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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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40、ラジオ放送日の弥勒。前編

 朝の走り込みを終えたミロク。

 シャワーを浴びようと洗面所に行くと、寝起きのミハチとかち合う。


「おはよう姉さん、お風呂使う?」


「んーん、今日は有給休暇だから、後でゆっくり入るー」


「じゃ、先に入るね」


 さっとシャワーを浴び、身体をタオルで拭きながら鏡に映る自分を見る。

 目、鼻、口。三十年以上毎日見ている顔なのに、この顔のどこが良いのか、なぜ女性に騒がれるのかが未だにわからない。

 痩せて身綺麗にしただけで周囲の反応って変わるものなんだと、身をもってミロクは知ったが、顔だけは謎のままだ。


 リビングに行くと、ミハチがぼんやりと長いソファに座って カフェオレを飲んでいた。

 珍しい、とミロクは思う。いつもなら化粧品のサンプルや新しい美容法などを、色々と持ってきてミロクを実験体にするのに……。


「姉さん、何かあった?」


「ん?ああ、ちょっと昨日飲み過ぎてねー。今日はラジオでしょ?楽しみにしてるね」


「うん、ありがとう」


 朝食を用意してくれている母イオナと目を合わせると「大丈夫」と手を振っているから、ここは任せようと朝食を食べ、スポーツジムに向かう。







 空きスタジオを事務所名義で借りて、シジュから送られてきたデビュー曲の振り付け動画を見ながら、細かく合わせていく。

 基本ステップは変わらず、振りが所々変わっていた。


(なんとか踊れるけれど、それじゃダメだな。後でシジュさんに見てもらおう)


 一人熱心に踊っていると、ジムの男性トレーナーが終了のお知らせに来た。


「お疲れ様です。時間終了のお知らせと、如月様から昼には現場に来るようにと、伝言を預かっています」


「ありがとうございます」


 このスタジオでは電波が繋がりにくい。スマホを見ると案の定圏外になっていた。


「あと……すみません、うちの社長がサインが欲しいと……」


「それは光栄です。今度三人で書いた色紙を持ってきますね」


「本当ですか!ありがとうございます!」


「いえいえ、いつもお世話になってますし」


 にっこり笑うと、男性も照れたように微笑んだ。

 やっぱりこのスポーツジムは当たりだとミロクは思う。受付に来たファンの人達をやんわりと帰してくれたりもする。他よりも会費が高いが、それを上回る対応をしてくれるため、ここ以外の利用を考えられない。










 ラジオの日は、ボイストレーニングをしない。

 ただ喋るだけといっても、多少緊張しているせいか喉に力が入ってしまうのだ。初日は緊張をどうにかしようとヨイチとシジュの顔ばかり見ていたら、スタッフの方も見ろと怒られたのは良い思い出だ。


 ラジオ局に入ると、顔馴染みになったスタッフに挨拶する。

 いつも飲み物やカンペなどを用意してくれる女性スタッフは、顔を赤くして挨拶を返してくれた。


「おはようございます。今日は早く来るように言われたんだけど……」


「皆さん集まって、お昼一緒にするみたいですよ。こちらです」


 いつも打ち合わせする部屋に通されると、いつもいない番組プロデューサーがいる。そして人気ラジオDJの「チェケラ」もいた。

『ミヨシ!』は3時間番組『KNOCK・3』の十五分コーナーを担当しているが、その番組パーソナリティーが打ち合わせに参加することは今までなかった。

 ただ三人とは年齢も近く、気も合うので話す機会は多く、ヨイチとは飲み友達でもある。

 ミロクの後に、数名スタッフらしき人達も入ってくる。広めの会議室が程よく埋まった。


 しばらくしてディレクターが声を発する。


「今日は急な打ち合わせに参加していただき、ありがとうございます。今回は『KNOCK・3』での十五分コーナーを担当されている344(ミヨシ)のメンバーにも来ていただきました」


 三人は立ち上がり、周りのスタッフに会釈する。


「今日の議題……というか、ここ最近の聴取率の大幅アップについて、プロデューサーから話があります」


 騒つく室内。

 ミロクは「チョウシュリツ」がなかなか変換出来ず、やっと意味が分かった時には拍手に包まれていた。


「え?何?」


「僕たち、褒められてるよ。番組の聴取率のアップに『ミヨシ!』が貢献したって」


「へ?」


 しばらく鳴り止まない拍手に、ミロクは戸惑いを隠せずにいた。









お読みいただき、ありがとうございます。

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