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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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76、つられる司樹と芙美の助言。

チョロイ…

防音が完備されている部屋の重いドアを閉めたミロクは、早速アップを始めるヨイチとシジュを見て、同じようにアップを始める。

ミロクがAの単音で長く声を出すと、ヨイチがEで合わせ、最後のシジュがCで音を出すところで……


「だぁーーー!つられる! 俺チョロすぎる!」


「はは、チョロイって、こういう時に使わないよね?」


クセのある黒髪をワシワシとかき回すシジュに向かって、ヨイチは爽やかな笑顔で的確にツッコミを入れる。


「チョロイところがモテるところですかね(幼女に)。それにしても『つられる』のはどうにかしないと……」


「おい……今、小声で何を言いやがった?」


「何も言ってませんよ」


しれっと言うミロクをシジュは睨む。




アラフォーなアイドルユニット、344(ミヨシ)のメンバー三人は音楽スタジオを借りて、サードシングルの歌を合わせていた。

今回の曲は、しっとりとしたバラード調の曲で、三音でハモる部分が多い。それで合わせてみるとシジュがどうしても他のパートに『つられて』しまうのだ。

一度休憩し、再開する時に基本のコードで合わせようとするも、どうしてもシジュがうまくいかない。


「とにかく反復練習しかないですね。自分のパートの音だけを聞いて練習です」


「前回は大丈夫だったよね?」


「前回はメインが俺だったからな。今回はヨイチのオッサンがメインだろ?……ったく、誰に向けての歌なんだか」


「いやぁ……」


「照れるなリア充。爆ぜろ」


練習が上手くいかない所為かイライラしているシジュは、自分を心配そうに見るミロクに気づく。苦笑してミロクを額を小突く。


「心配すんな。間に合わせっから」


「シジュさん……すみません」


頼りにしていたニナが仕事の都合で、シジュのレッスンが出来なくなってしまったのだ。一人ずつで行う歌の収録はともかく、サードシングル発売イベントで歌う時に困る。

歌入りで流すのは三人の意見一致で却下である。アイドルとはいえ、いや、アイドルだからこそしっかりと歌いたい。イベントならば尚更だ。


「いや、ミロクの妹に頼りきってた俺が悪い。ダンスは自主練として、俺は歌に専念するわ。スタジオ借りてていいか?」


「ああ、今日は閉館まで大丈夫だよ。じゃあ頑張ってね、シジュ」


「俺ダンス頑張ります。だからシジュさんも……」


「おう、お互い頑張ろうな」


二人を送り出したシジュは、ヘッドフォンを着けて自分のパートの音源を流す。

部屋に一人になったシジュはそのまま目を瞑り、微動だにせず静かに立っていた。













「バラードとはいえ、体力を使わないわけじゃない。動きが遅い分姿勢や指先にまで気を使わないといけないよ」


「はい!」


ダンスレッスンにシジュがいない時は、ヨイチがトレーナーとなりミロクに指導する。

元シャイニーズであるヨイチのダンスは、その頃に本格的な講師がついていたお陰でかなりレベルが高い。


「ポジションの変更も多い。僕がメインの時に複雑に入れ替わるから、ここだけはしっかりと体に叩き込んでね」


「はい!」


スポーツジムのスタジオに移動したミロクとヨイチは、そのまま仕上げのストレッチに入る。そこに飲み物を持ってきたフミが入ってきた。


「お疲れ様です。ミロクさん、社長」


「フミちゃん!」


パァッと顔を輝かせるミロクに、思わず眩しそうに目を細めるフミ。

後光が射す幻覚が見えるくらいの笑顔は、ファンのいる前でお願いしたいとヨイチは苦笑し、フミから飲み物を受け取って礼を言う。


「終わりのストレッチですか?」


「うん、そうだよ。こういうやつ」


ミロクは器用に胡座の状態から立ち上がると、前後に足を開き、上下に腕を伸ばしていく。


「それって、ヨガですか?」


「フミが前に体幹も鍛えられるって言ってただろう? だったらストレッチの時にやってしまおうと思ってね。ミロク君は体が硬かったから、ちょうど良かったかもね」


「さすがですね」


ミロクは歌。シジュはダンス。

ヨイチはオールラウンダー……ではあるが、一番特出しているものは「取捨選択の能力」であるかもしれない。

社長としてだけではない。普段のちょっとした会話から、いち早く自分に……344(ミヨシ)に有益な情報を取り入れ、実行する。


イベント前には瞑想や太極拳の呼吸法も行う。

精神、心の安定には呼吸がしっかり出来ていると緊張も解れるし、本番での動きが良くなることが多い。


「ちなみにイベント前の瞑想も、フミが最初に言ったんだよ。『目をつむって、細く長く呼吸することだけを考えて』ってね」


「え? そうでしたか? むー、おぼえてないです」


「フミちゃんは、最初から今に至るまで俺は助けられてるよ。いつもありがとう」


「よく分かりませんが、お役に立ててるのなら良かったです……?」


ポワポワな猫っ毛頭を撫でながら、俺の女神だというミロクの呟きを聞いたフミは、顔を真っ赤にして俯いている。

その時、ヨイチのスマホに着信が入った。画面を見て、珍しい人からだなとヨイチは微笑む。



「もしもし兄さん。久しぶりだね」







お読みいただき、ありがとうございます!

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