26、芙美と仁奈の内緒話。
フミちゃん回?です。
何故、来るかどうかも分からないミロクを待っていたのだろう。
フミは事務所専用の駐車場に車を停めると、軽くため息を吐いた。エンジンを止めて車から出ようとするも、立ち上がる気力は無かった。
ミロクと一緒にいると、心が不安定になるのは分かっている。それでも顔を見ない日は落ち着かなくて、つい彼のことばかり考えてしまう。
(恋……なんて、簡単なものじゃない)
初めてミロクを見た時、なんて綺麗な人なんだろうと思った。自分より十三も年上だとは思えない純粋な人だと思った。
誰に対しても優しく誠実であろうとする彼を、皆が好きになるのは当たり前で。その当たり前に自分も加わっていると思っている。
(それにミロクさんは、私を妹扱いしている感じだし)
はぁーっと、今度は深くため息をついて車から出る。むわっとした夏の空気に顔をしかめながら、涼しい事務所に急いで戻ろうとすると、どこかで見たような姿が目に入った。
「ニナさん……?」
水色のストライプのシャツに黒のチノパンで、編み込みの髪を結わえているスラリと背の高い女性は、確かミロクの妹であるニナだろう。
事務所の前でウロウロしているのは、もしかしたらミロクに用があるのかもと声をかける。
「あの、ミロクさんの妹さんですよね」
「わぁっ、あ、ああ、マネージャーさんだっけ?」
「はい、如月フミです」
「私はニナで良いよ。携帯繋がらなくてお兄ちゃ……兄を探しているんだけど、今日は仕事じゃないの?」
「ミロクさん今日はオフなんです。……あ、さっきジムにいました。もしかしたらそのせいかもしれません」
「そっか……」
ニナは少し暗い顔をしている。
「あの!!何かあったんですか!?」
自分では力になれないかもしれないが、思い切って聞いてみようとするフミを、ニナは呆然と見ていた。
「えっと、大したことじゃないんだけど……」
「そんな事ないです。ここ暑いでしょうから事務所にどうぞ!」
「え?いいの?」
「ミロクさんの身内の方です!どんとこいなのです!」
「何それ」
つい吹き出したニナを見て、フミは笑顔で事務所に案内するのだった。
「叔父ですか?」
クーラーの効いた会議室で涼みながら、麦茶を出すフミ。
先程よりは幾分和らいだ表情のニナの問いかけは、ヨイチの事だった。
「うん。あの人どっかで見たことあると思って、発表会の時は気がつかなかったんだけど、お兄ちゃんと一緒にラジオ出てるの見て思い出したの」
「どっかで見た?テレビじゃないですか?叔父は昔シャイニーズに所属していて、そこそこ売れてたんですよ」
「やっぱり!!そうか……それ知ってるのかな……」
「二人組の『アルファ』っていう。メンバーが都合で辞めてしまって、シャイニーズの社長は叔父を引き留めたかったみたいです」
「辞めたのも病気だったからって」
「はい。アイドルは体力勝負ですから。でも叔父のことよく知ってますね。もう二十年以上前ですよ?」
確かニナはフミよりも少し年上のはずだから、芸能人に興味を抱くとしてもヨイチが対象であるのは珍しい。
ニナは出された麦茶をゴクゴクと飲み干すと、ぷはーっと息を吐いてコップを置く。
「ファンがいたの」
「ファン?叔父のですか?」
「私小さかったし、ヨイチさんの事はあまり憶えてないけど、追っかけしたり手紙書いたりしてたの」
「それは……なんというかマニアックですね。ニナさんのご友人ですか?」
「姉よ」
「へ?」
「姉は隠していたけど、小さい時に姉の隠しているシャイニーズグッズを見つけちゃったの」
「そ、それって……」
「もちろん言えない。知らないことにしてるの」
「は、はぁ……」
まさか「あの」ミハチが隠れシャイニーズファンだとは想像もつかないが、フミはとりあえず自分を納得させる。
「それで、なぜここに?」
「お兄ちゃんならヨイチさんを知ってるでしょ?この前、姉とヨイチさんが二人で会ってるのを見ちゃって……色々考えちゃったの」
「ああ、叔父からはミロクさんの事で話してたって言ってましたけど……でもミハチさんのその事を知ってしまうと……」
唐突にフミは気付いた。大崎家は他の家庭よりも家族の絆のようなものを強く感じる。それが今回のニナの行動ではないか……と。
ニナはブラコンであるが、シスコンでもある。
年の離れた姉に小さい頃から憧れていた。そんな姉が芸能人とはいえ夢中になっていた男性が、今近くにいるのだ。
「……ニナさんは心配してるんですね」
「え!?や、そんな、そんな事ないんだけど!二人ともオトナだし!」
「ふふ、大丈夫です。叔父は人間的にもしっかりしてますから、ミハチさんに何かするとは考えられないです。それにミハチさんですし」
「まぁ、そうなんだけど。この事知ってるの私だけだし、一応ね」
「あ!こんな大事なこと私が知っても大丈夫だったんですか!?」
どうしようとワタワタしているフミは、茶色の猫っ毛髪をポワポワさせて慌てている。その小動物のような動きに、ニナは頬を緩めた、
「いいよ、お兄ちゃんのマネージャーだし、話聞いてもらって楽になった。ありがとう」
笑顔で言うニナに、フミは顔を真っ赤にする。ミロクの妹であるニナも美人の部類に入る。笑い方もミロクそっくりの為、なんだかついポッとなってしまう。
「あはは、フミちゃんって面白い。またこうやって話してね」
「はい!!」
あまり接点のないニナと親しくなれたような気がして、フミは嬉しく思った。
(それにしてもこういう仕事してるからといって、私美形に囲まれすぎじゃない?)
フミはこっそりため息をつき、麦茶のお代わりを飲むニナの整った顔を見ていた。
お読みいただき、ありがとうございます!




