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154、顔合わせ後の監督とオッサンと子犬。

イベントまで辿り着かなかった…

「いやぁ!  如月社長! 君の話、信じて良かったよ!」


「今日は344(ミヨシ)として来たので、ヨイチで良いですよ」


「そうだったなヨイチ君! 原作者とかいう小娘の言うことを聞くとか、何を言ってるんだと思っていたが彼は大当たりだよ!」


 顔合わせに遅れたヨイチは、なんとか滑り込んで挨拶することが出来た。室内のおかしな空気に何があったのかシジュの視線で理解する。まぁ、失神者が出ていないだけ良かっただろう。脚本担当はメガネの男性に抱えられて途中退場していたが、彼女は学生だし作家は色々と忙しい……はずだ。

 解散となった今、昔からの知り合いである監督に声をかけられるヨイチは、注目されるのを感じつつ、素知らぬ顔で監督の呼びかけに応じた。


「監督には昔もお世話になりましたから、是非とも才能ある人間を使って頂きたかったんですよ」


「それには君も含まれているんだろう?」


「もちろんですよ」


 ヨイチはシャイニーズ時代にドラマで「主役を食ってしまった」ことは、この業界では有名だ。名も無き端役で出たヨイチは、台詞もない状態で存在感を出し、放送翌日に出番を増やすよう視聴者から大量の投書があった。その頃駆け出しだった監督が配役に対し、タレント事務所や周りに逆らえず言いなりだったのが原因の一つだ。その後は急きょ台本を変更してヨイチの出番を増やし、監督は苦労したと豪快に笑う。


「あの時の失敗はしないよ。あのシジュ君だっけ? 彼も名乗っただけでなんとも言えない気分になった。彼は脚本によって大きく変わるだろうね」


「シジュもミロク君も素人ですが、彼らの力を引き出せれば……」


「分かってるさ。俺だって成長してない訳じゃないぞ。それなりにこの業界で力を持っているからな」


「頼りにしてますよ」


「任せとけ」


 再び豪快に笑う監督に、ヨイチは安心したように切れ長の目を柔らかく細めた。そんな彼の様子に周りの女性は思わず歓声を上げる。


「相変わらず……いや、磨きがかかったのか?」


「僕は今が全盛期だと思っていますよ」


「そりゃ楽しみだ」


 そう言いながら去っていく監督の背中に、ヨイチは深く一礼をした。そんな彼に話しかけたそうにする女性達をやんわり下がらせ、シジュがヨイチの側に来る。そこでも小さく歓声が上がる。


「悪ぃなオッサン。ミロクの奴、これでも軽くやったつもりみたいでなぁ」


「いや、良い感じだよ。役に入った事によって、本来のミロク君のフェロモンが抑えられている」


「アレでか?」


「……と、思う」


 ため息まじりに言うヨイチの言葉に、ガックリとうな垂れるシジュ。


「で、我らが末っ子はどこにいるのかな?」


「ああ、早速子犬に噛み付かれている」


「やれやれ」


 困った子だと言いながらも、どこか嬉しそうに二人はミロクの所へと向かうのであった。




 そして、シジュの言う通り末っ子のミロクは、金髪から茶髪になった子犬に噛み付かれている。


「お前、目立ってんじゃねぇよ! 今日配られた台本で勝手に演技するなんて!」


「あれは台本じゃないよ。原作の一文だから」


「台本にあったじゃねぇか!」


「そりゃあ、原作の人が脚本書いてるみたいだから、台詞が同じなのはしょうがないんじゃないの?」


 キャンキャン噛み付く子犬に所詮牙は無い。せいぜい甘噛み程度の相手にミロクは知らず笑顔になる。それをモロに受けた茶髪の子犬ことKIRAは、顔を赤くした自分を誤魔化すように叫んだ。


「お前、デビューして一年も経ってねぇのにタメ口きいてんじゃねーよ!」


「ああ、それはすみません。これで良いですか?」


 再びニッコリと笑顔で返すミロクに、KIRAは顔をさらに赤くして言葉が続かずに口をパクパクさせている。

 そこにタイミングよくヨイチとシジュが来て、KIRAの所にはメンバー二人が慌てて止めに入っている。


「なんだよお前ら、離せよ!」


「やめなよ。この人達年上だし……」


「デビューは俺らが早いんだ!関係ねぇよ!」


「シャイニーズの先輩も来ましたし、ここは引きましょう」


「うるせぇ!辞めたヤツの事なんか知るか……」


「KIRA君!!」


 先程まで女の子のような仕草をしていたメンバーの一人ROUが、鋭い声でKIRAを制する。ヨイチは片眉を上げたが何も言わず若者達を見ていて、シジュとミロクはそんな長兄の様子に何かを察して黙ったままだ。


「な、何だよ……」


「行こうKIRA君。ヨイチ先輩失礼します」


「気にしなくてもいいよ。事務所は違うんだから」


「いえ……はい。すみません」


 KIRAを引きずるように去っていく若者三人を見て、ヨイチは苦笑する。


「本当に気にしなくても良いんだけどなぁ」


「ヨイチさんがそう言うなら俺は良いんですけど、危うくキレる所でした」


「ミロクがキレるなんて珍しいな。いや俺も今はヤバかったけどな」


「優しいメンバーがいて、僕は恵まれているよ」


 微笑むヨイチに釣られ、二人にも笑顔が戻り、遠巻きに見ていた関係者もホッとした雰囲気になる。

 ここにはマスコミ関連の人間は居ないが、今回の騒ぎはどこかで取り上げられるかもしれない。それでもヨイチは何も心配することはないと言った。


「まぁ、ここで騒ぎになって困るのは僕らじゃなくてシャイニーズの副社長だからね。あっちが頑張って色々動くと思うよ」


 悪い笑顔を浮かべるヨイチを、シジュは大袈裟に怖がってみせた。そんな彼を小突いてから、ヨイチはミロクに目を向ける。


「それにしてもミロク君、さっきはよく我慢していたね。あの子に色々言われたんだろう?」


「さっきの……ああ、主役の子ですか? 彼って可愛いですよね。反抗期の弟みたいです」


「反抗期の、ねぇ」


「これは相手に言わないようにな。ミロク」


「分かってますよ。反抗期の子に反抗期と言うことは教育上逆効果ですから」


「教育すんのかよ」


「はは、教育的指導ってヤツだね」


「なんかその言い方は物騒だぞオッサン!」


 なんだかんだ言いながらも、彼らは一度事務所に戻る事になった。本来ならここで台本の読み合わせなのだが、今回は何故か後日という事になっていた。原因の一つにミロクの存在があるのは確かだろう。

 波乱の展開が予想されるドラマ撮影の前には、344(ミヨシ)には初のCDアルバムの発売日が迫っているのだった。



お読みいただき、ありがとうございます!


次回、フミちゃん帰って来ます。

オッサン出ずっぱりだったので、女子成分を補充せねば……

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