表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オッサン(36)がアイドルになる話  作者: もちだもちこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/353

閑話2、岩瀬恭子(39)の場合。

モブ参加企画、グリンダ様『岩瀬恭子キャラ設定』考案いただき、ありがとうございます。

 昨日の夜、お風呂でボディソープを使い切ってしまった。

 今日の朝、カフェオレを飲もうとしたら牛乳が切れてた。

 土曜だから空いてると思った電車は、車両故障で遅れていた。


 そして今。


(しまった……今日必要な資料を忘れた……)













 岩瀬恭子(39)は、出版社に勤めている。

 仕事人間、趣味はネットサーフィン。

 特出すべきものはないと自負(?)しているが、男友達からは「女教師っぽい色気がある」と言われる。どんな色気だか不明だが、きっと需要はないだろう。ヘンタイ反対。

 会社の同僚からも「隙を見せる事こそ女子力アップに繋がる!」などと言われるが、そんな器用な真似が出来るのであれば世の女性は誰も苦労しない。


(…………とにかく落ち着こう)


 雑誌に載せるモデルの撮影に同席して撮影の様子などをレポートにする予定だったのだが、それに必要な資料を会社に忘れて来てしまった。


(今日はミロクさんの撮影だったから、浮かれてたのかもしれない……)


 最近、数冊の雑誌で仕事が多くなってきたモデルのミロクは、現場のスタッフの人気が高い。

 その人気の秘密をレポートにしようという企画だったのだ。

 基本的に土曜日を休みにしている同僚からも、今日の朝一番に「ミロクさんの撮影に入れるの羨ましい!!」と言われたのを思い出す。同僚は会社近くの喫茶店で友人と会うとか言っていなかったか。

 早速同僚に電話をかける。


「そんな訳でごめん、私のデスクに置きっぱなしになってるんだけど…」


<持って行くのはしょうがないけど、カノヒに怒られるよー>


 カノヒと呼ぶのは同僚の友人なのだろう。この業界の人間は休みでも呼び出されることが多い。今回は恭子のミスの為、申し訳なく思っていると……そこでふと思いつく。


「そうだ、そのカノヒさんも撮影の見学するっていうのは?」


<え?いいの?>


「一人くらい大丈夫でしょう。ミロクさんも芸能人てわけでもないし。許可とっとく!」


 現場のスタッフにOKを貰い、資料を届けてくれた同僚とその友人にも謝ったら許してもらえた。

 相変わらずのミロクの王子様スマイルに癒されつつ撮影は終了……と思ったら、同僚の友人が鼻血出して倒れるハプニングが……。

 現場で彼女を笑うものはいない。あんなの直撃したらと思うと「明日は我が身」なのだ。

 慌てたミロクがお姫様抱っこで彼女を運ぶ様を見て、同僚が「この事を言うか言わまいか迷う。カノヒが出血多量になる」と呟いていた……。













「あ、岩瀬さん」


 撮影スタッフに色々と話を聞き終わった頃、例の倒れた彼女に付き添っていたミロクが恭子に声をかけてきた。恭子は驚く。


「私の名前、ご存じでしたか」


「ええ、昔営業やってたんで、人の顔と名前を覚えるのだけは得意なんですよ」


「そんな『だけ』だなんて。ミロクさんはたくさん才能を持ってらっしゃいますよ」


「はは、ありがとうございます」


 照れて笑うミロクの姿にドキっとする。顔が赤くなっても鼻血だけは出さないように、恭子は気合を入れて平常心を保つ。


「あ、お帰りになる前に少しだけよろしいですか?今回の撮影こぼれ話として、ミロクさんの現場での人気の特集を組んだんです」


「え!?俺の!?うわ、嬉しいです!」


 パァっと明るい笑顔のミロクを直視できず、少し目を伏せて資料を見るようにしていると、ふと恭子の頬に人の体温を感じたような気がした。

 気がした訳ではない。

 頬には柔らかい黒髪が触れて、ミロクがすぅっと息を吸うのを感じる。急な出来事に固まって動けない恭子。そんな恭子に触れそうなくらい肩口に顔を近づけているミロク。


「岩瀬さん、この香りって香水?」


 そのままの体勢で話すミロク。心地よいテノール耳を擽り、恭子は必死で意識を保ちつつ首を振る。


「ああ、動くと良い香りがしますね。これ一回姉が買ってきた何かに似た香りです」


「香水……じゃないので……強めの香りのボディソープかも……」


 何とか声を絞り出す恭子。未だにミロクは顔を離さず、「ダークチェリーとかだったかな、姉さんどこで買ってきたんだ?」とか呟いている。クンクンと犬のように恭子の匂いを堪能するミロクは、自重という言葉を知らない。


「あ、あの、売ってる場所分かりますよ」


 パッと顔を離すミロク。少し残念に思ったが、自分の心臓の為にも良かったのだと考える。

 恭子は手早くボディソープが売っていた雑貨屋の場所をメモ用紙に書く。


「ここで定期的に取り寄せてるメーカーのバスグッズにあるはずです」


「わっ、ありがとうございます!」


 メモを差し出す恭子の手を取って喜ぶミロク。手を取り引っ張られた恭子は、ミロクの顔を間近で見てしまう。意外と長い睫毛に薄い唇は艶やかで、にっこりと笑顔を形作っている。吐息を感じるくらいの距離に、恭子の意識は遠くなる。


(ああ、顔が近い、嬉しい、でも辛い……)


 そっと手を離して甘く微笑むと、爽やかに手を振って去っていくミロクに恭子は軽い会釈で返す。

 そしてそのままへなへなと腰が抜ける恭子。

 周りで見ていたスタッフが「災難だったな」「お水どうぞ」などと声をかけてくれる。

 ミロクは現場スタッフから人気があるが、たまにある天然タラシなフェロモン爆撃に、トキメキと怯えを感じている。

 現場の人間のみが知る自然災害のようなものであるが、恭子のレポートにはもちろん書けず、暗黙の了解として存在していくのであった。


 次の犠牲(?)者は、誰になるだろうか……神のみぞ知る。





お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 知人程度の人間で、どんなイケメンでもいきなり顔近づけて匂い嗅がれたら引いちゃうかも。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