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Reversal!貞操逆転世界の男子学生  作者: 鷺城
逆転世界の日々 Ⅰ
4/16

Re:04 天然系ビッチくん




ぼんやりとテレビを見ながら、スマホを見つめる。


そこには友人からのメッセージ、今日は学校でこんなことがった、あんなことがった。



【レイナがいつ戻ってきても良いように、ノートばっちし書いとくからネ!】

【そりゃたのもしーな。】



楽しそうに報告してくる、スマホ越しに無邪気に笑う友人の姿を思い浮かべ、笑みが漏れる。



「っと、もうこんな時間かよ。」



気づけば時刻は夕暮れ時を示している。


一日中、家にいると時間が過ぎてゆくのが早い。


夕飯は何にしようか、と思い冷蔵庫を開ける。



「うっわ…。そっか最近買い出し行ってねぇからなぁ…。」



冷蔵庫の中身は寂しいもので、調味料が僅かにある程度、空っぽと言って良い状態だった。



「ま、気晴らしに外に出るのも悪くねぇか…。」



髪をとかし、かけてあるジャケットを羽織る。



「行ってきます。」



返事なんて返ってこないのに癖で口を出た言葉が虚しく響く、鍵を締めて自宅を後にした。














近場のスーパーに向かう途中、視界の端に映った光景に足が止まった。



「いいじゃん、いこーよ、たのしいとこ連れてってあげっからさぁ。」


「やば、この子イケてんじゃん、…最初、もらって良い?」


「はぁ?ざっけんな、つぎはウチっつったろが。」



柄の悪い奴が三人、一人の男の子に絡んでいる。



「見ちまったからにゃ放っておけない、か。」



遠目からでも男の子が迷惑そうにしてるのが見て取れたし、ああいう連中はそう簡単に引き下がりはしない。


男の子一人でどうにか出来る状況ではないのは明らかだった。


本当はおとなしくしてたほうが利口なんだろうけど、ここで見過ごせるほど、あたしは器用な女ではないだ。



「いい加減にしなよ、その子、嫌がってるだろ?」













時計の秒針が動く音が響く。


どうしてこうなった?


あ…ありのまま、今、起きていることを話すぜ!


男の子を助けたと思ったら、いつの間にか、お持ち帰りされちまった!


な…、何を言っているのか、わからねぇと思うが、あたしもなんでこうなったのかわからねぇ!


どどど、どうすんだおい!


お、男の子の家なんて入ったことねぇぞ!?親は!?ご両親はいねぇのか!?


まさかそんな二人っきりなわけが…



「あ、俺の家、父親も母親も海外で、今は俺一人で暮らしてるんです。だから気を使わずにくつろいじゃってください。」



な、なんだってぇーーーーーーーーー!?


ご両親は海外ぃ!?今は家にいないぃ!?つまりは、あ、あたしと、この子の、ふふふ、ふたりっきり…?



「どうかしましたか?」

「い、いや、別にっ。」



どうかしましたかじゃねぇよ!?どうかしちまいそうなんだよ!?


何なのこの子!?あたしは女だぞ!?


この子には危機感ってもんがねぇのか、もっとこうなんだあるじゃねぇか、手を繋いでからとかお互いをよく知ってからとかそういうのは!?



「?」

「は、はは…。」



だーめだ、そういうのないわ。


なんなんだよ、そんなハムスターみたいな可愛い目で、純真な目で、あたしを見ないでくれぇっ!



「消毒しますね、ちょっと染みるかもしれないですけど…。」

「かまわねぇ、ガッツリとやってくれ!」


「は、はぁ。わかりました。」



痛っ、こういう痛みも久しぶりだな。



「ご、ごめんなさい。痛かったですよね?」

「いや、平気だよこんくらいは。」



間近で見るとアイツらに絡まれたのも分かるなぁ、可愛い顔してるし、小動物みたいな雰囲気だし。


放っておけないというか、なんというか…。


抱きしめたら折れちゃいそうだけど、抱きしめたくなっちゃうというか…。


良い匂いするなぁ、男の子ってみんなこうなのかなぁ。



「よし、出来ました。」

「お、おう。さんきゅ。」


「お礼を言うのは俺の方ですよ、助けていただいて本当に助かりました。」

「そんな、あぁするのは、その、当たり前のことで、べ、別に礼を言われるようなことじゃ。」


「それでもです、こうして怪我までして、護ってもらって…俺、男、なのに…。」

「女が男を護るのは当たり前だろ。」


「え?」

「あん?」



鳩が豆鉄砲を食ったような表情になった彼、そして力なく項垂れてしまった。


あたし、何か変なこと言っちまったか?



「そ、そうですよね?当たり前、ですよねぇ。」

「お、おう。」



何だか一気に元気が無くなっちまったみたいだけど、大丈夫か?


