138、前座で盛り上げまくる344。
何とか書けました!
コンテストの前座として、CMで使われていた曲すべてを歌って踊ることになっていた。
いつの間に出来ていたのか、曲に合わせてペンライトで踊るファン達がいるのは、これもサイバーチームの戦略なのかと思いきや、シジュがネットで振り付けを流していたらしい。
ポップで明るいミロクの曲にはノリが良く、覚えやすい振り付けが似合っていた。
サビとサビの間にある『囁き』部分は、毎回ミロクが考えて変えているのだが、今回は囁きではなくキスを連想させるリップ音だったのはファンにとって鼻血ものだったと思われる。
今年はCSで生放送もしているので、会場に来れなかったファンは、画面越しにミロクをアップを見ただろう。そしてお茶の間がどのような惨状になっているのか……言わずもがなである。
曲が終わった後もなお揺れるペンライトに、三人は嬉しそうに顔を見合わせた。
「おお、なかなか壮観だな」
「よく振り付けを覚えてきてくれたね」
「すごいです!」
曲と曲の間にヒソヒソ話す三人。その仲睦ましげな様子に観客からは再び歓声が上がる。
女性は男性同士が仲良さそうにしているのを見るのが好きらしいというのは、さすがに三人も分かってきていた。過去に同性からそういう対象として見られたことのあるシジュは、正直微妙な気持ちだったが、逆の立場だと気持ちが少し分かるので、最近は受け入れつつある。
シジュの曲『chain』には当初無かったが、今回から三人が絡むような振り付けに変えている。
『もしも俺を捕えるなら』
ミロクがシジュの腰に自分の腕を絡ませて踊る。勿論痛む右手に触れないようにしながらだが、シジュも器用にミロクを庇いながら踊る。
『もしも俺を縛るのなら』
シジュの首にヨイチは自分の腕を絡ませ妖しく微笑む。二人の腕の動きに自分の腕を絡ませる複雑で繊細な振り付けは、シジュ独自のものだ。
『毎日でもお前が欲しい
嫌という程甘えさせて』
二人は離れてシジュは悲しげな顔をする。そんな彼に女性陣からは何度もシジュを呼ぶ声が上がる。
『中途半端な優しさで
俺の心を乱さないで
ゼロか百かの愛情を
子供のように求めている』
明るいミロクの曲とは違い、大人の色気を感じる曲調はシジュの少し掠れた声に似合っていた。赤のペンライトが会場の立ち見席から振られ、曲が終わるとともにその方向に手を振るシジュ。
続けてヨイチメインの曲が流れ、三人の衣装が変わる。
シャイニーズ仕込みの早着替えはヨイチにとってお手の物であり、その早着替えをすることをシャイニーズの社長公認で許されているのは、彼の人柄なのか。他の何かなのか。
フロックコートのような衣装を身に纏った三人は、再び湧き上がる歓声に揃ってターンを決めて客席に笑顔で手を振る。関係者席からも感嘆の声が上がるのを感じ取ったヨイチが、してやったりと悪い笑顔で微笑む。
歌に入ると前の二曲とは違い、バラードでしっとりと歌い上げるヨイチは、響くバリトンの声とファルセットを上手く使って観客を虜にしていく。
『君が僕を「いい人」と言う度に
少しずつ剥がれ落ちる欠片ピースを
集めて、固めて、そして出来上がった
もう一人の僕も君を想うのかな
いつか君の側に、そう願っている
離れたくせに、そう想っている
君は怒るだろうな
そして最後に、笑ってくれたらいい』
歌い上げる三人。その中でもミロクの切なげな表情に、女性陣の母性本能がキュンキュンと反応しているようだった。色々なアクシデントはあったが、それにとらわれずに今回の仕事をこなせるミロクは、もう立派な『プロ』だと言えるだろう。
最後の一小節を歌い上げると、三曲が終わり照明が落ちる。ライブ終了と思われたその時、鈴の音とピアノのメロディーが流れてくる。
その曲は冬の、そしてクリスマスを連想させるメロディーラインだ。
戸惑う観客とファンの中、男性を中心に反応が見られる所から、どうやらカバー曲らしいと想像できる。
「これ、学園アイドルカーニバル……アイカーの曲?」
その声に頷く人々と、知らないながらもその曲と彼らの歌声に聞き惚れるファンも多く見える。
振り付けはアニメで流れたものを上手く取り入れていた。衣装であるコートの長い裾をひらめかせ、ターンで場所を入れ替えつつ踊る三人。
女性用の可愛い振り付けが何とも言えないギャップを生じさせているが、それが不思議と面白く、彼らを魅力的に感じさせていた。
ラストの再び聴こえる鈴の音に、照明はゆっくりと落ちていき彼らの後ろだけライトを残し、シルエットを見せた状態で終了した。
パッと明るくなった会場内に、舞台にいる三人は呼吸を乱し、汗だくになってぺこりとお辞儀をした。
同時に顔を上げ、元気良く声を張り上げる。
「ミロクです!三十六歳です!」
「ヨイチ!四十一歳!」
「シジュ!四十歳だ!」
「三人そろって……」
「「「344(ミヨシ)です!よろしくお願いします!」」」
大きな拍手と共と彼らの名を呼ぶファン。その声を聞いてファン以外からも声援が飛び交う。
「うわぁ、嬉しいです!ありがとうございます!」
「僕らはオッサンなアイドルとして、少し前にデビューしたんだけど、今回はこんな大きい舞台に出れるって、驚いているんだよね」
「ガールのコンテストなのに、いいのかと思ったけどな」
「化粧品のCMもらえたおかげですよね」
「ミロク君は化粧するのに抵抗あったみたいだけど、やって良かったね」
「今はもう慣れましたよー」
「目覚めたな。ミロク」
ドッと笑いが起きる観客席からも「姫な王子も可愛い!」という声が上がり、ミロクは頬を膨らませて「王子も姫もヤダ!」と言うものだから、再び笑いが起こっていく。
「こんな僕たちだけど、栄誉あるこの『エルル・ガールコンテスト』のオープニングアクトを飾れて、感謝しているよ」
「いつも応援してくれるファンの子たち、そして今日知り合えたかわい子ちゃん達、これからも344(ミヨシ)を応援してくれよな!」
「これからも俺たちをよろしくお願いします! せーの!」
「「「344でした!!」」」
再び同時にお辞儀した三人に、会場はおおいに盛り上がった。
こうして彼ら『オッサンアイドル』はコンテストの前座を何とか乗り切ったのである。
ちなみに。
フルコーラスではないとはいえ、四曲連続で歌い上げたオッサン達。
この中で一番体力のないミロクは、舞台を降りてフミの顔を見た瞬間高熱で倒れてしまい、さらに彼女に怒られる苦行が後日待っているのであった。
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