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19、家族会議からのオネエ会議。

「父さん、母さん、姉さん、ニナ、俺……モデルやりながら歌手の活動もしようと思う。迷惑かけるかもしれないけど、よろしくお願いします」


 社長との打ち合わせの翌日、夕食の時に家族全員集まるようミロクは頼んでいた。

 勿論ミロクのために家族は全員集まった。姉のミハチは眠そうだったが、それは些細な問題だ。


「決めた事に反対はしないが、きっとそれは大変な道だろう。無理だけはするな」


「母さんはミロクの歌が好きよ。だから母さんに出来ることで協力するわ」


「何かあったら一人で抱え込まない。それだけは守りなさい」


「お兄ちゃんのヘアメイクさせてもらえないかなぁ…。あ、勿論私は賛成だよ!」


 家族の答えはミロクが思っていた通りで、予想した答えをもらったにも関わらず、堪えてた涙を流した。


「父さんは嬉しいんだ。小さい頃のお前のように、やりたい事をやると言っているお前を見れた事が。父さんは本当に嬉しい」


「ごめん、俺なかなか上手く出来なくて、ずっと心配かけて……」


「バカね。上手く出来ないから家族がいるんでしょう?みんながいるんでしょう?決めるのは一人でも、そこからはみんなで進めば良いのよ。こういう時は謝るなって話じゃなかったっけ?」


 珍しく目の下に隈を作っているミハチが、ふんぞり返ってソファに座っている。姉の照れ隠しを感じ取り、ミロクは涙を拭いて微笑んだ。


「ありがとう皆。これからもよろしく!」















(父さん、母さん、姉さん、ニナ……俺は早くも挫折しそうです……)




 翌週、直接ヨイチの事務所まで来るという尾根江からの連絡に、社員全員で出迎えることとなった。

 何がチャンスになるか分からないということで、ミロクのモデル仲間も男女問わずその場にいることとなったのだ。

 そして今、その場の全員から憐憫の目でミロクは見られていた。


「そう、貴方がミロク君なの」


「は、はい。初めまして、大崎ミロクです」


 尾根江加茂は、背は高くがっしりとした外人プロレスラーのような体型で、きっちりとスーツを着ていた。

 が、スーツの色はオレンジ一色。シャツもネクタイも靴も、すべてオレンジ系統の色に統一されていた。

 そんな目がチカチカする姿な上に、髪をオールバックでサングラスをかけ、長い足を組んで座っている様は、ハリウッド映画に出てくるキャラクターのような「濃さ」を感じた。

 そんなガチムチオレンジな人間は、ミロクにこう言ったのだ。


「じゃ、私の膝に乗ってくれる?」


「…………はぁ?」




 ミロクは今、この場にフミが居ないことを神に感謝していた。会議室には男性だけ呼ばれたのだ。

 膝に乗るなど、社長であるヨイチはさすがに断ろうとしたのだが、ミロクの「俺、やります」の一言と、「こちらからは絶対に触らない」という尾根江の言葉で、渋々OKを出していた。


 尾根江はミロクを膝に乗せたまま、お茶うけのケーキを器用に食べている。

 細身とはいえ、ミロクは高身長だしそれなりに筋肉もついている、だがプロレスラーのようなムキムキ筋肉大男の尾根江の前では、どうしても小さく見えてしまっていた。


「さてと、ケーキも食べ終えたし、聞いていいかしらミロク君」


「はい、なんでしょう……」


「何で私の膝に乗ったの?」


「へ?」


 まさか乗れと言われた本人にそんな事を言われるとは思わず、ミロクは戸惑っていたが、尾根江のサングラスの奥にあるであろう鋭い目を感じて居住まいを正した。


「そうですね。まず命令じゃなかった事。あとは絶対触らないと言ってた事。社長が同席していた事……」


「同席していても私に襲われるかもしれないわよ?」


「それは絶対ないです。社長は俺を必ず助けてくれます」


 そう言ってヨイチを見ると、温かく微笑んで頷いた。ミロクも嬉しくなって笑顔になる。


「……そう、信用……信頼しているのね」


「はい。あと……」


「ん?まだ理由があるの?」


「ええ。尾根江プロデューサーの膝に乗ったって、今日家族に自慢しようと思いまして……」


「はい?自慢?」


「あ、はい。これって何かの試験かなって思いまして。まさか皆のいる前で膝に乗ることになるとは思わなかったから、やっぱり大物プロデューサーは違うんだぞーって……」


 ミロクは気づいていなかったが、ヨイチは血の気が引いていた。こんな事を言おうものなら、ミハチ……いや、彼の家族から何を言われるか。最悪死を覚悟せねばなるまいと、武士の顔で遠くを見ているヨイチがいた。


「……おたくの社長のために止めてあげなさい。切腹間際みたいな顔になってるわよ」


 気の毒そう言った尾根江に、ヨイチは涙目で会釈した。かろうじて彼は生き長らえたようだ。


「これは確かに貴方の反応を見るためだったけど、実際座った人間は貴方が初めてよ。

 見かけは大学生みたいで、年齢は三十六、性格は子供のようにピュア……そのアンバランスさが魅力的で、危ういわね」


 尾根江はサングラスの奥の瞳を光らせた。


「気に入ったわ。ミロク君と、あと二人ね」


 ヨイチは頷いて、歌やダンスの出来る人間を確認する。事務所スタッフ総出で資料を揃えていく。


「社長とそこの元ホストっぽい子、三人でメインだからよろしくね」


「「は?」」


 呼ばれたヨイチとシジュは固まった。持っていた資料がバサバサ落ちていく。



「「はああああああああ!?」」



 おっさん二人の悲鳴を聞きながら、ミロクは一人じゃないなら良かったとホッとしていたのだった。





誰が言った、アイドルになるのが主人公だけだと……!


……すみません、言いたかっただけです。

お察しの通りの展開でしょうか。

お読みいただき、ありがとうございます!



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