…なんかこの子あれだな、いわゆる世間知らずってやつなのかもしれねぇ。


ここはひとつ、釘を刺しておいたほうが良いのかもしれねぇな。



「あのなぁ、キミは男の子で、あたしは女だ。わかるよな?」

「はい。」


「怪我の治療のためとはいえ、見ず知らずの女を自分の家に招き入れるってのは正直どうかと思うぞ?」

「あ、そ、そうですね、俺ってばナンパみたいなことしちゃって…。失礼でしたよね、すいません。」


「は?」

「え?」



…ナンパ?いやそういうことを言ってるんじゃねぇって。



「よし、良いかもう一度言うぞ、キミは男で、あたしは女だ。」

「はい。」


「キミはもうちょっと危機感っていうか警戒心というものを持ったほうが良いと思うぞ。」

「は、はぁ。危機感?警戒心ですか?」













危機感…?それに警戒心か…?


お姉さんの手の治療を終え、俺達は向かい合って話をしていた。


その流れでこんな話になったのだが、なんだか会話が噛み合っていない気がする。


たしかに、治療のためとはいえ、女性を自宅に、なんてまるでチャラい大学生のナンパの手口みたいだと、自分でも思うが。


俺に危機感を持て、か…。


今日のアレは完全にイレギュラーだったと思うし、そう何度もあることじゃないだろう。


危機感…、警戒心か。


でも俺は男で…。


ん、【男】?


あぁ…気づいてしまった。


お姉さんが何を言いたいのか、何を伝えたかったのか。


そうか、そうだよ。


なんで気づかなかった、いやまぁそれは色々あって忘れてたんだけどさ!


これはあれだ、男女逆に置き換えたらとんでもないことだ。



『あの、俺の家、来ませんか?近いので。』



完全に誘ってるやんけ。



『あ、俺の家、父親も母親も海外で、今は俺一人で暮らしてるんです。だから気を使わずにくつろいじゃってください。』



くつろいじゃってください。じゃねぇよ!


これあれだ、捉え方次第ではオッケーサイン出しちゃってるわ!三塁コーチャー全力で腕回しちゃってるわ!


天然ビッチちゃんか!?


あぁあぁぁやっべぇなんか急に恥ずかしくなってきたっ。



「あ、あのあの、俺、そんなつもりで、家に、誘ったわけでは、なくて、ですねっ!?」

「わ、わかってるから、キミが、その、そういうつもりじゃなかったことはちゃんとわかってるから!」



ふたりしてわたわたしてしまう、俺とお姉さん。



「どぅわっ!?」

「え、ちょ、きゃあっ」



ソファの上だったからか、バランスを崩して倒れこんでしまう。


お姉さんはそんな俺を支えようとして、結果としてふたりして倒れ込み…。



「…あ、あの。す、すいません。」

「い、いや、別に、だいじょうぶ、だけど…。」



まるで俺がお姉さんを押し倒してしまったかのような状況に。


急いで退いたほうが良いに決まってるんだけど。



「「…。」」



俺の目の前にいる女の人は綺麗で、潤んだ蒼い瞳、俺を見つめるその双眸に吸い込まれてしまいそうで。


上気して見える首筋は異様な色気を放ち、金色の美しい長髪からは鼻腔を擽るような甘い香りがする。


胸の奥は五月蝿いほどに鼓動を響かせ、息は苦しく切ない、どうにかしなくちゃいけないのに、身体は硬直して言うことを聞いてくれない。



「あ、の、おれ…。」



お姉さんが声に出さず、口の動きだけで言葉を紡ぐ。




しょうがねぇよ




何がしょうがねぇんだ、それってそういう意味なのか、え、おい、マジか、こんな、こんな綺麗な人と俺は!



「お、おねえさ」



意を決して俺が動き出そうとしたとき、テーブルに置いていたスマホが鳴り、震えるバイブの音が響いた。



「は、はは…。」

「ふっ。」



一気に気が抜けた、身体を起こしてスマホを見ると表示されていたのは、父親の名前。


まったく、タイミングが良いのか悪いのか。



「すいません、親父からなんで電話しますね。」

「じゃあ、あたしはそろそろ帰るわ、手、ありがとな。」


「先まで行きますよ。」

「ん、さんきゅ。」



スマホ片手にお姉さんの見送りに外へ出る。


すっかり夜に染まった空の下、互いに言葉はなかった。



「ここまでで良いよ、あんまり家から離れるのも危ないしな。」

「わかりました。」


「じゃあな。」

「あの、…お名前、伺っても良いですか?」


「風見、風見レイナだ。」

「俺は新山良です、レイナさん、今日はありがとうございました。」



おう、と右手をあげるとレイナさんはニカッと笑い、俺に背を向け去ってゆく。


彼女の姿が見えなくなったのを確認すると、俺はスマホを操作し、着信のあった父親に折り返しの電話をかけた。



「…もしもし、父さん。どうしたの?」



世界がアベコベになってしまって、慣れないことばかりで、正直しんどかったけれど。


見上げた星空だけは、この逆転した世界でも変わらないまま、俺を照らし続けている。



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