54、同級生と弥勒の話。
「これ……本当なの?詐欺とかじゃないでしょうね」
「こんな面倒な詐欺とかしないよ」
秋になり涼しくなったとはいえ、立ち話もなんだからと馴染みの喫茶店に三人で入る。
何故か少し驚いたような顔をした店員に、ミロクは飲み物を注文する。大人はアイスコーヒーで、お子様にはこの店特製の濃厚バニラアイスとサクランボの乗ったクリームソーダだ。
秋香はアイスコーヒーをストローでカラカラ混ぜながら、スマホで「ミロク」と検索して出てくる画像と動画に驚いている。
「え、なんかすごい人気みたいじゃない。ツイッタラーとかもすごいし……」
「ありがたいよね」
そう言って微笑むミロクを、秋香は改めてじっくりと見る。
オフの為ラフな服装のミロクだが、最近ニナに私服を大幅リニューアルされていた。今日は紺のジャケットに薄手の半袖ニットを中に着ている。体にフィットする感じのグレーのジーパンにスニーカーという格好なので、近所の本屋くらいの外出には充分だろう。
メガネをかけてはいるものの、それは彼の魅力を隠すどころか増大させていた。
「それにしても……痩せたねぇ」
「筋肉つけたくて頑張ってたんだけど、気がついたら痩せてた」
「クラスの皆ビックリするだろうなぁ。私この前の同窓会参加したけど、大崎くん出席してないよね?」
「や、実はこっそり覗きに行ったんだ」
「ええ!?気づかなかった!!」
「俺もイベントやってた会場の側だったから少しだけと思って行ったら、即、囲まれて逃げ出した」
「うわぁ」
図が浮かぶなぁと笑っていた秋香だが、ふと真面目な顔になった。
「大崎くんは気づいてなかったかもだけど、あの頃女子に一番人気だったのは大崎くんだったんだよ」
「へ?」
「んで、私もその中の一人。私、初恋が大崎くんなんだよ」
「へぁあ!?」
大崎ミロクは学校で一番太っていた。
その体型のせいで、高校の二年くらいまではイジメの対象となっていたが、それが終息した頃には『太ってて変わっている人』という認識になっていた。
何故そのような認識になっていたのか、彼はひたすら女性に優しかったのだ。
そう。
女性全員に。
年齢関係なく。
彼と一緒に行動した女子達曰く「お姫様になったみたい…」と頬を染め、担任の女性教師は「生徒じゃなければ……」とハンカチを濡らしつつも休みがちなミロクを心配し、クラス委員の秋香に頼んで様子を見させたりしていた。
最初はミロクに距離をとっていた秋香も、同じクラス委員になって、どんどん彼に惹かれていくのを感じていた。
でも、秋香は認めたくなかった。だって彼は……彼は……
卒業式の後、秋香は彼を呼び出した。
同じクラス委員だったし、ちゃんと最後に挨拶したいという理由を無理矢理つけて。
「で、遅れてきた大崎くんは本当にひどかったわ!」
「え?何で?」
「だって、第二ボタンをもらおうって思ってたのに、ボタンどころか名札も校章も取られてボロボロになってて、私に向かって『もうイジメってないと思ってたのに』とか言いやがったんだから!」
「あ、あれは、あの頃そういうのよく知らなくて……」
「おかげで告白どころか、私から出た言葉は『アンタなんて大っ嫌いーーー!!』だもの。ああ、今思い出しても恥ずかしいっていうか、駄々っ子みたいなあの時の私が恥ずかしい。ああ恥ずかしい」
うがーっと両手で顔を覆いテーブルに突っ伏す秋香に、クリームソーダのバニラアイスと格闘していた、彼女の分身みたいな小さな子が「ママの顔まっかっかー」と笑っている。
秋香そっくりな笑顔の子供に、ミロクも自然と笑顔になる。そうだ、あの時自分は……
「なんだ、俺振られたんじゃなかったんだ。憧れの金町さんに 」
「う、うぇええ!?」
秋香が思わず顔を上げると、至近距離でミロクがニッコリと笑いかけてくる。さらに顔を真っ赤にした秋香は、再びうがーっと言いながら高速でスマホ操作をしている。
「やられたらやり返すのが私の主義!って事で、私の初恋をスルーした罪は重いんだからね!ここは奢りね!」
「ははは、分かったよ金町さん」
「じゃ、私の仕返しは終わったから、次も頑張ってね!じゃ!」
「え?」
「初恋が大崎くんなのは私だけじゃないって話」
そそくさと席を立つ秋香と入れ違いに、数名の女性がミロクの元に向かって来る。
「大崎くん!?」
「やだ!本当に大崎くんだったんだ!」
「まだ独身?私も独身!」
「私の事おぼえてるー?」
「ちょ、ちょっと、金町さん!助けてー!」
ミロクの悲鳴を聞いて、店から出る直前に振り返って笑った秋香は、あの頃ミロクが憧れた一人の女の子と同じ笑顔だった。
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