122、弥勒と文化祭の内容。
文化祭のシーズンでしたね。
高校の文化祭へのゲスト参加。
そもそもミロクは学校行事に関わった経験がない。幼い頃からイジメを受けていた彼は、参加したくても出来なかった。むしろ参加せずに静かな時間を過ごせる貴重な期間でもあった。
クラスの注目がイベントへ向くということは、イジメをする暇もなくなるということだから、ミロクにとって学校行事は待ち望んでいるものではあった。
それを話すと場が妙な雰囲気になるだろうと、ミロクはメンバーの前では黙っていたが、ヨイチは真紀とやり取りする中でゲスト参加でも「生徒と一緒に文化祭を楽しむ」という方向に持っていくと言った。
大体ミロクの過去話を聞いているから、ある程度の予想は出来るのだろう。
「真紀さんの妹さんは生徒会の役員らしい。文化祭実行委員と生徒会役員の出し物として『執事・メイド喫茶』をやるそうだよ」
「 執事って、あれか? 『お嬢様、おかえりなさいませ』とか言うやつか?」
「シジュさんよく知ってますね」
「ホスト時代、店のイベントとかでそういうのやったんだよ。だから妙にそういう演技が上手くなっちまってな」
「それなら、そこら辺はシジュに任せるよ。マニュアル作っといてね」
「うわっ! 面倒な事になった!」
藪蛇だったかと、シジュは苦虫を噛み潰したかのような顔をしている。そんな彼に穏やかな笑顔で「まさか断らないよね」というオーラを出すヨイチ。 そんな二人に気付かず、ミロクはふと疑問を口にした。
「俺たち三人が執事になるんですか?」
「うーん。僕はインテリ執事で、シジュはワイルド系執事。ミロク君は執事見習いってところかな?」
「俺は見習いですか? 確かに、執事とかよく分からないので助かりますけど」
「辿々しいのが良いという客もいると思うぞ」
「なるほど。ニーズに応えるってやつですね」
「それで、最終日は舞台でライブをやるよ。喫茶店でもその宣伝をして、最終日に生徒をたくさんにしてライブをやるって流れになる」
「それって、何だかすごく楽しそうですね!」
まるで自分達の文化祭をやるような流れに、ミロクは少しずつワクワクしてきたようだ。そんな彼の様子にヨイチは嬉しそうに微笑む。
「僕らのファンを増やすっていうことにも繋がるから、頑張らないとね」
「自分達で客を集めてライブやる感じ、なんか昔を思い出すな」
滅多に昔のことを口に出さないシジュの発言に、二人は驚くも彼の穏やかな表情にもう大丈夫だと安堵する。
この前の勘違い女とやり合ったことで、シジュは過去を清算出来たのかもしれない。良い傾向だとヨイチは思いながら、三人が話しているのを静かに聞いていたフミと真紀の方を向く。
「それで、我ら344の担当マネージャーのフミも、一応メイドの格好をしてもらうから」
「え? ええええ!? なんでですか!?」
「文化祭実行委員も生徒会も、当日は色々忙しくなるだろうから出来れば裏方を交代でやりたいと言ってたよ。そうしたら『執事・メイド喫茶』の『メイド』が抜けてしまうでしょ?」
「そんな!!」
「大丈夫。真紀さんもやってもらうから」
「そうだよフミ。私は妹のために、ひと肌もふた肌も脱ぐんだよ。だからフミも自分の担当アイドルのためにひと肌ふた肌脱いで、脱いだらメイド服を着るがいいよ」
「意味がわからないよ!!」
悟ったような目をして語る真紀に、フミは涙目で抗議をするもヨイチは聞き入れることはなく、ミロクは頬を染めて「フミちゃんのメイド服姿……」などと陶酔状態で話にならない。シジュはニヤニヤした顔で黙ったまま傍観者の立場を貫く姿勢だ。
「諦めなよ。フミ」
「うう……」
こんなのはマネージャーの仕事じゃないと嘆くフミだが、ミロクの天使のような邪気のない笑顔で「楽しみだね!」と言われると、つい釣られて笑顔で頷いてしまうのであった。
打ち合わせ終了後、そのまま会議室に残ってノートパソコンと向き合うヨイチ。そこに音もなくドアを開けてフミがそっと顔を覗かせる。
「叔父さん、いい?」
「いいよ。どうしたのかな?」
ヨイチはキーボードを打つ手を止めて顔を上げる。穏やかな笑みを浮かべ、叔父の顔でフミに接するのは「叔父さん」と呼ばれたからだ。
「今回の文化祭の話、真紀ちゃんから受けることにしたのは、ミロクさんのため……なんだよね?」
「そうだよ。ミロク君のフェロモンがコントロール出来ているか検証しないとって言ったでしょ?」
「ううん、そういう事じゃなくて」
困ったような顔で俯くフミに、ヨイチは小さく息を吐くと「大丈夫だよ」と言った。
「僕もシジュもフォローするし、フミも真紀さんもいる。心配することはないよ」
立ち上がったヨイチは、俯くフミのそばに来ると顔を覗き込んで目を合わせる。
「それにね、こうやって色々経験することが、彼にとって良いことだと思う。守るだけじゃ彼のためにならないだろう?」
「……はい」
「フミ、彼を信じてあげなさい」
ハッとして顔を上げたフミに、ヨイチはニッコリと笑ってみせる。そんな自分の叔父の顔は相変わらず整ってて格好良い。
(そういえば、初恋は叔父さんだったなぁ)
なぜかそんな事を思い出しながら、フミは今度はしっかりとヨイチの目を見て「はい」と言った。
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