エレムの独白
「警告!警告! 緊急事態によコールドスリープの解凍を行う」
私は、突然の攻撃に警報を発した。
今、船内には誰もこの警報を聞くものはいないのだが仕様なので仕方がない。
現段階で事態解決の判断権限が私にはないので緊急にマスターの指示を仰ぐ必要がある。
全身解凍は時間がかかるが意識解凍のみならば数分で終わる。
私は、感応回路を準備し、マスターの覚醒を待った。
『エレム。なにがあった?』
{何者かの攻撃を受け、当船はγ星への墜落コースを取っています。軌道回復不能。さらに、当攻撃によりマスターのカプセル排出装置も破損。コールドスリープ解凍後の脱出艇への避難も時間的に不可能。}
私は絶望的な状況を告げた。
『フェアの意識解凍は?』
{フェア様のカプセルは意識解凍回路が破損しております。全身解凍は可能なのですが…}
『…』
少しの沈黙
『私からの最後の命令だ。フェアの全身解凍を開始せよ。エレムはその後、船体制御回路を俺につなげてフェアのカプセルへ乗り込め』
フェア様の解凍作業を行いながら
{マスターはそれでどうなさるおつもりで?}
どう頑張ってもマスターの命は助からないことになる。
私の存在意義はマスターの命を守ること。マスターの命令を聞くこと。である。
仕様であるから、慇懃な発言となっているが、内心、その一つが失われてしまう事に恐怖した。
『最後に船を爆破し二人とも亡くなった様に見せかけるさ。どこまで欺けるか分からんが。同時にフェアのカプセルを脱出させる。お前はしばらくフェアについて助けてやってくれ。フェアの安全が確認できたらエレムは自由に生きろ』
勝手なマスターである。私の存在意義を一つ奪っておきながら、「自由に生きろ」とは無茶ぶりもいいとこである。
『何、俺は死なんサ。王族の能力、知っているだろ。フェアがいないから多分、この星の住人に生まれ変わっていると思う。そんな俺を探し出すのも一興だろ。』
何とも勝手なマスターである。
{それではフェア様を守りつつ、マスターを探す事を命令として受け取ります。それではしばしお別れを。マスター・トク}
『ああ、又な』




