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149、天下を取りたい三人組と、気合いを入れる三人組。

遅くなりました……

(俺が、負ける訳がない)


 サラサラな金髪を少し乱暴にかき上げて、彼はスタジオで歌う大御所の姿を見る。スペシャルメドレーとして歌う彼女は、彼のようなデビューして数年のアイドルとは違い、重厚感のあるオーラを出している。

 生放送でも普段と変わらず大らかに歌う様子に、再び彼は俯く。


(大御所? それがなんだって言うんだ)


 キラキラしている自分の衣装見て、歌っている大御所のスパンコールの衣装を見る。キラキラ具合は同等だと変な所で共通点を見つけた彼は、情けない気持ちになり大きくため息を吐いた。


「KIRA、どぉしたのさ! ボクらは年明けたらすぐ出番なんだヨ!」


「ROU、それキモイからやめろよ」


「可愛い男のコっていうのが事務所の方針だから、しょうがないでショ!」


「キモイ」


「KIRA、いくら君が毒舌キャラでも、それはいただけませんよ」


「敬語キャラだからって、お前も充分にキモイし」


「かなり作り込んでいるよネ! ZOUはメガネもかけてるし!」


「完璧です!」


「……何が完璧だよ」


 デビューして数年。シャイニーズ事務所に所属している彼らは、三人組の「TENKA」というユニットを組んでいる。その名の通りアイドル界の天下を取れと、シャイニーズ事務所の副社長に付けられた名だ。

 彼らはそれぞれ『キャラクター』を演じるように言われており、それは事務所の方針であり決定事項と言われた彼らが逆わずに従った結果、短い期間で『売れっ子アイドル』という称号を得た。

 演じることは嫌いではないが、アイドルとして己を偽り演じるというのは抵抗がある。

 KIRAは幸いにも『毒舌、ツンデレ』と言われているので、本来の自分をそのままにしているのだが、メンバーの二人の『可愛い、あざとい』と『敬語、頭脳明晰』は中身と全く違うので、彼からすると気持ち悪いのだ。


「結局、事務所の奴らの言いなりじゃねーか」


 大御所の歌は佳境に入っている。その時スタジオがかすかに騒めき始めているのに気づく。KIRAだけではなく、他のメンバーもキョロキョロと周りを見回す。


「おい、モニター見てみろよ」


 歌っている大御所の右下に、ワイプと呼ばれる別画面が出ている。最初はスタジオの観覧者達が映っているのかと思ったが、そうではない。


「こんな事やるって、台本にあったか?」


 マイクロバスから降りてくるスーツを着た三人の男性。

 テレビ局に入って行く彼らを追って行くカメラ。その様子が女性歌手の映っている画面の右下にワイプで映っている。


「こんなの、台本に書いてあったか?」


 掠れ声で呟く彼の言葉に応えはない。唖然とするスタッフ達。観客の所々から黄色い声が上がる。

 そんな混沌とした中を、大御所である女性歌手の朗々と響く歌声だけが、絶えずスタジオ内に響き渡っていた。







 月二回ほどお世話になっている動物番組のスタッフが迎えに来たのは、ラジオのスペシャル番組の収録を終えた大晦日の夕方だった。ミロクはヨイチの作戦を聞いてもなお半信半疑であったが、迎えに来たスタッフ達を見て顔色が変わる。隣でシジュも「マジでやるのか……」と呟いているから、信じなかったのはミロクだけではなかったようだ。

 そこにピンクブラウンの髪が、マイクロバスの窓からぴょこりと覗く。


「兄さん!」


「ニナ! どうしてここに?」


「年末でスタイリストとメイクの人が確保できなかったんだよ。そこでニナちゃんに出張してもらったんだ」


「今日はお給料も出てるし、大丈夫だよ兄さん」


 ミロクはニナに頼んで、色々と髪の毛のセットやカットをしてもらう事を嫌っている訳ではない。彼女が無償で働くことが嫌なのだ。それを知っているヨイチは今回きちんと『雇って』くれたようだ。


「さぁ、早く車に入って。移動しながらセットするから。着替えも車の中でね」


「わかった」


 車の中で本番に向けての打ち合わせが始まる。運転しているのは動物番組のスタッフだが、今日は歌番組のスペシャルで入っているらしい。番組プロデューサー、ディレクター、カメラチームなどが手を組むサプライズ企画だ。


「俺らが行くのがサプライズになるんですか?」


「それ。それ俺も思った。大丈夫なのか?」


 不安がる二人に、ヨイチは切れ長の目を細めて二人に鋭い視線を送る。


「いいかい? それを大丈夫にするのが僕らの、『アイドル』という仕事だ。周りを巻き込み、虜にし、味方にする。常に注目させて、全ての人間に僕らを見せて『魅せる』んだ」


 一度言葉を区切り、フワリと微笑むヨイチの表情は柔らかい。ミロクとシジュに向かい合って、後頭部を掴み自分に引き寄せる。

 一瞬身体を固くした二人だが、その体温にゆっくりと力を抜いていく。


「君たちは、いつも通りにやればいい。僕を信じて」


「それは、信用してます。ジムで出会ったあの時から変わりません」


「オッサンの年の功を疑っちゃいねぇよ」


 ミロクの頭を撫で、シジュの額を小突くヨイチ。贔屓だ!と騒ぐシジュに皆が笑顔になる。


「まぁ、ミロク君に関しては何も心配してないけれど、一応保険かけておこうかな」


「保険ですか?」


「フミは実家に行ってるだろう? だから側にいられないから、テレビみてるって言ってた」


「フミちゃんが……?」


 その言葉にミロクは微笑みを浮かべる。バックミラーで様子を見ていた番組スタッフが、慌てて視線を外す。一度経験している為、ミロクのフェロモンに対処出来るプロである。

 うっとりとしたミロクがフミに思いを馳せる横で、シジュは地味にダメージを受けていた。


「うぐっ、いつになく激しいな」


「フミとしばらく会えてないからね。溜まっているんじゃないかな?」


「フェロモンって溜まるのか?」


 シジュはニナを見るが、彼女はミロクの笑顔に動じることもなく首をすくめてみせた。


「兄さんが恋をしたのは初めてだし、いつもより笑顔が甘いなーってくらいしか分からないかな。家族だし、兄さんの笑顔は見慣れているから」


 それでも……と、彼女は少し頬を緩める。その表情は大人びていて、それでいて未だ恋を知らない彼女の焦がれるような瞳の光を、うっかりシジュは見てしまう。


「お、俺、着替えてくる」


 後ろの座席に移動するシジュを見て、ヨイチは苦笑する。逃げた彼を責めることはしない。自分は大崎家の血に魅せられて囚われた人間だから、むしろここまで何もなくいられるシジュを密かに尊敬しているくらいだ。


「お兄ちゃん、惚けてないで髪をセットしたいから着替えて!」


 ニナにせっつかれているフワフワしたミロクを見て、ここまで力を抜けとは言ってないんだけどとヨイチは小さくため息を吐くのだった。





お読みいただき、ありがとうございます。

今年は、あと一話の更新予定です。

よろしくお願いします。

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