emotion open
刃は通らなかった。火花が散り、ベクトルが入れ替わる。虚空に浮いた刃が見えた。
上半身を撃ち抜かれ、地面に倒れる。そして、視界に奴の刃が入ってきた。
怖くは、なかった。ただ、その軌跡がスローモーションに見えていただけだった。
ふいに、彼女の笑顔が視界に写った。何故かはわからない。
だが、その純粋な世界にはまだ希望があるというかのようなその笑顔を見て、俺は――
「evolve system release:emotion open」
その文字を見、そして――
――もう助からないと絶望し。
――しかしその瞬間、自分の体から刃が形成されているのを見た。
――一瞬視界に部屋のようなものが写り、そして消えた。
「はあああッ!」
まるで、動物が外敵に威嚇するかのような雄叫びだった。
そして少年はその敵に向けて刃を突き立てた。
いや、突き立てようとした。
「……!? なんで……! ッ!?」
食い込むはずの刃は、しかし敵に当たらなかった。
その刃は途中から消えていた。そう。始めからなかったかのように消えていたのだ。
そして、当然のことながらその敵はただの的ではない。
刃が、少年の体を貫いた。
「がぼっ……!? く、そ、こんなとこ、ろで……!」
少年の目が歪む。色を失い、その眼球に世界は写っていなかった。
彼の象徴ともいえるロングソードが地面に落ち、そして霧となって消える。
彼に見えているのは、どことなく見覚えのある、しかし見たことのないはずの部屋だった。
血が地面に池のように溢れ出る。
普通の人間ならあきらめただろう。
普通、なら。こんな多量出血状態から復活できるはずもない。
そして幸運なことに、その目の前の敵は、少年が生きているということを知らない。
故に。
「avalanche system has recovered:system relord」
霧となっていたはずのロングソードが実態を持ち、血は武装となる。
そして少年の目に色が戻り。
刃を掴んだ。
もし、彼の目の前にいる兵器が人間であったなら。
それは間違いなく恐れたはずだ。
しかし、それは理解できなかった。
そして少年はこの敵が、自分を理解していないということを、理解していた。
「チェックメイト」
まるで、この展開を想像していたかのように、そう宣言する。
事実それはチェックメイトだった。
その敵はコアを破壊され、機能を停止させた。
しかし。
それで終わりではなかった。
無数のパンドラが、彼らを囲んでいた。
「ッ……!」
さすがに彼と言えど、今よりもましなコンディションで戦わねば死が待っている量だった。
自分の命を賭してこの街を守るか。
それともこの街を見捨て、体勢を整えてから救いに来るか。
その二択だ。
しかし実際は一択だろう。
そう彼は思っていた。なぜなら。パンドラは恐らく全世界に存在しているのだから。
ここだけ守る意味もなく。さらに言えば自分が死ねば、誰も戦えない。
だから。
「一度帰投する!」
そう叫び、スラスターを吹かし撤退を開始した。
その後、避難シェルターに入っていた市民がどうなったかは、誰も知ることができなかった。
そう、誰も、だ。
その中にはもちろん、彼と彼女、そして――オリジンも含まれている。
フィリピンで書いてます。暑いです。気温差30度ってw
頑張ります。英語しか話してない。うへえ。