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143、学生作家の一生懸命。

少し落ち着きました。


「お見苦しい所をお見せしまして……」


「……大丈夫です」


 謝るフミの後ろから入って来たのは、制服を着ている女の子だ。流石に外部からの客を前に騒いでいたヨイチとシジュは慌てて居住まいを正す。その微妙な空気の中で、ミロクは見覚えのある女の子に気付いて驚く。


「ヨネダヨネコ先生!」


「え? この人が噂の?」

「この前ミロク君が会ったっていう?」


最近、ミロクからラノベを借りているヨイチとシジュは、一斉に彼女に注目する。大きめの黒縁メガネをかけたヨネコは、恥ずかしそうに小さくお辞儀をした。


「うん、いいね。セーラー服」


「オッサンなんかヤラシイぞ」


「今日はどうしたんですかヨネコ先生。……あ、もしかしてドラマの?」


 オッサン二人の会話は置いておいて、ミロクはヨネコに優しく問いかける。そんなミロクの笑顔に少し頬を染めながらも、彼女はおずおずと話し始める。


「担当編集さんが、私を連れて行ってくれなくて。でも私からもドラマに出て欲しくて、お願いしようって思って」


「えっと、川口さんですよね? なんで一緒に来なかったんですか?」


「私が変な事を言うからって」


 変な事? と、首を傾げる大人四名。ああ、そういえばとミロクが口を開く。


「そういえば、俺が初めて本屋でヨネコ先生に会った時、自分の平積みの新刊の上に、既刊本を置こうとしてましたよね」


「あん? なんでそんな事するんだ?」


「なんか、過去の本も知って欲しいからとか、言ってましたね」


「それは……変な事してるね」


 なるほどと納得するオッサン三人の様子に、さすがにヨネコは恥ずかしくなったのか顔を赤くして俯く。そんな彼女を宥めるように、フミは温かい紅茶を出してやっている。


「なんにせよ、編集の川口さんを呼ばないとだね」


「そんな! また怒られます!」


「ヨイチさん、それはヨネコ先生が可哀想なのでやめてあげてください」


「そうですよ社長、可哀想です」


 すっかり絆されたミロクとフミに言われるまでもなく、ヨイチはヨネコが嫌がる事をしようと思った訳ではないが、さすがに少し注意すべきだと思った。シジュもそれを分かっているらしく、何も言わずに面白そうに見ている。


「ヨネダヨネコさん、自分の作品に対しての気持ちは分かるけれど、君は未成年だ。何かをする時には大人の許可を貰わないといけないんだよ」


「はい。ごめんなさいです」


 シュンとするヨネコに、フミはつい彼女の頭撫でてしまう。撫でられて嬉しそうなヨネコに、フミも笑顔になって場の雰囲気がホンワカモードになる。そんな二人をミロクは特に表情を変えずに見ていたが、内心フミの可愛さに身悶えして床を転がり回りたいのを必死に我慢している事を、ヨイチとシジュだけは知っている。これぞオッサンアイドル344(ミヨシ)の絆の深さであろう。


「まぁ、ドラマの話はうちの事務所でも検討中だから、今日は……ね」


 ヨイチの社長スマイルに、ヨネコは見惚れたままコクリと頷く。熟した男性の色香に慣れていない幼気な女学生は、耐性が足りないので色々と危なっかしい。フミが慌てて彼女とヨイチの間に立って防波堤の役割をする。


「さ、送りますよ先生!」


「ふぁ、ふぁい……」


 フワフワとした足取りに思わずミロクは支えようとするも、フミに目で制される。そのマネージャーの覇気?に気圧されたミロクは、そのまましばらく身動きが取れない。

 部屋を出て行く女子二人を黙って見送るオッサン三人。


「怖かったなマネージャー」


「うん。あの状態のフミは初めて見たよ」


「……」


 ミロクは固まったままだ。いつも優しいフミの怒りのようなものに初めて触れたであろう彼は、もしかしたらショックを受けているのかとヨイチとシジュは顔を見合わせる。


「ま、まぁ、そういう日もあるよな」


「そうだね。僕なんかしょっちゅう怒られているしね」


「……ヨイチさん」


「なんだい、ミロク君」


「これが、これがフミちゃんの家族とか近しい人に対する距離でしょうか! 可愛い! 凛々しい! 俺との距離が近づいた気がします!」


振り向いたミロクは目を輝かせ、テンションはグイグイと上がっている。それに反比例するようにテンションの下がるヨイチとシジュ。


「いや、俺は分かってた。この程度でミロクが落ち込むとかねぇよな」


「予想はしていたけどね」


 一緒にいる中で、ミロクの思考の大部分を理解してきたオッサン二人は、弟分のはしゃぐ姿に若干引きつつも「しょうがないなぁ」と笑って見ている。


「で、どうすんだ? やる? やらない?」


「その言い方は……ミロク君に任せるよ」


「ヨネダヨネコ先生は、まだ高校生です。俺の半分も生きていない」


「そうだね」


「その中で今回、勇気を振り絞って、ここまで来てくれたんだと思います」


 ヨネコは見るからにインドア派で、彼女と自分は内面が似ているとミロクは感じていた。家にいて安心できて、外に出るのが不安なタイプだろう。


「だから詳しい内容を聞いて、オーディションとやらに行こうと思います。344でとの事ですから、二人には迷惑をかけてしまうかもしれませんが……」


「お前がやるなら、俺はついて行く。最初からそのつもりだったぞ」


「僕も同じだよ。ミロク君について行った方が面白そうだからね」


「シジュさんヨイチさん、ありがとうございます」


 赤くなった目尻を隠すように、乱暴に目を擦って笑顔になるミロク。きっと新しい仕事に対して不安になるだろうが、二人が助けてくれると分かっているので、その辺彼は安心している。


「んで、ミロクは原作を読んだことあるんだよな。俺らが出るとしたら他に何の役があるんだ?」


「まぁ、学園ものなので、教師役とかですかね」


「シジュは体育の教師かな」


「えー、保険医がいい」


「なんかすごく男子生徒の敵みたいな保険医になりそうですね」


「どういう意味だよ」


「「エロスだから」」


 だからそれが意味分からねーんだよ!と怒るシジュ。戻って来たフミは三人の様子を見て、訳が分からないながらも「仲良し?」とほぼ正解の答えを導き出すのであった。






お読みいただき、ありがとうございます!

次回はオーディション……になるか?

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