閑話6、如月与一(41)の場合。
何とか出来た……
たぶんそんなに甘くないと思いますが、一応砂糖注意です。
「み…はね?みわせん?」
たくさんあったファンレターの中で、綺麗な文字と『大崎実羽千』という名前。
名前に当て字が多く使われる事を知ってはいるが、これはまた難解だった。一週間に一度、必ずこの子から来るファンレターは、ヨイチの良かったところが毎回一つ書かれていて、それが毎回違っていて彼を楽しませた。
どんな子だろうと思っていたら、一度だけ高校の入学式の写真が入っていた。
私服の高校だったヨイチの目には、彼女の制服姿が眩しく見えた。そして何よりもとても綺麗な子だと彼は思った。
写真を見てから尚更彼女からのファンレターを楽しみにしているヨイチがいた。
もしかしたら、これは彼の『初恋』だったのかもしれない。
ヨイチがスポーツジムに通い始めたのは、事務所の経営が軌道に乗ってきた頃だった。そろそろ体が重く感じたのと、姪のフミに体の心配をされたからだ。
そこに彼女がいたのは偶然で。
事務所をこの近くにしたのは……偶然じゃないのだが。
適当な理由を作り話しかけたら彼女は不機嫌そうに対応し、それでもあの写真の面影はあり綺麗な女性だとヨイチは思った。
「僕は如月ヨイチです。貴女は?」
「大崎です。大崎ミハチです」
自己紹介でヨイチはあのファンレターの主が彼女であると確信する。
そして、『実羽千=ミハチ』という、長年の謎が解けた瞬間だった。
だがしかし。
彼女は変わらなかった。
ヨイチが痩せて、昔の面影を取り戻しても。
344(ミヨシ)のメンバーとして公式サイトに自分の過去を載せても。
彼女……ミハチの態度は変わらなかったのである。
なのに今。
今まで自分から誘い、尚且つミロク絡みじゃないと動かなかった彼女から、初めて呼び出しされ、胸を高鳴らせて待ち合わせ場所に来てみれば……。
彼女から熱烈な告白を受けて。
それと同時に、ヨイチに振られたいと言われている。
(訳が分からない……僕は振られた……?)
いや、彼が分かったのは一つだけ。
言うだけ言って立ち去ろうとする彼女に「振られたいのに逃げるの?」と退路を断つ。気持ちを落ち着かせるために息を吐くと、ヨイチは彼女を真っ直ぐに見た。
「やっぱり君だったんだね」
ヨイチは微かに笑顔をミハチに見せると、切なげに目を伏せた。
「週に一回必ずファンレターをくれてた『大崎実羽千さん』でしょ?僕は君にずっと会いたかった」
シャイニーズを辞めたから、ミハチとの繋がりは無くなってしまった。
無くなってから、自分がどれだけ彼女の手紙に助けられていたのか気づいた。
ファンレターに住所は書いておらず、ヨイチは消印を見て憶えていて、無意識にその近辺に事務所を構えることにした。
だから、スポーツジムで彼女に会えたのは、偶然であり必然であったのだろう。
彼女が逃げないように掴んだ手はひどく冷たかった。ヨイチがもう片方の手も乗せてやると、普段の彼女とは思えない真っ赤な顔で狼狽える様に、少し優越感を感じる。
「僕のファンはやめるんだね」
「……やめる」
「君は今の今まで僕のファンだった。僕が何してても、どんなでも」
「……そう、ね」
ヨイチは甘く蕩けるような笑顔をミハチに向ける。だが彼女を見るその瞳は、肉食獣のような怪しげな光を帯びていた。
「どんな僕であっても君の心は変わらなかった。それがどういう事か分かる?」
「え?」
こてりと首を傾げるミハチは、ヨイチの甘い空気に当てられ少し頬を上気させていた。そんな彼女も可愛いとヨイチはますます笑みを深める。
さぁ、トドメを刺してやろう。
「君はね、僕の事を外見だけじゃなく、全部好きだって事」
ヨイチはミハチの手を引き、自分の側に頭を寄せて彼女の耳元で囁く。
「そして、そんな可愛い君を、僕は絶対逃がさないって事」
好きだよと言ったヨイチは言葉を音にせず、ミハチの耳たぶに唇を触れたまま言ってやる。
あまりの事にミハチは触れられた耳からうなじまで真っ赤にさせて、テーブルに顔を突っ伏した。
「降参する?」
テーブルからくぐもった声が聞こえる。どうやら彼女は観念したらしい。
ヨイチはそれに笑い声を上げて、掴んでいた彼女の指先にキスをした。
「予約ね」
キスをされたその指の場所に、再びテーブルからくぐもったうめき声が上がるのだが、ヨイチは我関せずこれからの事をウキウキと考えるのであった。
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