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3、緊急家族会議を発動する。

今日はこれで最後です。

「……というわけで、なぜか再生回数が物凄くて、それによる広告収入が続々入金される感じとなっているんだ」


 ミロクは震えながら報告を終えた。彼はなぜこんな事態になっているのかは分かっていない。なぜなら自分は無職ひきこもり不細工オッサンDTだと思っているからである。

 ちなみに、ひきこもりと不細工以外は合っているのが厄介である。

 毎日出かけているのに基本室内で活動しているから、本人はひきこもっているつもりだが、それはひきこもりでななくインドア派という。


「ふむ。よく分からんが、悪いことなのかい?」


 いまいち事態を飲み込めていない父のイソヤ。


「あら、ミロクかっこよく撮れてるじゃない?」


 動画の再生回数の貢献する母のイオナ。


「うん。しっかり腹筋使って声出してるね」


 歌唱力は問題ないと太鼓判を押す姉のミハチ。


「あ、コメントにヘアスタイルも良いってある!やった!」


 間接的に評価をもらって嬉しい妹のニナ。


「……えっと、そうじゃなくって」


 果たして家族会議の意味があったのか、それは神のみぞ知る……いや、ミロクは気付いたことがある。最後のニナの言葉だ。


「コメント?」


「そうだよ。かっこいいとか歌がうまいとかダンスが上手いとか、変なコメントもあるけど好意的なコメントが多いね。良かったねお兄ちゃん」


(そうか……再生回数が多いということは視聴した人も多いということだよな)


 ミロクの心に嬉しさが広がっていく。

 彼は家族以外で初めて「評価」をもらえたのだ。それは彼の人生の中で、味わったことのない喜びだった。


「でも、これはちょっと恥ずかしいな」


 ミロクは動画を消去しようと思った。

 未だ増え続ける再生回数に驚きながらも、とりあえず最後にコメントを読んでおこうと画面をスクロールしていくと、とあるコメントで手が止まる。


『元気が出ました。ありがとう』







 結局ミロクは、動画をそのままにする事にした。

 もらった温かいコメントを消すのは、小心なミロクでは土台無理な話だった。


「こんな俺の動画で元気になる人がいるんだな」


 ミロクは素直に嬉しかった。とりあえず動画は放置する方向で決定させる。インターネットを閉じて、仕事を始めることにする。


 仕事。

 こんな自分だが、せめてスポーツジムに通ったり、カラオケしたりするくらいの金を稼ぎたいと父親に相談した。


 それは自宅でもできる、内職のような仕事だった。

 父親が会議をボイスレコーダーに録ってある、その内容を文字にして欲しいとミロクに依頼したのだ。

 ミロクにとっては慣れた仕事だった。分かりやすくまとめられる為、父親は頻繁に依頼するようになり、バイトという形で雇ってもらえるようになったのだ。


「ミロク、お父さんから電話で、朝頼んだ資料が今日必要だったんですって。持っていけそう?」


「都心か……あ、最新のひとりカラオケ店があるから帰りに寄ろうかな」


「また動画を流すの?お母さん楽しみだわぁ」


「もうやらないよ」


 ミロクは苦笑して着替えに行く。さすがに今まで着ていたスーツは痩せたせいで合わなくなり、ウニクロのカジュアル服を適当に買っておいたのがあったのだ。

 何とか父の会社で浮かないように……と本人は思っているのだが、高身長な細マッチョ美形になっている時点で無理だということに、本人は気づいていない。

 今のミロクの姿は「どこぞのデザイナー」という格好だ。薄茶のパンツに紺のジャケット、インナーは白のシャツだ。彼が着ればウニクロもウニクロに見えない、チートなイケメン補正がかかるようになっていたのだ。もちろんその事も本人は気づいていない。


「行ってきます」


 父親の会社では決まった端末からしかアクセス出来ず、メールも送れないようになっている。アナログだが紙に出して持って行かないといけない。

 電車に揺られ一時間、ミロクは十年ぶりに都心のビル街に繰り出したのであった。






(困った……)


 ミロクはうっかり携帯を家に忘れてきていた。とりあえず父を呼んでもらおうと受付に来たのだが、目の前の女性が真っ赤になったまま動かなくなってしまったのだ。


「あの」


「ひゃ、ひゃい!」


「父の大崎イソヤを呼んで欲しいのですが…」


「ひゃい!」


「だから…」


 さすがに少し苛つくミロク。彼も聖人君子ではないのだ。

 そこに天の助けか、違う受付女性が現れた。彼女はミロクを見て少し固まったものの、何とか父を呼び出すところまで進めてくれた。

 ほっとするミロク。昼までとはいえ必要な資料ということであったから、早く渡したかったのだ。

 彼の去った後では、ちょっとした騒ぎになっていた。


「しぇ、しぇんぱい!」


「あんたね…何やってんのよ。バカなの?」


「だって、だって…」


「確かにすごくカッコよかったけどね、大学生かしら…」


「ち、ちがうんです!センパイ!」


「どうしたのよ。いつになくオカシイ子になってるわね」


「彼、有名人なんです!たぶんですけど、今話題の動画で…声が一緒でした!たぶん!」


「たぶんが多くない?」


「昼休み動画を確認しましょう!ね!センパイ!」


「はいはい、仕事戻るわよ」




 その日のミロクは、都内のカラオケ店の料金に「やっぱ地元が一番だな」という確認作業をし、夕方からジムに行き爽やかな汗を流したのであった。






お読みいただき、ありがとうございます。

ざまぁ要素も出していきたいです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 今更ながら読み始めました。 ふむふむ、サラブレッドか、、、
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