Re:14 友であるが故に
※今回主人公は出てきません。良ェ…。
「元気そうだね、レイナ。」
「は、はは…、おまえもな、詩月。」
顔を合わせたくない、嫌なヤツに会ってしまった。
廊下で偶然にも出会したこいつの名前は、沢北 詩月。(さわきた しづき)
物心つく頃からのご近所さんで、小さい頃はうちの道場で一緒に稽古した仲だった。
『わたしたち、しんゆーだよねっ!れーな!』
『うんっ!しずとあたしはしんゆーだ!』
『うさぎも、うさぎも!おねえちゃんたちとしんゆーになるのっ!』
『じゃあさんにんでしんゆーだ!』
あたしと、詩月と、羽野、三人で一緒に遊んで、三人一緒に喧嘩して、三人一緒に怒られて、三人一緒に泣いて…そんな幼少期をともに過ごした。
所謂、幼馴染の腐れ縁。
あたしと詩月は同学年で、小さな頃から友達で好敵手。
拳法の大会では二人で表彰台を競った、まぁあたしのほうが一位になることが多かったけどね。
真面目で基本に忠実な詩月は母さんのお気に入りで、それに比べ破天荒で出鱈目なあたしは詩月を見習えってよく怒られてた。
何をするのも一緒、あたしたちは並び歩いて、羽野、いや、うさぎがそのあとをついてくるという関係がずっと続いていく。
あの時が訪れるまでは、そう思ってた。
「レイナ、黒田先生は鎖骨と肋骨の骨折、それに加え全身の打撲、生徒から暴力を受けたショックからか今後、他校に移られても競技指導者として歩むつもりはないそうだ。」
そうか、それは良かった。
「へぇ、そりゃけっこうなことじゃないか。」
「っ、おまえなぁっ!」
詩月に胸ぐらを掴まれる、異様な空気を感じたのか周囲にギャラリーが増えてくる。
「…っ、不真面目で面倒臭がりな奴だけど、拳法には真摯な奴だと思ってたのに…まさか、師匠にならった拳を暴力に使うようなやつだったなんて。」
「母さんは関係ねぇよ、あたしがあの女にムカついたからシメてやった、ただそれだけのことだ。」
「それだけ…?それだけだって!?レイナ、おまえ、たったそれだけで、あの時にした誓いを、おまえは!師匠みたいになるって三人で」
「…ガキの頃のことだろう、覚えてるなんて真面目なおまえらしいな。」
「レイナっ、わたしはっ」
「いい加減離せよ、皆見てる。」
知ってるよ、詩月もうさぎも、あの時の約束を胸に頑張ってた、なんてことは。
ただ、その目指す約束の先に、あたしが行けなくなっただけのことだ。
そうこうしているうちに、教師がこちらに向かって駆け寄ってくるのが見えた。
停学が明けたばかりのあたしが、さすがに今回のような騒ぎを起こしたとバレるのはまずい。
現場を押さえられる前に逃げるが吉だろうな。
「じゃあな、詩月。」
「待てっ!レイナ!」
静止する詩月の声を無視して、あたしは全力疾走でその場から逃げる、僅かに振り返って覗き見た先では詩月が教師と応対している様子が見えた。
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「沢北、風見とモメてるという報告を受けたが、一体どういうことだ?」
「なんでもありません、服装を注意して少し、口論になっただけです。」
「口論、か。本人同士で解決はしてるのか?」
「はい。」
「そうか、まぁなんだ、風紀委員のおまえが風見を注意するのは構わないが、だが風見はだな…。」
「ご心配して頂き有難うございます、ですが彼女もまたこの学園の生徒ですので、目の前での非行を見過ごすわけにはいきません。」
「そうか、だがな、まぁその、ほどほどにな?」
「はい、以後は騒ぎにならぬよう気をつけます。申し訳ありませんでした。」
頭を下げ、立ち去る教師を見送ったあと、わたしは彼女が走り去った方向を見る。
当然ながらそこに彼女の姿は無い。
風見レイナ、わたしの幼馴染で親友だった女。
学園に入り、わたしはスカウトを受け、隣町の道場に通うことになって学園の拳法部で活動はしていなかったが、それでもレイナの活躍は当然ながら目にしてきた。
一年生でありながら個人戦で全国大会優勝、団体戦でも全国大会進出へと導く奮闘ぶり。
友として彼女の活躍は誇らしく、きっと幼い日の約束通りの未来がやってくると信じていた。
だが、あの日、わたしは信じられないものを見てしまった。
二年に進学して暫く経った頃、わたしは風紀委員室にて書類を整理していた。
そんな中、ひとりの生徒が部屋に飛び入ってきた、尋常ではない自体が起きているのは彼女の様子から見て取れた。
拳法部の生徒が教師と喧嘩になっている、一方的な状態であり、誰も彼女を止められない。
報を受けたわたしはざわつく胸を抑えながら現場に向かう、稽古場に入って見た光景は、決して見たくはなかったものだった。
『これは…どういうことだ、レイナ…?』
『詩月、なんだよ、来ちまったのか。』
『詩月お姉ちゃん、違うのこれはっ!』
『先生、しっかり、おい誰か、救急車!急げ!』
『風見…。その…。』
『逃げねぇよ。説明しなきゃならねぇんだろ。』
『すまない。』
『部長のおまえが謝るなよ、めちゃくちゃにしたのはあたしだ。』
血を流して倒れていたのは拳法部の顧問の教師、そして血まみれで立っていた親友と、パニックになっている妹分、悲鳴と喧騒が支配した空間、あまりにも衝撃が大きい状況を見て、わたしは現実であるとは信じられなかった。
担架に乗せられ運ばれてゆく教師、そして教師たちに囲まれて稽古場を去ってゆく親友の姿。
わたしは教師の輪に割って入り、親友に掴みかかった。
酷く感情的な行動だった、冷静ではいられなかった。
だからこそ、口を突いて出た言葉は、選択を間違えたものだった。
『どういうことだレイナっ!?おまえが、おまえが黒田先生をやったのか!?おまえが暴力をふるったのか!?どうなんだ、こたえろレイナぁっ!!』
目を見開く彼女の表情を見て、早まってしまったと思った。
あの時、わたしは彼女を信じて待つべきだった。
だが疑ってしまった、状況に流され、彼女にすべての責任があると思いこんでしまった。
否定して欲しかった、開かれた口から紡がれるのは弁解の言葉であって欲しかった。
だが、聞こえてきたのは、その望みを打ち砕くものだった。
『あぁ、そうだよ、あたしがやった。あたしが殴った。』
『…っ、そんなっ…。』
言葉が出なかった。
その後は、ただ見送ることしか出来なかった。
『詩月、お姉ちゃん、ごめ、ごめんなさいっ。』
『うさ、ぎ…?』
何もわからなかった、なぜレイナがあんなことをしたのか、なぜうさぎがわたしに縋り付き泣いているのか、なぜわたしはここに来たのか。
なぜ、こんなことになったのか。
わたしはただ、おまえの口から真実が聞きたかった。
あのときも、そして、今でも。
「おかしい、こんなことは許されない。」
「作者がシリアスで行きたいって判断したんだから仕方ないよ
。」
「俺にだってシリアスな空気は出せるぞ!」
「ぇ~、ほんとに出来るの?良がぁ?」
「出来らぁっ!」
「…やっぱ無理っぽくない?」