保護⇒帰宅
「ポチ。お座り!待て!」
『ハ~ム♡ハ~ム♡いっぽんハ~ム♡』
ポチは、下宿玄関先で律儀にお座りしながら待っている。
頭がハムでいっぱいだから、リードを繋いでおかなくても、どこか行くことはないだろう。
とりあえず彼女をベッドに寝かせてっと。
「えーと。あいつに食わせても良さそうなハムは………う~ん、ローストビーフしかないか。他は塩分高そうだし…」
俺は泣く泣くローストビーフを取り出しまな板に乗せる。
パックから取り出し、表面の香辛料のしみ込んだ部分を包丁でこそげ取る。
玄関のポチを見ると、尻尾が残像も残さない勢いで振り切れて、口からは涎だらだらである。
犬小屋にリードをつなぐと、ちゃんとお座りしながらそわそわと右足を上げようとしている。
…
おあずけするのもよくないな。
「お手」
『ハムハムハム♡』意識はハムに向かいながらも右足を手に乗せてくる。
「お代わり」
『ハムハムハム♡』意識はハムに向かいながらも今度は左足だ。
「お手」
『ハムハムハム♡』意識はハムに向かいながらも次に右足を出してくる。
「お手」
『ハムハムハム♡』意識はハムに向かいながら思わず左足を出しかけて『あっ間違えた』と右足を出す。
「良し。食っていいぞ」とローストビーフをトレーに乗せると
『うまうま!ハムハム!』
と、一心不乱に食い始めた。
心行くまで噛みごたえを堪能してくれ。
俺の躾がよかったのか、俺の言うことはちゃんと聞くいい犬だ。
が、大家さんの言うことはあまり聞かないらしい。
やはり、初対面で肉体言語を使ったのが効いたのだろうか?
それはともかく、彼女の処遇についてだ。
部屋に行くと彼女の傍にあの黒猫が座っていた。




