295、オッサンの異世界フェロモン無双。
コミック版、オッサンアイドルの最新16話が公開されています!
漫画サイトの『コミックPASH!』でもフェロモン満載なので、よろしくお願いします!
小鬼という呼びかたよりも、ゴブリンと言ったほうが伝わるだろう。
体は小さくとも、その凶悪な表情と常に数体で行動しているこの魔物は、ベテランの冒険者であっても油断ならない相手だ。
しかし今、その油断ならない魔物であるゴブリン数十体が、彼ら……オッサン三人に対し迫ってきている。
「ミロク君! 足止めを!」
「わ、わかりましたっ」
未だ戦うということに慣れないミロクだが、絶対的な信頼を置いているヨイチからの指示に対し、迷わず従うようになっていた。
緊張のせいか薄ら色づく頬をぴしゃりと叩くと、フッと小さく息を吐き集中すること数秒。
天に向かって弓矢を射るようなポーズをとれば、桃色に光る矢が彼の周りに次々と浮かび上がる。
「いきます!! スキル『魅惑の矢』!!」
艶やかな彼の唇から紡がれる言葉。それと同時に矢は一度空へ向かって飛び立ち、やがて雨のようにゴブリンたちへ降り注いでいく。
桃色の矢に射たれたゴブリンたちは、何かに魅了されたように動きを止める。
「オッサン!」
「分かっているよ! スキル、『皇帝の意思』!」
ヨイチは胸元で交差させた両腕を、まるで指揮者のように開き、大きく振り上げる。
するとどこからともなく現れたのは、一個小隊ほどの全身鎧を身にまとう兵士たちだ。彼らは勇ましく鬨の声をあげ、ゴブリンに向かって先を競うように突撃していく。
それでもなお、討ちもらしたゴブリンが数匹いる。やつらの前に飛び出すのはシジュだ。
「チッ、やるしかねぇか。……スキル『追撃の舞』だ!」
手には何も持っていない彼が軽くステップを踏み、ジャンプした後ゴブリンに向かってターンを決めれば、何かに撃たれたかのように魔物たちは倒れていく。
「くそっ、なんで俺だけクソ恥ずかしいスキルなんだよ! 職業『踊り子』っつったら普通はナイスバディな美女とかだろうよ!」
「いいじゃないですか。俺なんか職業『お色気』ですよ……なんですか『お色気』って……もう、職業でもないし……」
「僕は職業『社長』だったからね。そのままって感じで残念だよ。残念な異世界だよ」
「残念って二回言いましたね、ヨイチさん」
「異世界にクレームつけるとか、さすが社長だよな」
「ははは、シジュは報酬カットだね」
「なんで俺だけ!」
なぜかライブの最中に異世界転移したオッサン三人。
彼らの服装は、元の世界で着ていた衣装の上にマントを羽織っただけという、冒険者として心もとない装備である。
しかし、彼らには『職業』と『スキル』があった。
ここでは、誰もが『スキル』を持っている。
魔物が多く蔓延るこの世界で人間が生き残れるよう、神が授けた恩恵らしい。
「森で遭難しかけてどうなるかと思いましたけど、運良く通りがかりの行商人さんに町まで案内してもらえて助かりました。とても良い人でしたね」
「あのオヤジ、ミロクの笑顔に頬染めてたぞ? ここは日本じゃないんだから気をつけろよ」
「そうだね。同性婚も普通にあるみたいだし、ミロク君はフェロモン自重しないとね」
日本とはちがう世界であるにも関わらず、言葉が通じることに彼らはホッとしていた。
シジュとヨイチは英語ならどうにかなるが、異世界語となるとお手上げだからだ。いや、ミロクならどうにかなったかもしれない。(色々な意味で)
「冒険者ギルドで僕たちの能力が戦闘で使えることが分かったし、薬草採取する仕事をもらえたけど……。なぜ、こんなにたくさんのゴブリンを退治することになったんだっけ?」
「ミロクが『なんか変な臭いがする』とか言って、わき道にそれたからだろうが。犬かお前は」
「えー、匂いは大事なんですよ。シジュさんの匂いはスパイシーな感じで、ヨイチさんは最近ミントの香りがしますよ」
「スパイシーってなんだよ。カレーかよ」
「あはは、シジュさんカレーと加齢をかけるとか! うまいです!」
「うまくねぇよ! かけてねぇよ!」
「ご飯に?」
「カレーだけに……って、だからかけてねぇっつの!」
言い合う二人から少し離れたところで、ヨイチは自分の腰に貼ってある湿布をこっそりはがしていた。
深夜枠であるもののドラマの視聴率は良く、ライトノベルの流行を取り入れながらもオッサン三人の「わちゃわちゃ」っぷりが見どころのひとつとなっているようだ。
事務所の会議室で録画したドラマを流し、事務処理をしていたヨイチは「このことか」と一人うなずいている。
「ネットで美尻だのなんだの騒がれていたのは、この時の回だったんだね」
撮影の時に確かめたが、そこまで注目するものでもなかった気がしていた。しかしファンと呼ばれる人間は、ヨイチが考える以上に敏感?に妄想?する生き物なのだ。
一時停止しているテレビ画面には、服を上下にまくった彼の鍛えられた広背筋から腰骨と大臀筋が半分ほど見えている。これを美尻と言われればそうなのかもしれないと、ヨイチは褒め言葉として受け取ることにした。
「湿布をはがすシーン、監督の指示でパンツを少し下げただけなんだけどなぁ……」
そういえば放送された日に、恋人から「おしりペンペンするからね!」というメールがあったことを思い出したヨイチは「このことか」と再度うなずいている。
「……悪くないね」
なにがと聞かれたら、ロクでもない答えがかえってきそうな黒い笑みを浮かべ、ヨイチはひとり物思いにふけるのだった。
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