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137、エルル・ガールコンテストの開催。

遅くなりました。

(やってしまった……)


本番五分前の舞台裏で、ミロクは一人頭を抱えて身悶えていた。

344(ミヨシ)のメンバーであるシジュに泣きついたのは(シジュ側の意見は聞かないこととして)良しとする。

問題は、ミロクが初めてフミの怒りや悲しみという激しい感情に触れて、あり得ない位に取り乱した事であった。


(自分の感情がまったくコントロール出来なかった……)


ただ自分を格好良く見せたかった。

彼女よりも年上……年上過ぎる自分が持てる武器といえば、「大人」であり「頼れる男」であることだと思っていた。


(それなのに俺ってやつは……)


悶えていたかと思うと唸り始めるミロクを、ヨイチとシジュは呆れた顔で見る。


「おいミロク、本番はもうすぐだぞ」


「ミロク君は本番前なのに余裕だね。フミの手当てが良かったのかな?」


その名を聞いて思わず顔を赤らめるミロク。

あれから涙目で怒る可愛らしいフミが、丁寧に湿布を貼ってくれるのを思い出す。


(あれは可愛かった。ヤバかった。何がとは言わないがヤバかった)


「おーい。ミロクー、起きろー」


「ミロク君、そろそろ気合入れてくれないとだよ」


やっと顔を上げたミロクの目に入ったのは、苦笑するヨイチと心配そうにこちらを見るシジュだった。そしてシジュだけ衣装が違うのに気づく。


「あれ?シジュさん中にシャツ着ないんですか?暑いですか?」


「ああん?」


一瞬眉間にしわを寄せたシジュは、ツカツカとミロクの近くまで来て拳骨で彼の頭をグリゴリと小突く。


「お・ま・え・が、襲い掛かってボタン引きちぎったんだろうが!」


「あ、そういえば……そんな記憶があるような?」


「幼児退行ミロク君は可愛かったね」


「オッサンは真っ先に逃げやがったくせに」


やいのやいのと言い合うオッサン達に、周りのスタッフは少し不安になる。このコンテストは数ある中でも有名な部類のものであるため、事務所や企業のお偉方がわんさかいるのだ。

今回は協賛企業の大手化粧品会社からの推薦もあり、この三人がオープニング・アクトを務めることとなったが、実際は反対する者も多かったと聞く。

それでも某大物プロデューサーの一言で結局彼らに決まったようだが、オッサン達の様子を見ると少しの不安がだんだん大きくなってくるのをスタッフ達は感じていた。


「344(ミヨシ)の皆さん、照明が消えたら舞台へ出てください!」


「「「はい」」」


瞬間、彼らの纏う雰囲気ががらりと変わる。

先ほどまでの三人とは思えない凛とした空気は、その周りのスタッフに冷やりとした汗をかかせるほどだ。

照明が暗くなり、三人は音も立てずに舞台へと出て行った。







流れる化粧品のCM。

後姿の三人の女性の肩口に顔をうずめる男性三人が、大型の液晶画面にそれぞれ映し出される。

画面越しにも心臓に悪そうな挑戦的な視線と漂う色香に、会場の多くの女性達は熱い吐息を漏らす。

『エルル・ガール』であるため男性の方が多いような気もするが、女性モデルの周りには女性が集まりやすい。だが今回は大きいコンテストのファイナルであるため、会場には男性もそれなりにいる。


CMが終わるとともに、その画面がカメラの映像と切り替わり、スポットライトが舞台を照らす。

湧き上がる歓声に三人は少し驚いた顔を見せるも、すぐに笑顔になるその素直な彼らに、さらに会場は盛り上がった。

ミロクは黒いシャツにかっちりとした白の軍服のようなデザインの上下を着ている。金の縁取りがライトに反射して煌くのと甘く微笑む様子が『王子様』という感じを如何なく発揮している。

ヨイチは青のスーツで白いシャツに黒のタイが良く似合っている。穏やかな笑みに惹きこまれる女性客の多くは同時に冷たさも感じて、その危険な香りにも夢中になっていくようだ。

シジュはその日焼けした素肌に、直接着ている赤を基調としたスーツがとても映えていた。少し垂れたその目は、どんなに怖い顔をしていてもその目で、彼を優しげに見せてしまうだろう。会場にいる小学生くらいの観客は、初めて見たはずの彼に夢中になってしまっている。さすがである。

立ち見の観客は、事前の観覧申し込みをした344(ミヨシ)のファン倶楽部の会員らしい。それぞれ白、青、赤のペンライトを持っているのは、彼らのイメージ色だろうか。今日の衣装にも合っているのも事前の情報だろうか。如月事務所サイバーチームの仕事の素晴らしさは限界がない。


アカペラで歌い出すミロクの甘く響くテノールに、ヨイチとシジュのコーラスが入る。

デビュー曲である『puzzle』は、ミロクにとって思い入れのある曲だ。なりゆきのままアイドルとなって、ラジオの企画で作詞ししたその内容は、当時の気持ちを思い出させる。


『僕は君に恋をした。そんな簡単な話じゃない。

恋はするものじゃない、落ちるものでもないんだよ。


僕はハマってしまった。君にハマってしまった。

それはもうぴったりと、隙間のないパズルのように』


あの時願った事は、ずっと一緒にいれたらいいという事だった。それ以上は望まなかったし、彼女が幸せならそれで良いと。

しかし、そこに矛盾が生じているのに気づいてしまった。自分が彼女の傍にいることで彼女が幸せじゃなかったらどうするのか。

ずっと一緒にいたいし離れたくないのが第一だ。そして彼女には幸せになってもらいたいのも第一の願いだ。


『君は僕に恋をする?そんな都合のいい話?

恋は一人でも出来る。そうやって自分を慰める。


僕はハマってしまった。君にハマってしまった。

二つで完成するパズル、それが君と僕ならいい』


歌いながら舞台の横にいるフミを見つけたミロクは、その心配そうな顔をみてひどく安心する。


(心配でも何でもいい、彼女の心に居られるのなら)


彼女に向けてふわりと微笑んだミロクは、再び会場へと意識を向けるのであった。






お読みいただき、ありがとうございます。


iPADさんが壊れたので、直るまで四苦八苦すると思われます。

本人は元気なので、ネットカフェから更新です。

更新遅れがちですみません。よろしくお願いします。

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