帰宅⇒大学
『助けていただきありがとうございます。』
えらくはっきり、黒猫の言っていることがわかる。
普通ならここまではっきりと自我を示すものでもないんだが、それを平然と受けとめている自分がいる。
「いや、俺はただあそこに居ただけで何もしていないぞ。」
『いえ。こうやって匿っていただいているだけでじゅぶん助かっております。』
『申し遅れました。私、エレム という名をマスターより賜っております。またこちらの方は フェア様といい、マスターの伴侶にございます。』
『エレム』『フェア』
俺はその名を聞いて愕然とした。夢に出てきた名前だ。
が、語彙は覚えているが顔が思い出せない。夢の中では、はっきり視認していたつもりだったんだが。が少なくとも『エレム』は黒猫じゃなかったはずだ。
『どうかなされました?』
エレムの声に現実に戻される。
「いや。何でもない。俺は大蔵篤也という。皆からは『トクさん』と呼ばれている。」
『ではトク様。改めてお願いします。このフェア様を数日、匿ってはもらえぬでしょうか。実をいうと宇宙艇が故障し脱出の際にマスターと逸れてしまったのです。』
?
夢と違う?
「故障」は攻撃を受けて「故障」したのだからあながち間違っていないだろうが、マスターは死んだんじゃないのか?
いや。そのマスターのセリフ
『何、俺は死なんサ。王族の能力、知っているだろ。…』
転生しているってことか?
しかし、それだと数日で済まない気がするが。
あくまでも夢の話だ。
「で、その数日の根拠は? あの怪しい一団の様子からすると只ならん状況だと思うが。本当は『故障』ではなく撃墜の間違いじゃないのか?」
エレムは驚きの表情をしていた。
黒猫顔でその顔は可愛いだけだが。
『トク様に嘘はつけませんね。お話しします。マスターは、ある星国の王子にございます。ただ、マスターに王位を継ぐ気はなく、継承権を蹴って国を飛び出したのでございます。しかしながら今後、王位を脅かすのではないかと疑心暗鬼になる一派に攻撃を受けこの地に不時着した次第にございます。』
う~ん。夢そっくり。
『しかしながら、撃墜直前に王族のみ使用できるホットラインにて事のあらましを現国王に送信しましたので、時期にその一派を粛正できるものと推測されます。』
「現国王って信用できるの。これって国王の差し金では?」
『現国王は主の弟君で御座います。私はマスターが幼少の頃より仕えてきましたので弟君のこともよく存じ上げております。そんなことは絶対に御座いません。』
『絶対』って言葉を使うのは『絶対』に信用できないんだが…
ますます夢そっくりだ。
『また、多数のデコイもばらまきましたので、こちらにたどり着くのも数日かかるものと推測できます。』
その星の人間特有の波長があり彼女も発しているとのことだが、現在はその波長を模した機械を墜落直前にばらまいたということだ。
『現在は私が、フェア様の波長を隠すように逆位相をかけてますので簡単には見つからないはずです。』
匿うだけならいいのだが、バトってしまうことは避けたい。
こちとら、某戦闘民族でも懐中怪獣マスターでもない、ただのパンピーなのだから。
「匿うだけならいいが、彼女はいつ目覚めるんだ? 俺はこれから大学に行かなければならんのだが?」
『匿っていただくだけで結構です。鍵をかけていただいて居れば、たとえ奴らに見つかろうとも、不法侵入するような真似は致さないでしょう。フェア様が目覚められてもここでおとなしく待っています。』
まぁ、家に連れて来ておいて追い出すわけにもいかんだろう。
エレムをよく見る。
猫とは思えない意識は持っているがどう見ても『猫』だ。
彼には、出汁じゃこと水でいいだろう。あ、クッキーもあったな。皿に出しておこう。
「食べ物は冷蔵庫や戸棚にあるから自由にしていい。じゃあ、行ってきます。」
『いってらっしゃいませ。トク様』
...........
『こんなにも早く再開できるとは…。マスタートク。あなたは未来をも見えていたのでしょうか?』