの運転手は裁判で実刑判決を受けたが、正直僕はこの男に死んで欲しいとも一生を掛けて罪を償って欲しいとも思わなかった。
思うのはただ1つ、家族を返して欲しいということだけだった。
僕はこの事件以来、1人暮らしを始めた。
元々住んでいた一軒家は1人で住むには大き過ぎたのですぐに売って、家賃の安いアパートに引っ越した。
家族の遺品は持っておきたいと思えなかったため、親戚に譲っている。
今家にある家族関係の品は仏壇とそこに置いてある家族写真くらいだ。
家族が亡くなってすぐは家事を手伝ったりしていた親戚も僕が嫌がる雰囲気を出していると来なくなった。
この親戚は家族の葬儀で特に出費もせず、手伝いも適当だったため正直僕はこの人達を嫌っているまである。
また、事故の事が周りに知られるようになると、部活に居づらくなり、部活をやめた。
前は普通に話していた友達も僕がどこか影を持つようになったのを察したのか、あまり話しかけてこなくなった。
高校3年に入る頃には学校に行きづらくなり、通うのをやめた。ただ、大学には入りたかったため、担任だった先生にはいくらかお世話になった。
そして、簡単に入れる授業料の安い地方の国公立大学への合格を手に入れて、僕は慣れ親しんだ土地を捨てて辺境の地で暮らし始めた。
大学では特に過去の事を話したりはしなかったが、僕の雰囲気が暗いのを察したのか特に仲のいい友達はできなかった。
どうやら人というのは相手の空気を思ってるよりも敏感に感じ取るみたいだ。
こんなに恵まれない生活をしてきたのに、僕は自殺しようと思ったことはなかった。
ただ単に自分が死ぬのが怖いのか、家族が喜ばないと思ったのか、若しくは、暗く下を向いて歩もうとしても心のどこかで明るい光を探して上を向こうとする人間の性なのかもしれない。
何にせよ僕は事故から3年と少したった今でも普通に生きている。
単位を落とさないように授業を受け、お金を稼ぐためにバイトをして、何か特別な事をするわけでもなく平凡に生きている。
そんな僕にも神様がさすがに可愛そうだと思ったのか、一筋の光が差し込んだのだ。
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その日もバイトを終えて、明日の朝食のためにコンビニで食材を買って帰るところだった。
僕の住むアパートから家までは歩いても行ける距離ではあるが、途中に大きな公園がある。
舗装された道を行くと少し遠回りする事になるので、普段から公園の中を通っていた。
この日はたまたまバイトが伸びて夜の11時を過ぎるくらいになっていた。
特にやりたい事もないので早く帰って風呂に入って寝ようと考えてた僕の目に不思議な生物が映った。
それは、虹色に輝く蝶だった。
僕は決して虫に詳しいわけではないが、一目見てその蝶は美しいと思った。
平凡に慣れていた生活だったため、久々にみる美しいものに僕は興味を惹かれた。
近くで見たいと思って蝶に近付いていくと、近付くほどに蝶の輝きは増しているように感じた。
その蝶は近くで見れば見るほど美しかった。
羽に彩られた7色の模様は互いを引き立てるように散らばっていた。
僕はその蝶に触れたいと思った。
何を思ったのかは分からないが、その美しいものを少しでも身近に感じたかった。
そして、蝶に指が触れると触れた部分から眩い光が溢れ、僕の事を包み込んだ。
そして、光が収まった時、その場にはいくつかの食材が入ったコンビニの袋だけが残った。