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17、恥ずかしさと新たな弥勒。

 梅雨も明け、初夏の陽気で汗がにじむ。

 冷房の効き過ぎた電車を降りると、潮の匂いが微かにした。今日の撮影現場は海近くにある公園だ。

 ミロクはカバンを持たないタイプだが、最近は暑くなってきたのもあり日焼け止めスプレーとタオルくらいは持ち歩くために、小さめのクラッチバックに入れて持っていた。

 スタイリストさんからもらったカジュアルなシャツと黒のジーンズ、キャスケット帽に黒縁メガネで歩くミロクだが、やはり目立ってしまう。

 細身とはいえ引き締まった体に高身長、口元しか見えなくても整った顔であることを予想させてしまうスッと通った鼻と薄い唇、すれ違う女性たちはそれぞれ振り返ったり、有名人かと小声でやりとりする様が伺えた。


(姉さん直伝の帽子メガネが限界かな……)


 数ヶ月前とは違い、さすがに最近は自分の容姿を自覚している。それでも自分に好意を寄せてくれる女の子がいるという事実は、長年の実績(?)もあり、まだ受け入れられない部分でもあった。

 現場に向かって歩いていると二人の女子高校生達に声をかけられる。


「あの、モデルのミロクさんですか?」


「あ、はい。そうですが」


「踊ってみようの動画に出てた方ですよね?」


「はぁ、まぁ……」


「「歌って踊れる白い王子様だ!!きゃぁー!!」」


「はい?」


 何だそれは。

 ツッコミどころがありすぎる謎の通り名について聞いてみると、あの動画がミロクであるという事が、そこはかとなく噂になっているようだ。

 そこまでは良いのだが、ミロクの色白な所をピックアップして「白い王子様」と呼ぶファンが現れ、あの動画と合わせて「歌って踊れる白い王子様」となった……らしい。


(なにそれ、めちゃくちゃ恥ずかしい……)


 サインを求める高校生二人に対応しながらも、ショックと恥ずかしさのあまり早々に退散する。

 フミがいないことが精神的にキツいのを実感する。この変な通り名の件も、彼女なら上手いことミロクを慰めることが出来るだろう。

 しょんぼりしながらグループトークにこの事を送ると、即シジュから反応があり「俺も知ってた。有名だぞ」とあり更に落ち込む。


(白い王子様って呼ばれるのだけはイヤだ。どうすれば……むむむ……)


 それを言うなら先日の投げキッスの方が恥ずかしいのではと、ヨイチがいれば確実につっこんでいたであろう。

 ミロクの『恥ずかしいボーダーライン』の基準は謎である。












 撮影は昼過ぎに終わり、ミロクは撮影スタッフ全員に声をかけてから駅に向かおうとしてると、見慣れた車が横に着く。

 茶色のフワフワ髪がピョコっと車から飛び出す。


「お疲れ様です!迎えにきましたミロクさん!」


「フミちゃん!」


 笑顔のフミを見て、泣きそうなくらい温かい気持ちになり、癒されるミロク。

 そんな嬉しそうなミロクを見ると、フミも嬉しい。でも、少し苦しい。

 その気持ちを言葉にするのは難しく、これからを思うとフミは複雑な気持ちになってくる。応援しなきゃという思いと、このままでいて欲しいという身勝手な思い。


「朝は不在ですみません、この後急きょ事務所で打ち合わせが入ったんですけど、大丈夫ですか?」


「打ち合わせ?」


 車に乗り込む二人。

 しばらく無言で運転していたフミだが、後部座席にいるミロクをミラー越しにみると、鏡越しにミロクと目があって慌ててしまう。


「ちょ、大丈夫?」


「は、はい、すみません、大丈夫です!」


「……打ち合わせって何かな。俺なんかやっちゃった?」


「違います!そうじゃなくて……言ったら良くないとは思うんですけど、用件だけでも知りたいですよね」


「うん、そうだね。怒られるとかじゃなければ良いんだけど」


「だから違いますって。……ミロクさん、歌うの好きですよね?」


「まぁ、カラオケで歌うくらいにはだけどね」


「そっちの方の仕事もどうかなって話だと思います」


「そっちって、歌うこと?」


「はい」


「カラオケで?」


「そうじゃなくて」


「……え?……歌手になるってこと!?」


 フミはバックミラー越しのミロクに向かい、真剣な顔でコクリと頷いた。











お読みいただきありがとうございます!

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