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250、ロケと台風と。

まったり回です。


 黄色いフワフワな羽毛と、ひっきりなしに聞こえるピヨピヨという鳴き声。


「うわっ、いてぇな。髪引っ張んなよ」


「可愛らしいねぇ」


「……あの、俺の所にいる子が動かないんですけど」


 動物番組のロケに来ていたジャージ姿のオッサンアイドル『344(ミヨシ)』の三人は、動物園のふれ合いコーナーの取材ですっかり黄色い羽毛まみれになっている。ヒヨコたちはピィピィ鳴きながらシジュに登り、ヨイチの膝に乗るヒヨコたちは元気よく鳴いて餌をねだっている。

 そして我らが王子ミロクは、途方に暮れた顔で両手にいるヒヨコたちを眺めていた。動かなくなっているヒヨコたちは、どうやら爆睡しているようだった。


「おいミロク! こっちのと交換しろ!」


「そうだね。動いている方が絵としていいから……」


「分かりました。弱ってるわけじゃないですよね?」


「そんなことはないと思いますが……」


 動かないヒヨコを見て飼育員も困り顔だ。

 ミロクは仕方ないなーと、頭に乗ってしまったヒヨコをどうにかしようと四苦八苦しているシジュのところに行き、自分の持っているヒヨコと交換したが結果は同じだった。


「そういえば、前にもこんなことがあったよね?」


「ミロクの体温が高いんじゃねーの? 子供体温だったりイテテ」


「よし行けピヨ助ピヨ子! シジュさんをやっつけろ!」


「ミロク君はヒヨコ使いの才能があるね」


「ほのぼのした感じに言ってんじゃねーよ。こいつらにつつかれると地味に痛ぇんだぞ?」


「俺はつつかれてないので分からないです」


「僕もつつかれてないなぁ」


「チクショウなんで俺ばっかなんだよ!!」


「はい、カットですー」


 見事にオチがついたところで撮影スタッフからカットが入る。ミロクは少し不満げで、もう少し戯れていたかったようだがシジュが限界だった。

 手を洗っていたオッサンたちにフミは甲斐甲斐しくタオルを渡していると、シジュが「うがー」と声を上げた。


「動物は犬だけでいいー」


「犬といえば、ダイゴロウちゃんがシジュさんの実家に帰っちゃったんで、ニナが元気ないんですよね」


「マジか。なんか悪いことしちまったなぁ」


 ミロクの家に迎えにきたのは、シジュの実家で雇っているハウスキーパーのキヨコだった。彼女に引き渡した時のニナは半泣きで、彼女の頬をペロペロ舐めるダイゴロウの白いモフモフを名残惜しげに撫でていた。

 その事をミロクが言うと、シジュは困った顔で無精髭をさする。


「またキヨコさんに連れてきてもらうか……うちに行ってもいいぜ。今回のことで親父とも話し合えたし」


「ドサクサに紛れてニナをシジュさんの親に紹介しようとか、許しませんよ」


「そんなんんじゃねーっつの」


「シジュが家族と和解できて良かったよ。まぁ、和解というか愛情の空回りだったみたいだけどね」


「いや、あの時は、なんつーか……サンキューな」


 目尻を赤くして照れたシジュを、ミロクとシジュはニヤニヤ見ながら動物園の関係者駐車場に辿り着く。そこに駐車しているロケバスに入り着替えを始めると、中にいたスタッフたちが自然と外に出て行く。うっかり美中年のフェロモン爆撃をうけて、毎度スタッフたちも意識を失ってばかりではいられないのだ。

 外にいるスタッフにフミがお礼を言っているのも、毎度の光景となりつつあった。


「あ! そうそうミロク」


「なんですか?」


「しばらくお前んちに泊まれねぇかな」


「いいですけど、何か、あり、ました?」


 汗でうまく脱げずにいるミロクのTシャツを引っ張って手伝ってやりながら、シジュはため息を吐く。


「弟がこっちの大学入るからって、なんだかんだ俺の部屋に来るんだよ……」


「トウヤ君が? いいじゃないですか。兄弟水入らずで」


「そうだよシジュ、ミロク君のご家族に迷惑だよ。ずるいよ」


「オッサン本音漏れてんぞ……いや、トウヤがいちいちうるせーんだよ。飯はどーするとか、いつ帰って来るんだとか……」


「おお、通い妻ですね。痛い」


「やめれ」


 どこから取り出したのか、緑のスリッパでシジュにすぱこーんと頭を叩かれるミロク。そんな義兄弟のやり取りを微笑ましげに見ながら、ヨイチはシャツのボタンをとめて襟を整える。


「僕らの仕事は時間が不規則だからねぇ……トウヤ君には申し訳ないけど」


「おう。だからトウヤには俺の部屋を勝手に使ってもらうとして、俺はミロクの部屋に泊めてもらおうと思ってな」


「ずるいよシジュ。僕だってミハチさんの部屋に泊まりたいのに」


「そりゃアウトだろ」


「姉さんは出張中なので、別にいいですけど」


「いやアウトだろ」


「そうだった……今ミハチさんいないんだった……」


 漫才のようなやり取りをしながら着替え終わると、タイミングを見計らったようにフミが入ってくる。


「午後にあったモデルの仕事ですが、明日になりそうです。台風で服が届かないみたいで……」


「そういえば今こっちにきてるみたいだね」


「ってことは、一回着替えを取りに帰れるってことか。マネージャー、俺のアパート経由してミロクんとこに送ってくれ」


「分かりました……また何かあったんですか?」


 フミはポワポワな茶色の髪を揺らし小首を傾げると、その可愛らしい仕草に後ろにいたミロクが悶絶している。さり気なく悶絶王子の前に立ったヨイチは苦笑してフミに言う。


「恒例の男子会だよ。明日は午後からでしょ?」


「はい、社長は……」


「ノートパソコンと着替えを事務所から持って行くよ。何かあったら連絡して」


「分かりました」


 流れるように自分自身もミロクの家に泊まる算段をつけたヨイチは、シジュに睨まれながらも「男子会ならしょうがないだろう」と言い訳している。

 夕方には台風がくるという予報に、スタッフ達も早めの撤収に入っている。

 帰り支度をしながら、たまにはゆっくりするのもいいかもしれないとミロクはつらつらと考えていた。





お読みいただき、ありがとうございます。


オッサンアイドル2巻をお手にとってくださった方々、感謝でございます。

これからもがんばります!!

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