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オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


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31、ラジオ公開放送直前。

 イベント会場から少し離れた所に車を置いたフミは、衣装の入ったケースやら何やらを持ってヨロヨロと歩き出す。

 そんなに重くはないのだが、ひたすらかさばるのだ。とにかくかさばるのだ。


(往復する時間はない!う、腕が攣りそう……)


 涙目で歩いていると、フワッと片方の荷物が無くなる。


「こんなに荷物抱えてたら転ぶよ?」


「ふぇぁ?あ、あの、スミマセン……」


 サングラスをかけた茶髪の男性が、フミが右腕に持っていた荷物を代わりに持っていた。


「これどこまで持っていくの?そこまで俺が持って行くよ」


「いえ、そういうわけには……」


「そんな重くはないかもだけど一度には無理でしょ。ほら、どこに行けばいい?」


 好意はありがたいけれど、一応芸能人の彼らの所に部外者を連れて行くわけにはいかない。どう断ろうかとオロオロしていると、その男性の持っている荷物をさらに上から持ち上げられてるのが目に入る。


「うあ、びっくりした!」


「すみません、俺はこの子の関係者です」


 メガネにニット帽という姿のミロクは、息を切らしながらフミにぎこちなく笑いかけた。

 茶髪の男性はミロクを見て少し驚いたような感じだったが「それなら大丈夫だね」とミロクに荷物を渡し、フミのポワポワな頭にポンと手を置くと、手を振りながら去って行った。

 しばらくボンヤリしていたフミは、我にかえると慌ててミロクに頭を下げた。


「すみません!ミロクさんありがとうございます!」


「大丈夫。今回衣装が自前だから荷物多いのに、フミちゃん一人に持たせてごめんね」


「いえ、そんな……」


 イベント会場の控え室までの数百メートル、二人は無言のまま歩く。

 控え室の入り口でクルッと振り返ったミロクに危うくぶつかりそうになるフミ。そのまま後ろにひっくり返りそうになるフミの背中を、ミロクは荷物を放って支える。

 まんまるに見開いたフミの目を、眼鏡越しに見たミロクは、ポワポワ揺れる茶色の猫っ毛をわしわし撫でて、その頭にチュッとキスをする。

 驚きのあまり固まるフミ。


「……消毒だから」


 ミロクは不機嫌そうに地面に散らばった荷物とフミの持つ荷物を持つと、さっさと控え室に入っていった。

 フミはそのままヘロヘロと腰が砕けて座り込み、ミロクと入れ替わるように出てきたヨイチに救出されるのであった。












「必死すぎ」


「……俺はおっさんですから」


「おっさんか?外見も中身も、行動さえも伴ってねぇんだよ」


「……スミマセン」


「バカだな。それがお前の魅力だろ?」


「……そう、ですかね」


「自信を持て。今日来てくれる人達は、そんなお前を応援してくれてるんだ。おっさんのくせに子供っぽい、純粋なお前を。お前の全部を受け入れてくれてるんだ」


 俯いているミロクに、シジュは屈み込んで目線を合わせる。そのままミロクの頬をムニッと摘んで、ニカッと笑った。


「お兄ちゃんが保証する。末っ子はイイ男だ」


「その法則でいくと僕は長男だね。ミロク君は良いけど、シジュが弟ってなんか嫌だよ」


「ヨイチ兄ちゃん酷い!」


 いつの間にか戻っていたヨイチに、ミロクは申し訳なさそうな顔をしてペコリと頭を下げる。


「フミは大丈夫だよ。いやぁ、急にミロク君が走り出した時はビックリしたけど、よくアレが見えたよね」


 ヨイチはニコリと微笑むと、ミロクに近づいて頬をムニッと摘んだ。


「ダメだよ、そんな情けない顔したら。君は王子様なんだから堂々としてないと。女の子は王子様が大好きなんだよ。もちろんフミもね」


「……そうですね。応援してくれているフミちゃんや皆さんに、情けないところを見せられないですよね」


 やっと笑顔が戻るミロクに、ヨイチとシジュは内心ホッとする。

 今回急に落ち込んだのはイベント前の緊張もあったのかもしれない。そしてミロクの心に感情の変化が起きたのは嬉しいことだ。

 全ての人に優しく誠実である必要は無い。今回の事でそれを気づけたら良いとヨイチは思っている。


 ミロクには多くの才能がある。それが今まで開花しなかったのは「外の環境に恵まれなかった」それだけである。その外の環境とやらに自分達がなれば良いと二人は考えている。

 こうやってたまに手を貸すだけで、ミロクはすぐに立ち直れるのだ。若い頃のミロクに無かったものを、今与えるだけの事だ。

 ヨイチとシジュにとって、それは負担ではなく当たり前の事だった。今までのミロクの努力や行動を見て、彼を好きにならない人間がいるのだろうか。二人は未だにミロクが前の会社をクビになった事が信じられずにいた。


 でも、今となってはクビにした会社に感謝したいくらいだ。

 ヨイチもシジュも、ミロクに救われた。

 そしてクビになって本当に良かったのかと問われれば……ミロクは今とても充実した毎日を送っている。毎日笑顔でいる。それが答えであろう。




「さ、リハーサルに行こうか」


「はい!」

「おう!」


 三人は笑顔で立ち上がり、イベントスタッフの元へと向かった。








お読みいただき、ありがとうございます!

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