151、飛び入りライブ終了後、司会アナウンサーとのやり取り。
実家から帰還しました。
年も明け、シャイニーズの人気ユニット『TENKA』のスペシャルライブが終わった。
司会者のフリーアナウンサーの男性が、先ほど飛び入り参加したアイドルグループと、演歌歌手の中森小夜子に舞台へ上がるよう呼びかけている。
「え? いいんですかね?」
「小夜子さんがいいって言ってるんだから、大丈夫だと思うよ」
「俺、こういうのが一番緊張すんだけど……」
「ほら、行くわよ三人とも」
引きつった笑顔を浮かべる若者三人と、やけに色気を振りまく中年三人、その並びに何者かの意図を感じるヨイチ。しかし今アナウンサーと絡めるこの状況は、これからの事を考えると好ましい展開だ。
そもそもヨイチは売られた喧嘩を買ったつもりでいる。サイバーチームと彼の集めた情報によると、昨今の仕事の減少はシャイニーズ事務所副社長の妨害であるのは明白だ。
一瞬黒い笑みを浮かべる彼を見た小夜子は、楽しそうにクスリと笑う。
「復活したと思ったら、楽しそうなことになってるのね」
「小夜子さんには迷惑かけませんよ」
「今回のは?」
「昔の借りを返したと思ってください」
「ふふ、分かったわ」
イブニングドレスのようなデザインの衣装に身を包んだ小夜子を、燕尾服に身を包む美丈夫三人がエスコートする様子はスタジオにいる人間を皆うっとりとさせた。自分もこうされたいというような、そんな憧れを抱かせるような光景なのだ。
オッサンアイドルよりも身長が低い若者三人組は、年齢では負けていないという気持ちはとうに失っている。彼らに飲まれないようにするので精一杯だ。何せ彼らは大物歌手の中森小夜子と堂々とステージに上がれるのだ。しかし、それは若者達が勝手に誤解しただけである。堂々としているのはヨイチだけで、ミロクは動じない性格だし、シジュは長男に丸投げしているだけだ。
皆が舞台に上がったところで、アナウンサーがテンション高く話し始める。
「小夜子さん、これは異色の組み合わせですね! 私でさえも打ち合わせでは聞いていなかったサプライズでした! 慌てて番組プロデューサーに確認しちゃいましたよ!」
「彼ら、344(ミヨシ)のファンである私が無理を言って来てもらったんです」
「ファン、ですか?」
「数か月前にデビューした彼らは、シングルチャートで五位以内になったのよ」
「そうなんですか! 確かに自分も聞いたことのある曲だと思っていたんですが、それならば納得ですね!」
この壮年のアナウンサーはアニメをみていないようだが、344の曲はCMでも使われている為に耳慣れた曲になっているのだろう。
「何よりも彼……ヨイチ君とは昔からの知り合いなのよ」
「お知り合いですか……んん? 彼はどこかで……ああ!?」
驚くアナウンサーを嬉しそうに見る小夜子に、ヨイチは苦笑して会話を引き継ぐ。
「はい、僕らの344公式ホームページには載せているんですけどね、元シャイニーズ事務所『アルファ』のヨイチですよ」
現場が一気に凍り付く。
最近はかなり緩くなってきたとはいえ、シャイニーズ事務所に関わる発言は色々と制約がかけられる。その中でも衝撃的な終わりだった『アルファ』は、特に社長のお気に入りだったこともあり、無闇に発言出来ないはずだ。それをさらりと語ってみせたヨイチ。
「シャイニーズの社長とは今でもやり取りしているんですよ。今日の事も喜んでいました。社長は小夜子さんのファンでもありますからね」
「そんなんですか! 心温まるエピソードですね! それにしても……」
アナウンサーはヨイチの隣にいるミロクとシジュを見る。
「見事に揃えましたね。いやいやすごい色気というかなんというか……」
心なしか顔が赤くなっている男性アナウンサーに、しびれを切らした若者三人が会話に入ってくる。
「あの! ということは俺らの先輩ってこと!?」
「でもデビュー半年って」
「年上には敬意をですよ」
ミロクは若者三人を改めてじっくりと見る。金髪の彼にはそれほど感じなかったのだが、他二人が加わると違和感がすごい。
白い詰襟の服に、金髪、ピンク髪、青髪というカラフルな三人。
(ピンク髪の女の子ならヒロイン枠なんだけどな……男かぁ)
ミロクのその視線に『可愛い男子キャラ作り』をしているピンク髪の青年は、なぜか高まる自分の鼓動に戸惑い黙り込んでしまった。青い髪のメガネをかけた『敬語キャラ作り』の青年はシジュの男くさい笑顔になぜか頬を赤らめている。そんな二人の様子に金髪青年は内心この流れをつかめなかったことに地団太を踏む。そんな金髪青年も先程ミロクの笑顔で腰砕けになった為、強くは言えないのだが。
若者三人と中年三人の対決……にもならなかったトークは終了し、このまま朝まで去年の音楽ランキングを放送していく番組に切り替わったのである。
「それにしても、彼らはヨネダ先生のドラマに出演するって話でしたよね?」
「あの髪の色はすごかったよな。ミロクの読んでるラノベにはあるけど、実際見るとちょっとなぁ」
「さすがにドラマは現代ものだし、高校生役だから染めるんじゃないかな?」
あのカラフルヘッドは無いよなーと、これが若者文化なのかと話すオッサン達。それは若者に失礼だぞオッサン達。
フミが不在だとツッコミ役が居ないので、彼らの色々なものが野放しだ。
飛び入り出演のため控室のない三人は、テレビ局の外に置いているマイクロバスへと乗り込んだ。さすがに燕尾服は目立つので着がえようと話していると、走って追いかけてきた番組スタッフに呼び止められる。
「す、すみません!! これ、サインお願いします!!」
「え? あ、はい」
戸惑いながらもミロクは色紙を受け取る。三枚あるので一人一枚だ。何だかやけに良い色紙だと思いながらペン走らせていると、ヨイチが疑問を口にする。
「これ、誰宛ですか?」
「中森小夜子さんです」
「ああ、そう、ですか……」
ヨイチが心なしかゲンナリとした顔をする。ミロクとシジュは彼女と初対面のようなものだが、ヨイチは昔からの知り合いらしい。
帰ったら問い詰めようと、弟二人は悪い顔で笑い合うのであった。
お読みいただき、ありがとうございました。
母にせっつかれたので、本日更新です。
そう。母です。母は強しです。
でも応援してくれているので、ありがたいですわーん(´∀`*)