52、『アニメ緊急発信』の収録。
収録するスタジオに入る。
基本はトーク番組のため、セットは「MCの部屋」という設定で、ミロクはテレビで観るよりも狭く感じていた。
控え室での打ち合わせでは、質問される内容とその答えを予め決めておいた。司会とのやり取りと歌の収録で、時間もそんなにかからない感じだ。
三人はアニメ『ミクロットΩ』のキャラの服装で出演することになっていて、相変わらず見事な腹筋を見せることとなるシジュは、盛大にため息を吐いてみせた。
ミロクは興味深く、カメラの機材や照明担当の人が走り回る様子を見ていると、その目線の先に女性スタッフが入るとニコリと微笑む。女性には優しくという大崎家の家訓は「女性にはまず笑顔」という恐ろしい行動をミロクにさせている。
だが彼女達もプロである為、一般女性よりはミロク・フェロモンに抗うことが出来ていた。至近距離でなかったことも幸いだったようだ。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
ミロクに声をかけたのはMCの声優の大倉弥生だ。彼女は所謂『声優アイドル』という部類で活動していて、無論元引きニート・ミロクは彼女の事を知っていた。何となく親近感が湧いたミロクは彼女に柔らかく微笑む。
「初めまして、344(ミヨシ)のミロクです。よろしくお願いします。大倉さんの出演されてるアニメ視てました。素敵な声ですよね」
「あ、は、はい」
赤くなっていく大倉の顔に気づいたヨイチとシジュは、一緒に進行表を確認していたスタッフに一声かけて抜け出してきた。二人の顔には苦笑いが浮かんでいる。
「MCの大倉さんですよね。344のヨイチです。よろしくお願いします」
「俺はシジュ。うちのミロクがやらかしてない?」
「は、はひ、だいじょぶですぅ」
ヨイチとシジュのフォローは逆効果だった。ミロク・フェロモンにホワッとした所に色気満載のバリトンボイス・ダブル攻撃だ。
だが彼女もプロである。彼女のマネージャーに何かを耳打ちされシャキッと意識を取り戻した。
「すみません大丈夫です。では後ほど……(しっかりネタを持って帰らなきゃ)」
後半に何か呟いていたようだが、ミロクたちは特に気にすることなく344(ミヨシ)初のテレビデビューとなる収録に臨むのであった。
「アニメ!」
「「「「緊急発信!!」」」」
MCの大倉と344三人のオープニングコールで番組はスタートする。
今回はアニメ『ミクロットΩ』特集として、制作秘話や声優の裏話などの映像が流れ、そして話題の第五話で登場する敵役三人のキャラのところで、344(ミヨシ)の挿入歌の話から始まった。
「今回のゲストは344(ミヨシ)の御三方です!」
「は、初めまして、メインボーカルのミロクです!」
「事務所社長も兼任しているヨイチです」
「ダンス担当のシジュだ」
「三人揃って…「「「344ミヨシです!よろしくお願いします!」」」
「息ぴったりですね!」
「ここの下りはラジオでもやってますからね」
自己紹介を終えるとミロクとシジュは何時ものラジオの雰囲気になって、緊張を和らげた。
それを見た大倉は344結成についてヨイチに質問する。
「そもそも、事務所としてはミロク一人を売り出す予定だったんですよ」
「「え、そうなんですか!?」」
「大倉さんはともかく、なんでミロク君まで……」
大倉とミロクは見事にハモり、呆れたヨイチのツッコミにスタジオで笑いが起きる。
「だって、俺はちょこちょこモデルやってたくらいで売り出すとか無いと思ってたんですけど」
「才能あるミロクを売り出す算段を、野心家で腹黒なヨイチのおっさんが考えねぇわけねーだろ?」
「酷いよシジュ……」
容赦ないシジュの言葉にヨイチが落ち込む素振りを見せ、再び笑いが起こる。
「では、お二方はなぜデビューを?」
「プロデューサーが無理矢理……僕はミロク君の付き添いだっただけなのに……」
「俺はたまたま就職活動中で、ただのバイトだったのによ……」
「あはは……すごいプロデューサーさんですね。ていうか御三方ともアラフォーだとは思えないです!すっごく若く見えるんですけど!」
大倉は目をキラキラ……いや、ギラギラさせて詰め寄る。どうやら色々気になるお年頃らしい。
「そりゃミロクの担当だな。こんな大学生みてぇだけど三十六だって、最初聞いた時に俺は何の冗談かと思ったな」
「はは、それは姉さんが持ってくる化粧品のおかげですかね」
「ミロク君のお姉さんは化粧品会社に勤めてますからね」
なぜか自慢げに言うヨイチに、色々とご馳走様な気分になったミロクとシジュは苦笑する。
大倉はそんなヨイチを気にすることなく、後で化粧品のサンプルを送るというミロクの言葉に喜んで歓声を上げていた。その声が少しドスの効いた「よっしゃああ」だったので、たぶん放送ではカットされるだろう。
「ええと、今回のデビューシングルはミロクさんが作詞されてますが、『ミクロットΩ』の挿入歌として作られたんですか?」
「えっと、俺たちはなぜかこの歳でアイドルとしてデビューしようって話になって、デビューするなら歌がないとってなって、プロデューサーが『ポップな恋愛の歌を作れ』とか無茶振りしてきて……今考えると有り得ないですね、これ」
「シジュなんて放送出来ないような詞を作るから、やり直しさせましたし」
「だからぁ、オッサンがポップな歌詞なんぞ作れるかっての」
不貞腐れた態度も、シジュがやると何だか絵になるのが不思議だ。そんなシジュの態度を可愛いと揶揄うミロクと、それを笑顔で嗜めるヨイチ。
三人の掛け合い交えつつ、その日の収録は無事終わったのであった。
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