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2、歌って踊って楽しく過ごす。

 カラオケには朝早く行こうと思っていたミロクは、出がけに妹のニナに捕まった。


「お兄ちゃん、ヘアカットの練習台になってくれない?」


「え、ああ、分かったよ」


「ありがとうお兄ちゃん!」


 ミロクは妹に甘い。そして弱い。妹の為というのもあるが、さすがに初夏の陽気のせいで長い髪が鬱陶しくなってきたのも事実だ。

 流行りっぽい髪型カットしてもらい、ついでに髭も剃った。

 久しぶりにさっぱりしたミロクは、鼻歌まじりにカラオケに繰り出すのであった。






 狭い個室で一人カラオケするところもあるが、ミロクが選んだのは普通のカラオケ店だった。

 平日昼間は安いし、人も少ない。一人で来ている客も多いとネット情報にあった為、あまり恥ずかしい思いもせずに入店できた。


(なんか、いつもと違うな)


 喫茶店でも本屋でも、ミロクはいつも嫌な視線を感じることが多かった。今日はそれがないと、ふと鏡を見る。

 髪を切って、こざっぱりしてる自分の姿が映っている。


(そうか、髪と髭のせいか)


 いつも行くスポーツジムにあの怪しげな風体で行って、よくフレンドリーに声をかけてもらえてたと思った。あの場所の素晴らしさを実感しつつ、個室に入って早速カラオケの選曲をする。


(結構アニメの曲が入っているんだな…。あ、踊ってみようで流れてた曲もある。すごいなカラオケ)


 部屋にはカメラが設置されていて、ネットであげずにその場で自分の歌や動きを確認出来るようだ。

 ミロクは知ってる曲を歌ったり、動画でイメトレしたダンスを踊ってみたり、その自分を見て動きを確認したり、かなり充実した時間を過ごした。


(これはいい。家じゃできないダンスの動きを確認出来るし、歌も歌うのも楽しい)


 ミロクは夢中になると極めたくなるタイプだ。

 ダンス、格闘技、歌をひたすら研磨し、一週間が七日じゃ足りないくらい彼の生活はとにかく充実していくのであった。






 三ヶ月で、ミロクの体重は七十八キログラムまで落ちていた。

 ジムで鍛えていたのと母親の食事のおかげで、細マッチョ体型になっていた。

 妹のヘアカット練習台になっているため、髪型は常に彼に似合う髪型だった。


(うーん、前みたいな視線ではないけど、最近なんか変な視線が多いんだよな)


 首を傾げながらスポーツジムに行く彼は、視線を集めている自覚は全くないようだった。

 高身長に細マッチョ。ダンスのおかげで姿勢も良く、妹の髪型も完璧だ。服装はTシャツに麻のシャツとジーンズであるにも関わらず、彼はひたすら注目されることとなる。

 その一番の理由は、ミロクの両親だ。

 彼の両親は美形だ。

 姉や妹も美形に入るのだが、実は一番ミロクが両親の良いとこ取りだったりする。幼い頃から太っていたため、ミロクの中に自分が美形遺伝子を持っているなど、一ミクロンも思っていないのである。


 彼は週二回通うようになったカラオケ店に入ると、いつものように選曲する。

 極めるタイプの彼は、歌って踊るという大技をかましていた。しかも息を切らさずダンスと歌を両立させているのである。もはやプロの領域だ。

 いつも通り自分の動画を確認すると、反省点を洗い出し、インターネットにアップロードしますかで「いいえ」を選んで終了する。


 そう。

 ここで彼、大崎ミロクの人生が大きく変わることとなる。


 彼の最後に撮った動画、それはインターネットにアップロードするかの選択画面で「いいえ」ではなく「はい」と操作をしていたのだ。

「はい」と選択すると、規約の画面になるのだが、一度も「はい」を選んだことのないミロクは流れで「実行」の操作をしていたのだ。


 ネットにアップされたミロクの動画は、ちょうどアクセスが集中する時間帯に公開され、動画を視聴した人達はツイッタラーやインスタントグラムなどで拡散をした。

 拡散に次ぐ拡散。

 それによる評価、カラオケ店への問い合わせ、謎の美青年が歌って踊る動画は、一晩でものすごい再生回数を叩き出してしまったのであった。






 ミロクがそれに気付いたのは、登録している動画サイトからのメールであった。


「再生回数が一万を超えました?なんだ?」


 同じようなメールがその後も続いているようだったから、とりあえず最初のメールの「あなたの動画一覧」へのリンク先へ飛んでみる。

 あなたのといっても、アップした覚えのないミロクは首を傾げながら動画を再生すると……



「な、なんじゃこりゃあああああああああ!!」



 彼は物心ついてから発したことのない、人生初の雄叫びをあげたのであった。






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