62、今時の若者とは。
大野とミロクは、書店に隣接しているカフェテラスに移動した。
コーヒーを二人分頼み、ゆったりとした一人がけソファの席に座る。平日の為比較的空いている店内では、腰を据えてラノベ談義が出来そうだと、ミロクは一人ほくそ笑む。
どうやら大野はハーレム肯定派らしく、否定派のミロクとしては残念な所であったが、肯定派にも受け付けないハーレムもある事を知った。
大野の目下な悩みは、しっくりくるハーレムものが少ないという事であるらしい。
そんな事をつらつらと話しながら、大野は一呼吸置いて話を変えてきた。
「やぁ、でも嬉しいですね。ミロクさんとは一度ゆっくりお話したくって」
「え?俺と?」
「自分がミロクさんのファンというのもあります。変な意味じゃなく興味もあって」
「興味……一体俺のどこに……」
大野は茶髪を揺らして少し前に乗り出して「ミロクさんの周りにいる女性とか」と小声で言い、いたずらっぽく微笑む。
顔をしかめるミロクに、大野は楽しそうに笑う。
「そんな顔をしないでくださいよ。いや、すごい美人が揃ってて驚いたんです」
初めて会った時といえば、マネージャーのフミと、姉のミハチと妹のニナくらいだ。彼女達にも興味があるのかと、ミロクは黙って大野を見る。
大野はそんなミロクの視線を物ともせずに続ける。
「長い髪の女性がいましたよね。すっごくスタイルも良くて、綺麗で……」
(髪が長い……あの場で髪が長いのはミハチ姉さんとニナだけど、ニナは髪を編み込んで結わえていたから長くは見えなかったはずで。ってことはミハチ姉さん?)
「あんな綺麗な人が普通にいるんだなって、自分衝撃的だったんですよ。今まで付き合ってた女性が皆霞んじゃいました」
「そう……なの?」
「はい!!」
ミロクは内心頭を抱える。自分の姉ミハチは最近二十年来の片想いを終わらせたばかりの、幸せ絶頂な人であり、しかも相手は彼の上司だ。
さらに……
「大野さんの年齢は?」
「二十五になります」
「若いね……えっと、その長い髪の人って、たぶん俺の姉なんだけど……恋人もいるし」
「そうですか、恋人が……ミロクさんのお姉さん!?」
どうやら大野はミロクの年齢から気づいたらしい。
一瞬驚いた顔をしていた彼だったが、すぐに笑顔になる。
「俺より年上かと思っていたけど、そんなに離れてるとは……まさに理想の方です!」
「へ?」
「今度是非紹介してくださいね!あ、俺仕事なんで今日はこの辺で。では!」
にこやかに立ち去る大野に、ミロクは呆然と見送った。
確かに恋人がいるという話をした筈なのに、何故か明るく紹介しろと言われたことの意味が分からない。
(最近の若者の行動が意味不明だ……)
まさか自分が「最近の若者」について悩む日が来るとは思ってなかった。自分は比較的柔軟性のある思考回路を持っていると思っていたからだ。
(とりあえず、次の動きがあるまでヨイチさんに言わなくても……いや、言っとくか)
ミロクは先々揉めるであろう事案を想像して、深くため息をついた。
「フミ、こっちだよ」
「真紀ちゃん!」
トタトタと駆け寄るフミを足を止めて待ち、ニヤニヤ出迎える。
「相変わらず遅いよね」
「ハァハァ、ひどい真紀ちゃん」
「ごめんて」
まっすぐなショートボブの髪を揺らして笑う真紀に、フミもつられて笑顔になる。
「で、仕事は順調?」
「うん。あと二曲は最低でも出すって。アニメの関係もあるし」
「キャラクターソングが出るって公式にも出てたから、忙しくなるだろうなって思っていたけど……結構時間的にカツカツなのね」
「うん。叔父さんとシジュさんが鬼のようにボイトレやってる」
「おお!魅惑のバリトンボイス!ファンとしては楽しみだわぁ……」
「叔父さん達、声が良いからねぇ……」
「フミの王子様だって負けてないじゃない?」
悪い笑みを浮かべた真紀に言われ、途端に顔を真っ赤にするフミ。過去に色々あったミロクとの事を思い出してしまい、悶えている彼女を真紀は生温かい目で見る。
(こんなにメロメロしてるのに、付き合ってないのよねぇ……)
真紀は「まぁいいけど」と呟くと、未だ悶えるフミを連れてお茶しに行こうと歩き出すと、目の前を男性が立ち塞がる。真紀よりも背が高く、百九十届くんじゃないかという感じだ。圧がすごい。
「すみません。344(ミヨシ)のマネージャーさんでは?」
黒縁メガネの男性から低く響く声にフミは首を傾げたが、真紀は即座に反応する。
「ラジオ『深夜のバリトン』の、高元さん!?」
「ああ、分かってもらえて良かった。そうです。アニメでシジュさんの声を担当してます」
「ああ!イベントにも来てくださいましたよね。その節はありがとうございました」
スッとマネージャーの顔になったフミは、高元に頭を下げる。真紀はそんなフミを見て感心していた。
「そんな……あれは大野くんが連れて行ってくれただけで、俺はイベントを知らなかったんです。でもおかげで演技も楽に出来ました。監督にもイメージ通りだと褒められましたよ。そりゃそうですよね、本人見てるんだから」
笑顔で語る高元に、真紀は「本物……」と呟き、フミを苦笑させる。
「ああ、そうだ。よろしければお茶でもどうですか?お友達も一緒に……」
真紀の目が輝くが、フミは少し戸惑っていた。どうしようと思っていると、「じゃあ俺も良いですか?」と、聞き慣れた甘いテノールが彼女の耳に響いた。
振り返るフミが見たのは、笑顔なのに一切目が笑っていないミロクだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
若者に偏見があるわけではありません。
彼が変なだけです。




