71、朝の番組に住まう者。
ある意味ファンタジーです。
朝の情報番組『ワイワイドー』は、10時から昼までやっている全国放送の番組だ。
その日、芸人でもある司会者の武藤は、スタッフとの打ち合わせの途中から怒りを感じていた。
「なんだこのサンヨン……とかいう奴らは! 俺は納得しねぇぞ!」
「344(ミヨシ)ですよ、武藤さん」
「うるせぇ! そんなんどうだっていいんだよ!」
訂正するスタッフに対し、怒りのまま怒鳴る武藤は、普段の冷静さを欠いていた。
本来なら最近よくCMなどで流れている海外アーティストが初来日、初出演の番組が『ワイワイドー』になる予定だったのだ。しかし体調不良との事で訪日は見送り。武藤がそのアーティストのファンなのもあり、彼のやり場のない怒りは代わりにオファーした344(ミヨシ)に向かったというわけだ。
ディレクターが武藤を宥める中、少し離れたところでADの二人がヒソヒソ話している。
「でさ、そのミヨシってなに? 芸人?」
「知らないのか? 少し前に動画サイトでランキング上位の王子がいただろ?」
「ああ、あれ面白かったよな。まさかあの歌があんな風になるなんて……」
「その王子がアイドルユニット組んだんだよ。アラフォーの」
「アラフォー!? ……ってゆか、王子はアラフォーなのか!?」
「お前これ見とけよ。ほら『メインボーカルのミロクは三十六で……』って、な?」
AD同士のヒソヒソ話の向こうで、武藤の怒鳴り声は続いている。打ち合わせルーム前に人だかりが出来てしまっていた。
ふいに、その人だかりが割れる。
アッシュグレーの髪を綺麗に流し、優しげな風貌の中にも切れ長な瞳に宿る光は、周囲の動きを油断なく読んでいるようだ。しかしその目線を受けた女性は無意識に声を上げてしまっているようだ。意外と鍛えているような筋肉は服の下からも分かるほど。
癖のある長めの黒髪を後ろに固め、額に少し垂れた前髪を鬱陶しそうにかきあげる様は、褐色の肌と相まってワイルドな魅力を引き出している。無駄のない筋肉と綺麗な動作で隠されている退廃的な雰囲気は、彼の個性を彩る一つのスパイスのように感じられた。
最後に現れた青年は、白い肌に映える黒髪は柔らかくセットされている。少し長めの前髪はマイナス要因かと思いきや、その綺麗に整った顔を見た者は感謝することとなる。ふわりとその髪を揺らして周りを見回すその瞳は長い睫毛に縁取られ、これでもかというくらいに壮絶な色香を振りまいていた。
その長身の三人は綺麗に着こなしたスーツ姿で、武藤が打ち合わせしている部屋の前に立った。その周辺だけオーラが違う。
ヒソヒソ話していたAD達は、思わず口を噤んだ。
ドアは開いたままだ。怒鳴っていた武藤が外の様子に気づき、ディレクターと共にドアの前に視線を送って……思わず息を飲む。
「初めまして、僕たちは344(ミヨシ)というアイドルユニットを組んでいる者です。『ワイワイドー』からのオファー嬉しく思います。武藤さん、本日はよろしくお願いします」
物腰の柔らかい男性は、美し響くバリトンの声で挨拶をすると、スッと頭を下げた。後ろの二人も揃って頭を下げる。
新人らしからぬ落ち着いた物腰に、武藤は先程までの怒りがおさまるのを感じつつ、立ち上がって彼らに近づく。後ろで見惚れていたディレクターが武藤が何を言い出すかと、慌てて追いかけるも同じく頭を下げた彼を見て大層驚いた。
「こちらこそ、お見苦しい所を見せました」
「いえ、話は聞きました。今日は残念でしたね」
「いやぁ……まさかあの『アルファのヨイチ』が帰ってきていたとは、自分の認識不足です」
「アレは若気のいたりみたいなものですよ」
二十年近くは経ったであろうにも関わらず、シワもシミもあまり見えない綺麗な顔に、武藤は戦慄する。
芸人の自分だが、朝番組の顔になってからは、それなりに気を使うようになっていた。そこで彼は肌のコントロールの難しさを知る。彼はメイクで誤魔化しているが、ヨイチのそれは本来持っているもののように感じたのだ。
「僕の事はご存知ですよね。ダンス担当のシジュと、メインボーカルのミロクです」
「「よろしくお願いします!」」
「ああ、よろしく。いやぁ、これはすごい迫力ですね」
ミロクの微笑みに顔を上気させながらも、内心は冷静に今日の番組の流れを思い出す。これは荒れるかもしれないと考えて、彼らとどう絡もうか頭の中でシミュレーションしてみる。
(面白い)
過去にお笑い界の狂獣と呼ばれた男は、久々の高揚感にニヤリと笑った。
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