Re:12.5 友と過ごす放課後
ある日の放課後、あたしは梨花と一緒に、学園から程近くに位置する駅前通りに来ていた。
停学を喰らう前の自分にとって放課後は部活動の時間帯だったから、こういった友人と過ごす時間というのは新鮮で楽しい。
梨花との時間は何も考えなくていいし、馬鹿みたいな話をしながらの買い物や買い食い、色々なことを忘れることが出来る貴重な時間。
「あ、これなんてレイナに似合うんじゃない?パンキッシュで格好いい感じでさ!」
「えー…、あたしこういうのは趣味じゃねぇんだけどなぁ。」
「良いから着てみてってほら!」
「わかったよ、着るだけだからな…。ったく。」
梨花から服を受け取り試着室へ向かう。
ちょうど半開きのカーテンを開けて中に入ろうとしたときだった、隣の試着室のカーテンが開いて、中から誰かが出てきた。
「羽野…?」
「え、風見、先輩…?」
小柄で華奢な身体、パッチリとした目に小さな花びらのような唇、ふわふわな髪、可愛らしい容姿はまるで小動物のようで、彼女の周囲には目には見えない花畑が見える。
羽野 うさぎ、一学年下の二年生であたしが停学を喰らう前は、部活で一緒だった後輩。
「お久しぶりです、先輩。」
「お久しぶりです、じゃねぇだろ。羽野、おまえ、部活はどうした?」
「あう、その、今は、おやすみしてまして…。」
「休み?…まさかまだあいつらに」
「ち、違いますよっ!先輩がその、言ってくれてからはそういうのはないので、大丈夫です。」
「そうか。ならどうしてこんなとこにいるんだ?」
「今日はこの後、両親と約束がありまして、それで部活はおやすみをもらって、今は時間つぶしと言いますか…。」
「…そか、まぁそういうことなら良いんだ、引き留めて済まなかったな。」
申し訳無さそうにしている羽野に背を向け、あたしは試着室に入ろうとした。
「あの、先輩。…先生、異動されて、今は、誰も先輩を悪く言う人はいません、ですから、その…。」
「羽野。」
「は、はいっ。」
「あたしはもう、あそこには戻れない。それはおまえが一番分かってるはずだろ?」
「で、でもっ」
「話はそれだけか?悪いけどツレを待たせてるんだ、おまえも貴重な休みなんだろ?よけいなことで時間を無駄にするのは勿体ないぞ、じゃあな。」
背を向けたまま、彼女の言葉を手で払うように拒絶し、無碍に扱う。
もうあたしには関係のないこと、たまたま懐かしい顔に会ったから声をかけてしまっただけで、気にすることではない。
俯き、震える姿、一瞬だけ見えた後輩の姿に不安が宿る。
それでも、自分には関係ない、自分は二度と彼女に関わってはいけないのだと言い聞かせ続けた。
暫しの後、試着室のカーテンを開ける。
羽野の姿はどこにもなく、代わりに微妙な表情を浮かべた友人が立っていた。
「さっきの後輩ちゃんだよね…?落ち込んじゃってたみたいだけど…。なんかあったの?」
「何もない、ただ挨拶しただけだよ。」
本当は梨花も挨拶しただけではないとわかってるだろう、だけどそれ以上は追求してこない友人に心の中で感謝を述べ、詫びの意味も込めて試着した服を手に会計へと向かった。
▼
「おまたせ致しました、スペシャルチョモランマキャラメルプリンパフェでございます、ごゆっくりどうぞ。」
「ありがとうございます、きたきた、やっぱこれだよなぁ。」
目の前に置かれたものに、俺は驚愕を隠せなかった。
パフェ用の容器に敷き詰められたフルーツとクリーム、そしてスコーンの上には我此処に在り、と主張するドデカイプリン。さらにダメ押しとばかりにプリンには生クリームの山が盛られ、その頂点にはチェリーが乗せられている。
彰人、おまえ、マジでこれを食うのか…?
おまえほら、コンビニの肉まん好きだったじゃねぇか、マ○クのダブルチーズバーガーが大好物だったろ?ジャンクこそ至高!とか言ってたじゃねぇか!?まぁある意味そのプリン山もジャンクだけどな。
だが、だがな…!友よ…!俺は、俺はおまえが甘味に酔う姿など見たくないっ…!見たくはないのだっ…!
「んまぁ~い♪もうさいっこうにうまいわぁ♪」
「」
とろけてやがる。遅すぎたんだ。
っていうか何だよ此処!?やけにファンシーな内装なのはまだ良いよ!?でもさぁ!?
「美味しいね~♪」
「だよねだよね!?マジウマだよね!?」
「ってかこの前ママがねぇ」
「え~マジなんなんそれ~ありえなくない?」
「ほっぺにクリームがついてるぞ、まったくだらしのないやつめ…。」
「ぶ、部長っ///」
男しかいねぇ…!
待てよ、この世界ってほら男子は少ないはずだろ!?
なんで、どこから群れてきたんだこいつらは!?めっさいるじゃねぇか雄どもが!
タイが曲がっていてよ、みたなノリでいちゃついてんじゃねぇよ!おっさんずラブなんて見たくないんじゃ俺は!
「どうした良、食わないのか?美味いぞ?」
「は、はは…。」
乾いた笑いが漏れる、だがせっかく彰人が奢ってくれたパフェだ、無下にするのも無礼というものだろう。
「っぐ…!」
「どうだ、美味いだろぉ~?」
なんという………!
圧倒的っ………!圧倒的なまでのっ………!
これは甘味の暴力………!
口内を支配する、濃厚な甘味はまさに侵略者の如く………!
目眩がする衝撃、脳内が馬鹿になりそうな濃い香り、舌の感覚を奪う食感は暴力的なまるで濁流!
何を言ってるのかわからないだって?
馬鹿野郎!俺だって何を食わされてるのかも分からねぇよ!
何なの!?何なのなのっ!?
しかし………!未だ、一口………!一口で、この衝撃………!
いや、もうこのノリは良いか。
「イケるだろ~?もうさいっこうだよな♪」
「ぁぁ…。」
逝けそうだな。
これを全部食ったら確実に向こう側への距離が一気に縮まるような気がするわ。
うん、逝ける逝ける。
逝けるゾ~これ。
食うたびに失われる語弊力。
あぁ^~頭がぴょんぴょんするんじゃぁ^~。
いや、頭ぴょんぴょんしたらダメだろ、それドラッグの世界だろ。
なんとかスペシャルチョモランマキャラメルプリンパフェという暴虐的な甘味を完食した俺は、その後、彰人からの言葉すべてに「ぁぁ…。」としか返せなかった。
時々、「総員、戦闘準備。」とか口走って友人の頭上に大量の「?」が浮かんだりしたが何も問題はない。
問題は無かった、良いね?
…あのパフェ、なんかやばいもんでも入ってたんじゃねぇのか?
「良。」
「ぁぁ…。」
「世の中には、知らないほうが良いことも、あるんだぜ?」
「ぁぁ…。」
今日も順調に世界はどこかおかしく回り続けている。




