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148、与一の策謀と、仁奈への依頼。

修正のお知らせです。


クリスマスの閑話を本編としました。


ヨネダ先生とミロクの出会いを名札→本の帯の顔写真へと変更しました。


色々とすみません。

よろしくお願いいたしますm(__)m

 早朝のモデル・タレント事務所では、早めの冬休みを取らせた社長である如月ヨイチが、パソコンを前にして作業をしている。

 メガネのフレームを右手でクイッと上げると、所属タレント達のスケジュールを見直していく。


「344(ミヨシ)は大晦日にラジオ放送のスペシャルに出演。チェケラさんの番組にゲスト出演して……」


 テレビの歌番組は、さすがに呼ばれてはいない。週に一度の深夜番組には呼ばれてはいるが、特番枠の仕事のオファーは来なかった。


「ここにきてメディア……特にテレビ番組の出演が無いのは、動いたかな?」


 面白くなってきたと微笑むヨイチ。どうしてくれようかと考えている彼だったが、事務所のドアの開く音にパソコンの画面から顔を上げる。


「おはようございます!」


「うはよーっす」


「おはよう。今日も休みにしているのに、どうしたの?」


 メガネを外して顔を上げるヨイチに、ミロクとシジュは苦笑している。


「それはヨイチさんでしょう。何か手伝えることがあったら言ってくださいよ」


「老眼メガネのオッサンに救済をってな」


「これはパソコン用のメガネだよ!シジュは僕とひとつしか違わないのにいつもー……」


 そう言いながらも嬉しそうにシジュの前に書類をドッサリ置いて、彼の顔を引攣らせる。ミロクはいつもフミがしているように、パソコンの操作を始める。


「慣れてんな。ミロク」


「フミちゃんの行動は把握しているので、ヨイチさんのサポートは任せてください」


「……それもどうかと思うぞ」


 シジュは少しミロクの言葉に引いていたが、彼にとっては普通の事だったりもする。

 元々仕事の出来るミロク。前の会社で冷遇されていたにも関わらず、営業等の実績を上げられたのはその「観察眼」にある。

 自分を、相手を、周囲を観察することで、彼は次に何をすべきかを常に一手二手先を見て行動していた。

 冷遇されていた為に仕事を教えてもらえない。過去のイジメなどのこともあり彼は非常に用心深い。

 それは今も変わらず、シジュとのダンス指導やヨイチとのやり取り、そしてフミの仕事の様子など常々ミロクは観察していた。

 普通の人間がなかなか出来ない事を、ミロクはすぐにモノにできるのはそこにある。


「ミロク君のは才能じゃなくて努力の結果だというのは分かるんだけど、努力できる才能っていうのもあるらしいからねぇ」


「俺には絶対無理だ」


「言っておくけどシジュにもあるからね? ホストしながらもダンスのクオリティ下げないって、どれだけの事だと思っているのやら……」


 二人の弟分に呆れ顔を見せているヨイチも、その経営手腕と魔法のようなスケジューリングの管理が凄まじい。

 負担を最小限にし、移動時間、休憩時間、それぞれがどう動くのかの捉え方が立体的なのだ。フミも上手い方だが、詰まってくるとヨイチに頼って調整してもらっているくらいだ。

 そんな複雑な作業を鼻歌交じりに出来るのは彼くらいだろう。


「さて、じゃあ前倒しで打ち合わせをしようか」


「ラジオのスペシャル番組の事ですか?」


「うん。それもあるけどね」


 その切れ長の目を妖しく光らせニッコリと微笑むヨイチに、ミロクとシジュは何やら寒気を感じる。こういう戦闘態勢をとっている彼を止められる人間はここにはいない。彼女は北関東と呼ばれるはるかかなたに居るのだ。


「フミちゃん……早く帰ってきて……」


ヨイチは黒い笑みを浮かべたまま、ミロクとシジュの肩がっしりと掴んで、会議室に引きずり込んでいくのだった……南無。







「大崎さん、ちょっといい?」


「はい」


店長の声に返事をし、ニナは見送る客にお辞儀をすると店内の奥に進む。

若作りをしているわけでもないのだが、なぜかバイトと間違えられる三十代妻子持ちの彼は、この店の店長でありニナの上司である。そんな彼は今、シフト表を見ながら眉間にシワを寄せていた。


「店が休みの日で悪いんだけど大晦日から正月にかけて、手当出すから出張でヘアセットしてくれない?」


「え? それはいいですけど、珍しいですね。こんな無理矢理な仕事を店長が引き受けるなんて」


客のニーズに応える為に、早出や残業はよくある事だ。それでもこの店長は必ずと言っていいほど、スタッフの都合を聞いてから仕事を入れてきた。今回はかなり珍しいケースと言えるだろう。


「依頼主は如月事務所だよ。君のお兄さんも居るところだから……あと、カットモデルで写真撮らせてくれるって言うから……」


「……それが本音ですか」


呆れた顔をするニナに、店長は「そうは言うけどー」と唇を突き出し上目遣いでニナを見る。可愛くはない。ニナから見れば兄以外の男は皆道端の石ころ同然なのだ。


「オッサンアイドル344(ミヨシ)をモデルとして起用する雑誌が増えている今、彼らを使ってうちの店の宣伝が出来るなんてすごい事なんだよ?」


「そんなに兄達は売れてるんですか?」


「そりゃテレビ業界にはまだあまり出ていないけれど、他のメディアでは引っ張りだこだし、業界関係者は皆狙ってるって話だよ」


「……それ、誰から聞いた話ですか?」


「出版社の人と、テレビ番組関連の制作会社の人」


「顔広いですね」


「まぁ、ね」


おちゃらけて話していた彼は、ふと真面目な顔になる。


「普段こういうゴリ押しはしない人だ、と、思うんだけど」


「そうですね。社長のヨイチさんは身内みたいなものですし、手当が無くても動きますよ。店も休みですから迷惑かけませんし」


「いや、そこはうちの店の名を出しておいて欲しいな。まぁ宣伝みたいなものだよ」


「そう、ですか?」


「そうだよ」


にこりと笑う上司に、ニナは心の中で頭を下げる。仕事という名目で店の名を使って動けるのなら、それが良い場合もある。店長の様子から何か起きるのか起こすのか、何にせよ兄が絡むのであればニナは迷わず受けるだけだ。


「分かりました。でも、ヘアモデルの時にあまり変なカットにしないでくださいね?」


「分かってるって。じゃ、よろしく大崎さん」


そう言ってバイト顔の店長は仕事に戻っていった。残されたニナは渡された業務内容を確認する。

そして彼女は珍しくも笑顔を浮かべた為、客はおろかスタッフ一同を骨抜きにし、店の機能を一時的に停止させる騒ぎを起こしたのであった。





お読みいただき、ありがとうございます!


ミロクの設定を一部公開……(´ω`)

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